K馬日記

映画や美術、小説などの作品鑑賞の感想を徒然なるままに綴っていきます。

サミュエル・ベンシェトリ『アスファルト』

2017年09月14日 | 映画
おはようございます。いよいよ夏が終わり、涼しい秋の季節がやってきましたね。紅葉には露ほどの興味もありませんが、過ごしやすくなるのは嬉しいです。

今回は、サミュエル・ベンシェトリ監督の『アスファルト』で更新です。
今話題の『エル』で主演を務めるイザベル・ユペールが本作でも主役を演じています。




《Story》
舞台はエレベーターの壊れたフランス、郊外のおんぼろ団地。不器用だが愛すべき6人の男女に突然舞い降りた思いがけない奇跡の出逢い。そのとき何の変哲もない灰色がかったモノトーンの箱から一人一人の人生が色鮮やかにあふれ出す。(「映画『アスファルト』公式サイト」より)


曇天の街の中、団地で起きる6人の男女の群像劇。老朽化したピカソ団地に入居する3人の男女はどこか満たされない想いを抱いていました。



例えば……シャルリは母親の愛情に飢え、例えば……スタンコヴィッチは想い人を失った喪失感に暮れ、例えば……マダム・ハミダは監獄の中の息子に想いを馳せている。そんな閉塞感に包まれた3人が、各々に不足な要素を埋めるような相手に偶然にも出会います。

シャルリの隣には落ち目の女優ジャンヌが短期入居し、シャルリは年上の女性と懇意になっていきます。スタンコヴィッチは深夜の病院で翳のあるナースと出会い、密かに心惹かれていく。そしてハミダの元にはなんと宇宙飛行士ジョンが舞い降りてきます。言葉が通じないながらも、息子の代わりのように、母性的な愛情をジョンに注ぎます。







自身の漠とした欲求不満を満たしてくれる相手に出逢いながらも、それぞれの関係はどこかギクシャクしながら(嘘をついていたり、言葉が通じなかったりなど)進行していきます。
そうした人間関係の不協和音は、作中に頻出するギィーという奇妙な金属音に暗示されるのですが、その不協和音の正体が何でもない日常の音だったと判明する結末は考えさせられる演出です。
個人が不安に感じていることは実は些末な事柄だった、なんてことは良くある話ですしね。

徐々に相手のことを理解し始める3組の男女。ラストシーン、宇宙飛行士を乗せて飛び立つヘリコプターを見上げる登場人物たち。
坂本九ではありませんが、閉塞した人生の中でも、空を見上げるという姿勢の美徳を説いているようですね。



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