こんばんは。秋といえば読書の秋!ということで、久しぶりに小説ネタです。
昨年末に読み終えた小説、上田岳弘さんの『私の恋人』を紹介します。
アメトークの読書芸人でピースの又吉さんが推薦していた本です。人生の3週目に入った主人公という設定が気になって試し読みし、冒頭で引き込まれて購入してしまいました。
《Story》
時空を超えて転生する「私」の10万年越しの恋。
旧石器時代の洞窟で、ナチスの収容所で、東京のアパートで、私は想う。この旅の果てに待つ私の恋人のことを――。アフリカで誕生した人類はやがて世界を埋め尽くし「偉大なる旅」一周目を終える。大航海時代を経て侵略戦争に明け暮れた二周目の旅。Windows95の登場とともに始まった三周目の旅の途上で、私は彼女に出会った。(新潮社ウェブサイトより)
あらすじを読んでも何が何だかさっぱりわからないかと思いますが、人生を転生する超越した存在である主人公「私」の物語です。
彼の作品は『太陽・惑星』も先日読みましたが、SF小説としてかなり完成度が高い!昔星新一のショートショートを読み漁っていた私にドンピシャな小説です。
「私」は当初最も優れた形でクロマニヨン人として生まれ、二度目はユダヤ人のハインリヒ・ケプラーとして転生しナチスの迫害を受け、三度目に井上由祐として転生する。
傑出したクロマニヨン人であった「私」は、知能の発達の違いから洞窟でひとり孤独に生活し、「未来の世界に息づく一人の女性」に想いを馳せます。彼は転生を繰り返しながら、意中の「膨大な時を経て複雑化する人間社会、その未来像に住む麗しい女」を探し求めます。
三度の転生は、三つの旅と並行して描かれます。一周目は、アボリジニの征服に終わる物理的居住地の拡大を目的とする旅。二周目は、世界大戦を軸にした世界のルール規定で1945年に終わった旅。そして現在は、1995年のWindows95発売を大きなきっかけとした三週目の旅路の途中であるという設定でした。
個人が使用するデバイスは勿論、ものづくりのIndustrie4.0にも代表されるように、急速なIT化があらゆるところで起きています。そうした現状を第三の旅と設定し、その旅が終わる終着点を意識させる批判性も持ち合わせていました。
「侵略」によって完結した一周目の旅、「戦争」によって終結した二周目の旅、三周目の旅はフィジカルな側面ではなくデジタルによる「人々の内的世界」の取り合いになるというのが本作の論旨です。
ではデジタル化が究極に進んだ三周目の旅の終着点で起きることとは……!気になる方はぜひ読んでみてください。最近流行りのワードが答えです。
人類愛を感じさせる話そのものももちろん面白いんですが、より面白かったのは日本的な私小説における可能性が拡大した点です。
「私」は、クロマニヨン人であり、ユダヤ人のハインリヒ・ケプラーであり、日本人の井上由祐でもあり、そして「私の恋人」もまた三度に渡って転生をしている。10万年以上続くこうしたラブロマンスは、この多層的「私」によって到達しうるのです。
第28回三島由紀夫賞受賞作。とても面白かったです。蓮實重彦の『伯爵夫人』も早く読んでみたいな。
昨年末に読み終えた小説、上田岳弘さんの『私の恋人』を紹介します。
アメトークの読書芸人でピースの又吉さんが推薦していた本です。人生の3週目に入った主人公という設定が気になって試し読みし、冒頭で引き込まれて購入してしまいました。
《Story》
時空を超えて転生する「私」の10万年越しの恋。
旧石器時代の洞窟で、ナチスの収容所で、東京のアパートで、私は想う。この旅の果てに待つ私の恋人のことを――。アフリカで誕生した人類はやがて世界を埋め尽くし「偉大なる旅」一周目を終える。大航海時代を経て侵略戦争に明け暮れた二周目の旅。Windows95の登場とともに始まった三周目の旅の途上で、私は彼女に出会った。(新潮社ウェブサイトより)
あらすじを読んでも何が何だかさっぱりわからないかと思いますが、人生を転生する超越した存在である主人公「私」の物語です。
彼の作品は『太陽・惑星』も先日読みましたが、SF小説としてかなり完成度が高い!昔星新一のショートショートを読み漁っていた私にドンピシャな小説です。
「私」は当初最も優れた形でクロマニヨン人として生まれ、二度目はユダヤ人のハインリヒ・ケプラーとして転生しナチスの迫害を受け、三度目に井上由祐として転生する。
傑出したクロマニヨン人であった「私」は、知能の発達の違いから洞窟でひとり孤独に生活し、「未来の世界に息づく一人の女性」に想いを馳せます。彼は転生を繰り返しながら、意中の「膨大な時を経て複雑化する人間社会、その未来像に住む麗しい女」を探し求めます。
三度の転生は、三つの旅と並行して描かれます。一周目は、アボリジニの征服に終わる物理的居住地の拡大を目的とする旅。二周目は、世界大戦を軸にした世界のルール規定で1945年に終わった旅。そして現在は、1995年のWindows95発売を大きなきっかけとした三週目の旅路の途中であるという設定でした。
個人が使用するデバイスは勿論、ものづくりのIndustrie4.0にも代表されるように、急速なIT化があらゆるところで起きています。そうした現状を第三の旅と設定し、その旅が終わる終着点を意識させる批判性も持ち合わせていました。
「侵略」によって完結した一周目の旅、「戦争」によって終結した二周目の旅、三周目の旅はフィジカルな側面ではなくデジタルによる「人々の内的世界」の取り合いになるというのが本作の論旨です。
ではデジタル化が究極に進んだ三周目の旅の終着点で起きることとは……!気になる方はぜひ読んでみてください。最近流行りのワードが答えです。
人類愛を感じさせる話そのものももちろん面白いんですが、より面白かったのは日本的な私小説における可能性が拡大した点です。
「私」は、クロマニヨン人であり、ユダヤ人のハインリヒ・ケプラーであり、日本人の井上由祐でもあり、そして「私の恋人」もまた三度に渡って転生をしている。10万年以上続くこうしたラブロマンスは、この多層的「私」によって到達しうるのです。
第28回三島由紀夫賞受賞作。とても面白かったです。蓮實重彦の『伯爵夫人』も早く読んでみたいな。
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