ご無沙汰しておりました。トルコ語の勉強に追われ、受験生のような気分のただけいまです。
今回は少し前になりますが、『ヒューマン・フロー 大地漂流』の鑑賞録をば。
中国を代表する現代アーティストのアイ・ウェイ・ウェイが初の映画を撮るとのことで鑑賞。題材は作家性でもある難民問題。
同じく難民をテーマにしたジャンフランコ・ロージの『海は燃えている』も傑作だったし今回も傑作の予感!とハードルを上げての鑑賞でしたが、見事に期待を越えた大傑作でした!
( 『海は燃えている イタリア最南端の小さな島』の記事はこちら)
《Story》
難民たちが辿り着くギリシャの海岸、四方八方の国に散るシリア難民、ガザに封鎖されるパレスチナ人、ロヒンギャの流入が止まらないバングラデシュ、ドイツの空港跡を利用した難民施設、アメリカとメキシコの国境地帯など、23カ国40カ所もの難民キャンプを巡り、彼らの旅路をなぞってカメラに収めたのは、中国の現代美術家であり社会運動家としても活躍するアイ・ウェイウェイ。11年米タイム誌の「世界で最も影響力のある100人」に選出され、その力強い美術的主張が注視される彼が、祖国を追われ地球上を逃げ惑う人々の日常に肉薄する。
(「映画『ヒューマン・フロー 大地漂流』公式サイト」Introductionより抜粋)
これほど濃厚な社会派ドキュメンタリー映画は、マシュー・ハイネマン監督の『カルテル・ランド』以来かもしれません。
両作ともに、なるべく多くの人に観てほしいと願わずにはいられない作品でした。
『カルテル・ランド』の記事はこちら
難民問題。シリア難民、パレスチナ難民、ロヒンギャ難民、ソマリア難民、数多くの難民が厳しい生活を強いられている。
それは事実として多くの人が認識している中で、実態まで把握している人はどれだけ居るでしょうか。
難民地区でも子供たちはサッカーをし、女性たちは社会進出を求めているのです。
アイ・ウェイ・ウェイが現地に乗り込み、さまざまな移民問題を実際の現地での映像と世界的に信頼のある媒体の言葉とともに紹介します。
現代美術家としての側面
本作の特長として一つ言えることは、監督に美術家としての側面があるために、とてつもなく美しいカットが頻繁に挿入されることです。
各地域の俯瞰映像や杉本博司の絵画を思わせる水平線、異世界かと思わせる紛争地の様子など、目を奪われ続ける2時間半でした。
ちょうど先日も『カタストロフと美術のちから展』にて、多くの難民が放浪する現代を古代ギリシア時代に準えた美術作品が展示されておりました。
艾未未《オデッセイ》(2016/2018)
(『カタストロフと美術のちから展』の記事はこちら)
この美しい映像の数々が、本作を特別な作品に仕立てていると言えるでしょう。悲劇が美しさとともに深く胸を打つ作品です。
俯瞰する世界の態度
俯瞰のショットが多用されていることも本作の特長のひとつでしょう。
まずは冒頭の海を俯瞰するファーストカット。一羽の白い渡り鳥が飛び、難民を乗せた船が通過る印象的なカット。"migrate"を象徴するカットが、この物語のテーゼを提示します。
そして、各地の難民たちが走り回る様子を上空から捉えた俯瞰ショット。平面上を頭が縦横無尽に動き回るシーンは圧巻です。
これらは安直な手法ながら、世界を平坦に、無関心に眺める私たちの態度を象徴するかのようです。
そして最後もまた俯瞰のショットで締めくくられます。今度は移民のために使用された夥しい量の救命胴衣。不気味な死体のようにも映ります。
多数の難民が事実を知りながら、何も行動を起こさない私たちの視点そのものではないでしょうか。
但し、そうした社会問題に対して真摯に取り組む人々の姿も映し出されます。彼らやメディアの言葉が本当に胸を打つ。
トルコは世界最大の300万人を収容する移民キャンプを有し、ヨルダンの女王は人道的精神で多くの移民を受け入れる。アフリカもパキスタンも、決して豊かな国ではないが移民を受け入れる。自らの信条がために。
あまり強い言葉を使いたくはないですが、久しぶりに全人類に観てほしいと願える、そんな作品でした。
今回は少し前になりますが、『ヒューマン・フロー 大地漂流』の鑑賞録をば。
中国を代表する現代アーティストのアイ・ウェイ・ウェイが初の映画を撮るとのことで鑑賞。題材は作家性でもある難民問題。
同じく難民をテーマにしたジャンフランコ・ロージの『海は燃えている』も傑作だったし今回も傑作の予感!とハードルを上げての鑑賞でしたが、見事に期待を越えた大傑作でした!
( 『海は燃えている イタリア最南端の小さな島』の記事はこちら)
《Story》
難民たちが辿り着くギリシャの海岸、四方八方の国に散るシリア難民、ガザに封鎖されるパレスチナ人、ロヒンギャの流入が止まらないバングラデシュ、ドイツの空港跡を利用した難民施設、アメリカとメキシコの国境地帯など、23カ国40カ所もの難民キャンプを巡り、彼らの旅路をなぞってカメラに収めたのは、中国の現代美術家であり社会運動家としても活躍するアイ・ウェイウェイ。11年米タイム誌の「世界で最も影響力のある100人」に選出され、その力強い美術的主張が注視される彼が、祖国を追われ地球上を逃げ惑う人々の日常に肉薄する。
(「映画『ヒューマン・フロー 大地漂流』公式サイト」Introductionより抜粋)
これほど濃厚な社会派ドキュメンタリー映画は、マシュー・ハイネマン監督の『カルテル・ランド』以来かもしれません。
両作ともに、なるべく多くの人に観てほしいと願わずにはいられない作品でした。
『カルテル・ランド』の記事はこちら
難民問題。シリア難民、パレスチナ難民、ロヒンギャ難民、ソマリア難民、数多くの難民が厳しい生活を強いられている。
それは事実として多くの人が認識している中で、実態まで把握している人はどれだけ居るでしょうか。
難民地区でも子供たちはサッカーをし、女性たちは社会進出を求めているのです。
アイ・ウェイ・ウェイが現地に乗り込み、さまざまな移民問題を実際の現地での映像と世界的に信頼のある媒体の言葉とともに紹介します。
現代美術家としての側面
本作の特長として一つ言えることは、監督に美術家としての側面があるために、とてつもなく美しいカットが頻繁に挿入されることです。
各地域の俯瞰映像や杉本博司の絵画を思わせる水平線、異世界かと思わせる紛争地の様子など、目を奪われ続ける2時間半でした。
ちょうど先日も『カタストロフと美術のちから展』にて、多くの難民が放浪する現代を古代ギリシア時代に準えた美術作品が展示されておりました。
艾未未《オデッセイ》(2016/2018)
(『カタストロフと美術のちから展』の記事はこちら)
この美しい映像の数々が、本作を特別な作品に仕立てていると言えるでしょう。悲劇が美しさとともに深く胸を打つ作品です。
俯瞰する世界の態度
俯瞰のショットが多用されていることも本作の特長のひとつでしょう。
まずは冒頭の海を俯瞰するファーストカット。一羽の白い渡り鳥が飛び、難民を乗せた船が通過る印象的なカット。"migrate"を象徴するカットが、この物語のテーゼを提示します。
そして、各地の難民たちが走り回る様子を上空から捉えた俯瞰ショット。平面上を頭が縦横無尽に動き回るシーンは圧巻です。
これらは安直な手法ながら、世界を平坦に、無関心に眺める私たちの態度を象徴するかのようです。
そして最後もまた俯瞰のショットで締めくくられます。今度は移民のために使用された夥しい量の救命胴衣。不気味な死体のようにも映ります。
多数の難民が事実を知りながら、何も行動を起こさない私たちの視点そのものではないでしょうか。
但し、そうした社会問題に対して真摯に取り組む人々の姿も映し出されます。彼らやメディアの言葉が本当に胸を打つ。
トルコは世界最大の300万人を収容する移民キャンプを有し、ヨルダンの女王は人道的精神で多くの移民を受け入れる。アフリカもパキスタンも、決して豊かな国ではないが移民を受け入れる。自らの信条がために。
あまり強い言葉を使いたくはないですが、久しぶりに全人類に観てほしいと願える、そんな作品でした。
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