K馬日記

映画や美術、小説などの作品鑑賞の感想を徒然なるままに綴っていきます。

『それでも、夜は明ける』

2014年04月20日 | 映画
思ったよりも早い更新。
無事に24歳を迎えましたただけーまです。
年男(としおとこ)ですので、今年も良い1年にしたいですねえ。

名古屋生活も一周年を迎えまして、あと1年で東京に帰任する予定です。意外と早かったなーと思う時もあれば、ああ、あんなことやこんなことがあったし去年の今頃はこうだったなあとか考えると、随分と長い間ぼくは東京に離れているのだと痛感もしたり。卒業旅行や卒業式からまだ1年ちょいしか経ってないと考えると、本当に長かったような気がしますし、 2014年も始まってもう3分の1が終わろうとしているということを考えると、いやはや光陰矢のごとしという諺も納得の一言だわ~とも思ったりなどします。仕事が忙しい最近は本当に時が経つのが早いですね。

そういえば、子どもの頃(大体小学生ぐらい)は24歳には結婚しているのが当然だと何となく思っていましたね。気づいたら独身のまま30突破とかいうことは無いようにしたいもんです。


前置きはさて置き。


今回は第86回アカデミー作品賞を受賞した『それでも、夜は明ける』の感想をつらつらと。
これも先々週に観た映画で、場所は「伏見ミリオン座」です。そう、その日は前回記事にした『アデル、ブルーは熱い色』を観た日でもあるのです。一日にアカデミー作品賞とパルムドールを観るという贅沢で素晴らしい日でした。※1人で観たことはあまりにも自m(ry
過去に記事→『アデル、ブルーは熱い色』

やっぱり賞の性質がカンヌとアカデミーでは全く違いますね。個人的には真逆と言ってもいいぐらいです。『ツリー・オブ・ライフ』と言い、『愛、アムール』と言い、パルムドールは本当に芸術色の濃い映画に焦点を当てる傾向が強いですね。『アデル、ブルーは熱い色』もシナリオの構成が「芸術的」と形容するほど見事でしたし、こういう賞があるからこそ大衆に拘らないエステティックな映画の制作が廃れないのだと考えると個人的に非常に好感の持てる賞です。

さて、ということで今回はアカデミー賞なわけですが、本作品非常に面白かったです。
アカデミー賞では9部門にノミネートされ、作品賞、助演女優賞、脚色賞の3部門を受賞しています。
未だにセンシティブな問題に触れたスティーヴ・マックイーン監督、助演女優賞を受賞したルピタ・ニョンゴ、鬼気迫る演技を見せてくれた主演のキウェテル・イジョフォー、2時間全く飽きることなく観ることが出来ました。プロットの構成も非常に巧みで、作品賞を受賞も納得の作品です。

それでは、本作の具体的な考察(=感想)に移っていきます。
※以下、多分にネタばれなので「観るかも……」という方は左上の[戻る]ボタンをクリック!


[あらすじ]
1841年、奴隷制廃止以前のニューヨーク、家族と一緒に幸せに暮らしていた黒人音楽家ソロモン(キウェテル・イジョフォー)は、ある日突然拉致され、奴隷として南部の綿花農園に売られてしまう。狂信的な選民主義者エップス(マイケル・ファスベンダー)ら白人たちの非道な仕打ちに虐げられながらも、彼は自身の尊厳を守り続ける。やがて12年の歳月が流れ、ソロモンは奴隷制度撤廃を唱えるカナダ人労働者バス(ブラッド・ピット)と出会い……。


本作品は南部の農園に売られた黒人ソロモン・ノーサップが、12年間の壮絶な奴隷生活をつづった"12 years a Slave"という伝記を基に制作された実話に基づく作品です。実際にこんなことが行われていたのかと思うと、非常に胸が痛くなる思いというか、むしゃくしゃするというか、やるせなくなるというか、歴史映画の持つある種の教訓的機能も多分に含む作品になっています。


1.「黒人奴隷」という繊細なテーマ
未だにネオナチやKKK関連の活動がある中、本作は社会的にも意味のある作品のように思われます。かなり暴力的なシーンが多く、年齢制限が設けられるのも納得の凄惨さがあります。理不尽な暴力・むち打ちは当然のこと、女性は性の慰み者になるわ、オークションで人が物のように扱われるわ、もう観てるこっちがギブアップしたくなるくらい痛ましい描写が多いわけですが、単純な疑問としてこれを観た黒人の人たちはどう思うのだろうと感じました。
そういう意味で、今回の作品は「制作したこと」自体がすでに偉業なのではないかという錯覚すら覚えます。ぼくは生粋の日本人"ザ・ドメスティック・オブ・ドメスティック"なので、白人の黒人に対する感覚とか、黒人の白人に対する感覚とか、もう粉微塵も理解できないわけですけれども、「黒人の大統領!?ふぁ!?」とか未だに(もう古いか)騒いでいる昨今、こういうテーマを選定するというのは非常に勇気がいることなのではないかと思い至りましたね。
※少なくともぼくは日本人が冷遇されてる映画を観たらちょっとは嫌な気持ちになるかもですし……

特に、主人公が吊るされたまま、ほかの奴隷がたんたんと仕事を進めるロングショットは、本作の名シーンの1つではありますが、それ故に複雑……少なくとも、このシーンが残酷過ぎるが故に生じる美的快感と、インモラルな不快感(それが負的快感だと感じる人も居るかもですが)は、もう映像の持つ力が余りにも強すぎて、数分間息をするのも苦しくなる逼迫感がありましたね。


吊るされるソロモン

演じ切った主演のキウェテル・イジョフォーに拍手を送りたいです。
(相当苦しかっただろうに……これぞプロ根性)


2.名前の剥奪=労働資本
本作では、主人公のソロモン・ノーサップは身売りに攫われた後、新しく「プラット」という名前を強制的に付けられます。その際、「私はソロモン・ノーサップです」と説明した際に、白人から思いっきり殴られたのが印象的でした。こうして、ソロモンは「プラット」として働いていくわけです。
主に労働力としては開拓やログハウス作り、元々の才能を活かしたヴァイオリン演奏等、最初はそこそこ天性の優秀さを発揮して活躍していたのですが、最終的に引き渡されたプランテーションの残酷な支配人であるエドウィン・エップス(マイケル・ファスベンダー)の許では、毎日が地獄の日々へと転落。綿摘みを強要され、理不尽に鞭打たれ、酒の肴のために惨めに踊らされ、といったような支配被支配の関係がより強くなっていきます。
ですが、皮肉なことに(?)黒人をテーマとしたが故に美しくなったシーンというのは、個人的にこのプランテーションでのシーンが多かった気がします。
1つは、綿摘みの際に広げられる、黒人の肌と対比的な農園の綿。色彩のコントラストが切なくもあり、美しくもあり、という相反するものが対峙した際に生じる美がそこにはあったような気がします……多分。そしてもう1つは、倒れた仲間を埋葬する際のゴスペルですね。ブラック・ゴスペル(黒人霊歌)という形で黒人文化にも焦点を当てるのも巧みだと思いましたし、埋葬という負のイメージとブラック・ゴスペルという陽気な音楽の対比にも思わず心を奪われてしまいます。


綿摘みをするソロモン

あ、トピックからずれてしまいましたが、個人的に意外とこの映画と共通しているのは、ジブリの名作『千と千尋の神隠し』ではないかと感じました。自身を証明する名前の剥奪が、自身を証明しない労働力への変容につながるという大きい枠でのプロットは非常に近いものがあります。無論、巷で噂されているような、『千と千尋の神隠し』が風俗産業のメタファーになっているという考え方に基づけば、本質的には違うのかもしれませんが「労働力」と「名前=個性」が密接に関わっている、或いは相対するものであるということを、両作品ともに示しているのではないかと思います。

※ここで安部公房『棒』もまた、労働力の没個性化を揶揄していたことを思い出します。
 案外と労働力と没個性というテーマは普遍的なのかもしれません。


3.それでも夜は明ける?
最終的に、主人公は偶然出会った北部出身の自由主義者である白人の助けも借り、元々の知り合いだった白人に迎えられ奴隷身分から脱却します。
「主人の迎え」というイベントは本作の根幹に関わる部分で、大勢の黒人の中で催されるそのイベントは、否応なしに黒人奴隷達を「救われる黒人」と「残される黒人」に二分してしまいます。
その両方の立場を味わった主人公(物語の序盤、奴隷船から降ろされるシーンで一緒に居た黒人の1人が「主人の迎え」により早々と脱奴隷化します)が、恐ろしい領主の支配から脱却する際、仲間達に見せる表情には複雑な心情が溢れています。救われる嬉しさと、残された同志達に対する後ろめたさ(自身は残される絶望感を既に味わっているため)が複雑に入り乱れているのがわかります。
いずれにせよ、たまたま救われた黒人と、救われなかった黒人が居たのは厳然たる事実なわけで、タイトルに合わせて表現するなら、「夜が明けなかった」黒人も多く居たことは自明なわけです。寧ろ「夜が明けなかった」黒人の方が圧倒的に多い。

それに対し、邦題である『それでも夜は明ける』は「夜が明けなかった」黒人が居たことを無視しているような感じを受け、商業臭さ(耳当たりの良さを優先した感じ?)を感じてしまったのが少し残念な点ではあります。別に原題のままでいけよと言うつもりは毛ほどもありませんが、とりあえずぼくが邦題を考えるとしたらこのタイトルはあり得ないですね。


最後ちょっと愚痴っぽくなってしまいましたが、感想はこんなもんです。
まだ上映してるのかな?観て損は絶対にしない映画なので、もしご都合がつけば是非!


ぼくの色恋沙汰的な夜も早く明けてほしいなあ云々。
おあとがよろしいようで。


hona-☆

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