野球で調子のよいとき打席に立つと、ピッチャーの投げたボールが止まって見えたり、ボールの縫い目さえ見えることもあるという。
トップアスリートと呼ばれる人たちは、常人では感じることのできない不思議な瞬間(ZONE)をプレーの中で味わっているという。
大切な試合や練習中に高い集中状態に入り、最高のパフォーマンス発揮につながるような心理状態を、メンタルトレーニングではZONE(ゾーン)に入ると表現するそうである。「Suports Japanvol16」より
私は常人であるがゆえに、この様な瞬間をなかなか味わったことがない様な気がする。
それでも、40年近く子供たちの指導に携わってくると、その子供たちのおかげで何度かこのZONEを経験させてもらった。
私が母校の中学の指導に入って2年目のまだ21点先取時代、全国中学県予選男子決勝(当時は各県から1チームの代表)でのこと、我がチームのY選手はセットオールの13-20と大きくリードされマッチポイントを握られ万事休すであった。
2台進行であったため、私はもう一つの試合に集中した。こちらはセットオールの3-11と同じくリードをされてはいたが、少しは点数的に逆転の望みを持っていたからである。
それぞれの試合が進んでいたが、もう1点失点すれば負けるはずの選手がなかなかベンチに戻ってこないのである。そのうちチームの声援が大声援に変わり、そちらを見るとなんと17-20まで追い上げてきて、それもペンの表ソフトであったがスマッシュなどが、何でも連続入り全くミスしないのである。
私は、それでもまだまだ無理だろうと高をくくっていたが、やがて20-20まで追いつきその後一進一退のジュースアゲインが続いたのち、最後は31-29で我がチームのY選手が勝利してしまったのである。
この勢いが波及したのか、前半のもう一人も3-11から見事に逆転勝利したのである。
結果、ダブルスと4番は落としたもののラストはセットールの21-19で勝ち、チームは念願の奇跡の勝利の連続で全国切符を手中に収めたのである。
まさに、ZONEが一人の選手からチームみんなに大きなZONEとなった瞬間であった。