よろず戯言

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行者杉

2017-10-02 20:08:16 | 旅行・まち歩き

先日のドライブ記事のつづき。

添田町(そえだまち)の油木ダムを見学し終わってから、隣町の東峰村(とうほうむら)へと向かった。

県道52号線を通り、やや険しい峠道を登っていく。

しばらくすると標高も高くなり峠道が終わる頃、東峰村に入る。

7月に起きた豪雨災害で、朝倉市に次いで被害が甚大だった場所だ。

この県道もしばらく不通で、未だに崩落した場所は片側交互通行となっている。

無残に崩れた山林、その裾野には土砂と倒木の山。

被害に遭った田畑や空地などに、流木やがれきが山積みにされている。

被害の爪痕を、未だあちこちに見ることができる。

 

 

地元の子どもが描いたポスターがそのまま看板になっていた。

 

添田町から東峰村に着くと、小石原地域に入る。

ここは陶の里として有名で、特徴的な模様、飛び鉋(かんな)があしらわれた、

“小石原焼”は、福岡でも歴史のある古い窯業で、

直方市の高取焼とともに、黒田藩御用窯として江戸時代にはじまった。

今なお、50件近い窯元が営業しているが、

先日の豪雨災害で、約半数の窯元が被害を被り、

廃業の危機を回避しようと、共同窯の設置など対応策を実施している最中だ。

 

 

 

そんな小石原に、自分は毎年足を運んで観に行く場所がある。

巨大な杉の木が林立する、行者杉(ぎょうじゃすぎ)だ。

樹齢200年~600年を超える、巨大な杉が数百本、林立している。

巨木・老木好きとしては、こんな素敵な場所はない。

毎年行っては、その都度写真も撮っているにも関わらず、このブログに載せていなかった。

まあ、頻繁に行く場所なので、いつでも記事にできるや・・と、先送りにしていた感があるけれど。

 

 

 

巨大な切り株や根塊もある。

写真じゃ大きさが判りづらいが、直径2m以上ある。

モリナラ大森林の入口だ。

 

そこに至るまでも周りが杉の木の山林なので、到着しても気付かない。

初めて訪れたときは、よく判らずにスルーしてしまった。

“行者杉”と表示された、大きな木製の看板が目印。

その看板を目印に脇道に逸れれば、巨木が目に入ってくる。

付近に駐車場はないが、数台ならば停められるようなスペースがある。

ちょうどその付近に行者杉の説明看板などが設置されているので、

駐車スペースとして設けられた場所なのかもしれない。

以前は路上駐車になるだろ・・・と思って、最寄りの窯元の駐車場を借りていたが、

最近は自分もここへ停めるようになった。

 

 

 

巨大な木々は、近づかないと気付かないのものだが、

場所を意識して離れて見れば、なるほど頭を抜きん出てて古木が林立している。

ふだん見る植林された杉は、等間隔で植えられ枝打ちがなされて整えられ、

スラっとしたイメージだが、この行者杉は数百年前に植えられ、

ひとの手が加えられることなく、そのままの姿で今日に至っている。

そのため、枝も幹もいびつに巨大に成長し、その威厳さを増している。

 

 

大王杉(行者の父)

 

ここ小石原地域は、霊山・英彦山(ひこさん)の麓にあたる地域。

日本三大修験場として知られる英彦山。

かつては山岳信仰の山伏たちの修業の場として栄えていた。

そしてこの行者杉の並ぶ辺りに、その宿舎などの施設があったとされ、

修業のための峰入りの出発点だったともされている。

修験者たちは修業にあたり、その無事を祈って杉の苗を植えて入山していった。

それが“行者杉”と呼ばれる由来。

数百年の時を経て、巨大に成長した杉が360本?ほど残っているのだ。

 

 

 

大王杉の表面。

この苔生し具合がたまらない。

 

こんな注意看板も。

 

最大のものは、“大王杉”と呼ばれ、樹高52m,幹回り8.3m,推定樹齢600年を誇る。

林野庁が設定している、“森の巨人たち百選”にも選定されている。

案内プレートから、森へと歩を進めれば、すぐに視界に巨大なそれが入ってくる。

こんな巨木であっても、根を踏まれると痛んでしまうようで、

保護のため柵が設けられ、直接幹に触れることはできない。

それでも、間近で見る巨木は圧巻で、見上げると、思わずため息がこぼれる。

ひとのちっぽけさを痛感する。

 

 

霊験杉(行者の母)

 

 

境目杉(国見太郎)

 

 

鬼杉(かいじゅうくん)

同じ呼称の杉が英彦山の中腹にもある。

そちらは、大王杉と同じく、森の巨人百選にも選ばれている。

それにしても、“かいじゅうくん”て・・・。

これのみ愛称がなくって、近年になって地元の小学生にでも付けさせたような感じ。

まあ、ゴジラに出てきたビオランテとか、ポケモンのオーロットとかに見えなくもない。

 

大王杉周辺には、他にも霊験杉,境目杉,鬼杉(添田にあるものとは別)などと、

呼称の付けられた巨木な杉が並ぶ。

そのうち、境目杉は国見太郎という愛称も付けられており、

その株元には、古い国境石が背中合わせで並んでいる。

ちょうどこの木が、筑前国と豊前国の境界に立っているのだ。

 

 

境目杉の脇にある、境目石(国境石)

筑前国と豊前国の境界を示す。

 

立ち並んだ行者杉にパワーをもらい、森の道を散策する。

ここは日田英彦山国定公園の一部でもあり、森の中には散策道もある。

いつもは行者杉を見て、最寄りの窯元を見学して、皿や一輪挿しを買って帰るのだが、

今回はちょっと奥の方まで散策してみようと思った。

“修験の道”と彫られた、比較的最近建てられたような、

真新しい石碑があり、そこから散策スタート。

 

 

 

 

森の中の散策道ではなく、舗装路をそのまま進めば、

小石原焼の窯元が立ち並ぶ通り、“陶元郷(とうげんきょう)”へと至る。

 

少し歩くと、古びた小さな鳥居と社が見えてきた。

“修験道深仙宿”とあり、案内看板によれば、ここが修験者たちの宿の跡で、

峰入り修業の前に、ここでそのレクチャーを受け、祈祷し秘法を授かり、

霊水で身を清めてから、いざ修業に出立していたのだという。

この遺跡とともに、室町時代頃と推定される、古い道具なども発見されており、

県指定の有形民俗文化財になっている。

 

 

 

鳥居と社の奥の方には、さらに小さな社があり、

その手前に、石で囲まれた小さな溝がある。

そこからちょろちょろと水が流れ、小さな川を形成していた。

天然の湧水池だろうか?“香水池”と名付けられており、

これが、かつて山伏たちの飲料水となっていた霊泉で、

病害虫駆除の効果もあり、五穀豊穣の恵みのある水として、

付近の農民がこの水を求めてやってきていたという。

実際に飲むことができるようで、すぐそばに柄杓も置かれてあったが、

クモの巣だらけで、水面にはアメンボ多数。

ヤブ蚊がプンプン飛んでいて、水のなかにはボウフラも沸いてそう・・・。

飲むのは・・・ちょっと遠慮した。

 

 

中央の溝が香水池の湧き出し口か?

柄杓も置かれている。

向かって左に、ちょこんとある台形の石は“膝石”と呼ばれ、

足を乗せるだけで膝の病が治るといわれているとか。

膝は今のところ問題ないので、足は乗っけなかった。

 

腐敗して虫がわいたり、野生動物が食い荒したりするのだろう。

 

山伏たちの古い遺跡を後にして、さらに奥へと進む。

行者杉以外は、ふつうの植林。

林業の方たちの作業する、チェーンソーの音が響いてくる。

平野部では聴けない、ミンミンゼミの鳴き声と野鳥の声を楽しみながら進む。

明らかに人のものでない、獣の足跡を発見したり、

森の中の天然の濁った水たまり(ブラックウォーター?)を発見したり、

ああ、やっぱり自分は山歩き、自然散策が好きなんだな~と感じながら歩く。

 

シカかな?

イノシシかな?

九州にはクマが居ないから、獣の足跡を見つけても警戒しないで済む。

 

野生動物に皮を剥がされたような朽木も。

中に棲むカミキリムシの幼虫などを食べようとした、タヌキやイノシシの仕業かな?

 

ブラックウォーターとおぼしき、天然の水たまり。

単に土砂で濁った水だったかも。

 

チェーンソーの音が近くなってきた。

汗をぬぐいながら、写真を撮りながら歩いていると、なんだか大声が聞こえる。

「****ですか~っ?!」

!?

「地元の方ですか~っ?!」

ひょっとして、自分が声かけられている?

チェーンソーの音がしていた方向を見る。

年配の作業員の方が、こっちを見ながら大声で問いかけていたのだった。

「いや、地元の人間じゃないです~!」

自分も大声で、ちょっとヘンな返答をした。

「**したか・・・。」

作業員の方は、そう呟くと、またチェーンソーで作業を再開された。

トーンが低くなっていたので、聴き取れなかったが、たぶん「違いましたか。」だったんだろう。

 

 

 

もしかして、この先進むのは迷惑なのかしら?

散策道が設けられているとはいえ、周囲は自生林だけじゃなく営業林もある。

林業のひとたちの作業の妨げになってはいかんだろう。

もしくは地元のひと以外が、こんな山道歩くことなんてないのかもしれん。

確かに、こんなうっそうとした深い山道、好き好んで歩く人間も居まい・・・。

この先、進んだとて、何かしら目的のものがあるわけでもないし。

興味本位で独りで人気のない森林を進むのもなんだし・・・と、引き返すことにした。

最後にまた、大王杉はじめ、巨大な行者杉を眺めながら、小石原を後にした。

 

 

ほぼ毎年、夏になると行者杉を眺めにいく。

7月に豪雨災害があって、ここ小石原へ行く道が閉ざされてしまい、

添田町側の道路のみならず、朝倉市側からの道路も寸断され、

一時期、東峰村は孤立状態になっていた。

今年はもう、行者杉には行けないかもしれないな・・・と思っていたが、

ほどなくして通れるようになり、今年もまた来ることができた。

来年もまた、夏のくたびれた時期に来て、行者杉からパワーをもらおうと思う。

 

 

 

※ブラックウォーター

底が石や砂利ではなく、堆積した枯葉や枯枝になっている川や湿地帯の水のこと。

森林を流れる川などで見られ、アマゾン川の支流に多く見られる。

水の濁りは枯葉などから出るタンニンによるもので、水自体が汚れているわけではない。

熱帯魚飼育において、とくにアマゾン川流域原産の小型魚を飼育する際、

その生息場所に近い環境を再現するため、

飼育水をブラックウォーターにする、専用のリキッドなども販売されている。

  

 



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