大切な親指くらいのライトを僕は革のチェーンにかけている。
会社から車までは山を登らなければいけなくて、距離もあって、夜遅くに仕事が終わる僕にとっては必需品なのだ。
久しぶりの休日だから、定番の一人温泉に決めて、風情のある山のなかの温泉へお世話になった。
浅間山、高峰高原など一望できるその温泉、僕は大好き。
その温泉でゆっくりつかってから脱衣場で服を着て、何気なくライトをつけてみた。でもライトはつかなかった。電池がなくなったみたいで。
僕はセンター部分を回し電池を取り出してもう一度はめなおした。
そして浅間山にお別れして車で家路に向かった。数時間後、コンビニで財布を取り出した時に、ライトが半分ないことに気付いた。さっきはめなおしたとき回すのが弱かったのかな。
僕にとっては親指程度だけど大切なもの。
いろいろなところを探した。だけどなかった。
僕はもう一度温泉に向かった、一時間かけて。寝ころんだ芝、登った展望台、車への道、探したけどどこにもなかった。
僕は温泉のなかにもう一度入った。
するとカウンター受付のおじさんの前に「忘れもの」の表示。
あった。
親指程度のペンライト。 しかも電池部分の半分だけ。
ここの温泉の人は捨てなかったんだ。
普通は「ゴミ」としてすてるだろうに。
僕はびっくりした。半ばあきらめかけていたのに。感動した。
おじさんありがとう。僕は頭を下げた。おじさんが喜んでたよ、それが嬉しかった、いい顔だった。
ここの温泉大好き。そんな人たちが、色んなところに愛情をかけてくれてる、行けば感じるよ。
ありがとう。