五 妻の「やっぱり」にはもう一つ思い当たることがある。
A「あの学生、欠席扱いにしたらしい。」
B「それはおかしいよね。」
ある日の会議で最後に入室した私にはその会話の意味が分からなかった。「遅くなってすみません。でも、遅刻じゃないですよね。」と私。
A「その遅刻なんだよ。」
B「覚えているかなぁ、今年の夏の試験だけど。あの学生はずいぶん遅刻してきたんだよね。」
C「そうでしたね。私が監督した教室でしたから覚えています。」
D「『どうしますか。』と確認したら、『受けます。』って言ったから受験してもらったんだよね。困ったもんだ。」
「何かあったんですか。」と私。
D「○○先生はその日休みだったのかなぁ。例の予備校の先生をやっている学生のことなんだよ。あの学生ね、英語の単位落としたんだよ。そうしたら教務課に怒鳴り込んで、『あんな短い試験時間で受験させる方が間違っている。』ってね。こっちは本人が『受けます。』って言ったから受験してもらったんで文句を言われる筋合いじゃないよね。だけど、副学長と教務課長が菓子折り持って詫びに行って、不可を欠席に直したらしいんだよね。○○先生、どう思う。」
私「それって、よく分からないんですが、何を詫びに行ったんですか。何か詫びることがあったんですか。」
D「だからさぁ~、いろいろ騒がれると面倒でしょう。それでじゃないかな。」
私「『いろいろ騒がれる』って、騒ぎようがないでしょ。試験ができなくて単位を落としたのに、なんで副学長と教務課長がガン首そろえて菓子折り持って行くんですか。」
D「試験時間が十分無いのに受験させたのは監督者の不手際だっていうことなんだよ。しかも彼は英語の塾を経営しているでしょう。自分でも教えているらしくて。それが英語の試験で不可を取っちゃ洒落にもならんでしょう。」
私「事情は分かりましたけど、さっき『不可を欠席に直した』とかなんとか言ってませんでしたか。」
D「うん、そう。菓子折りを持って行ったとき、『成績評価簿は欠席にしましたから。』って相手さんに言ったそうですよ。それで相手も納得したらしいんだよね。」
私「ちょ、ちょっと待ってくださいね。それって、もしかして成績評価簿を書きかえたってことですか。成績評価簿って教授会で確定させたあれですよね。」
D「そう。」
私「それ違法ですよ。」
D「だよね。私は法律のことはよく分からないが、やはりまずいよね。何とかした方が良いよね、何ともならないと思うけど。」
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この会議の議題ではないにもかかわらず、この件は大きな問題として会議参加者の記憶に残ることになった。
教授会で確定させた成績評価簿、いわば原本の記載を教授会に諮ることなく書きかえれば有印私文書偽造の罪の問題が生じる。そこまで言わないにしても成績評価簿の、さらに成績評価に対する信頼が害される。大学にとって、成績評価に対する信頼が害されることは致命的だ。(つづく)
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