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「民法が改正されて越境枝は切ることができる。」という、小さくはない『誤解』を招きやすい記事がネット上にあふれているように見えます。
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拙宅は高齢化と過疎化が進む小さな住宅地にありますが、過日散歩をしていると声高に話している声が耳に入ってきました。耳が遠くなると話し声が大きくなるそうですね。
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「敷地の境界を越えてきた枝って切れるようになるんだねぇ~。」とかなんとか。
思わず「違いますよ。」と声をかけてしまいました。
まぁ~、年配のその男性二人は顔見知りなので少し話もしましたが。
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この住宅では庭木の越境は普通で、むしろ境界ギリギリで切っている家は希です。
こういう家に限って敷地に高さ数m、幅も数mの「目隠し」を立てています。もっとも、「目隠し」立てられる側は驚くほど敷地ギリギリに家を建てていますので「目隠し」を立てる側の気持ちも分かります。
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さて、「越境枝は切れる」という不正確な記事を真に受けて勝手に切ったり、隣家の敷地内に手を入れて切ったりすれば、民法上は不法行為(民法709条)となり損害賠償責任が生じますね。
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また、刑法上は器物損壊罪(刑法261条)という罪に問われ「三年以下の懲役又は三十万円以下の罰金若しくは科料に処」せられます。
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さて、ではどうしてこんなことになったのでしょうか。
そこで、改正後の民法をながめてみましょう。
改正後の民法233条には次のように定められています。
「土地の所有者は、隣地の竹木の枝が境界線を越えるときは、その竹木の所有者に、その枝を切除させることができる。
第2項 前項の場合において、竹木が数人の共有に属するときは、各共有者は、その枝を切り取ることができる。
第3項 第一項の場合において、次に掲げるときは、土地の所有者は、その枝を切り取ることができる。
一 竹木の所有者に枝を切除するよう催告したにもかかわらず、竹木の所有者が相当の期間内に切除しないとき。
二 竹木の所有者を知ることができず、又はその所在を知ることができないとき。
三 急迫の事情があるとき。
第4項(省略)」
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法律の訓練を受けた人ならば一見して、『原則は変わっていないな』と分かるのですがそうでないと大きく変わったように誤解してしまいますね。
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細かなことは割愛しますが、要は改正前と同様に基本は『切除させる』=『切ってもらう』ということだと認識しないと危険です。
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では、『どうしてもこの条文で切りたい』というときはどうしたら良いでしょうか。
以下愚考卑見を少々。
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『越境枝でもめている隣家とは口もききたくない』という人が多いようですが、ここは話し合いをしないといけないですね、絶対。
なぜならば、越境枝をどこで切るかという深刻な問題があるからです。
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つまり、もし越境されている側が本条で切るならば、①切る枝を特定し、②無風状態で、③敷地境界に糸を張り、④その糸で確認できる境界の自分の土地側で切らなければならないということになるからです。
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①「越境している枝を切除せよ。」と漠然と催告しただけでは有効な催告とはなりません。そうでないと、越境側が越境枝だと考えて枝を切り、「切りました」と言っても、越境されている側が、「まだ越境している」と言ったら問題は解決しませんから。
したがって、『切除させる』側は具体的に『切除させる枝」を特定しなければなりません。
②『無風』という条件は、もし越境側から風が吹いていれば、枝は越境されている側に入り込みますね。
この状態で越境部分を切り取ると切り過ぎになり不法行為や器物損壊の問題が生じてしまいます。境界ギリギリで切るのは危険ですね。
『どうせすぐに伸びて越境して来るのだから少したくさん切っておこう。』などということは絶対許されません。
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③境界確認は目視では危険です。建築時のように糸による境界確認が必要です。また、境界確認には越境側の家人の立ち合いが必須不可欠です。そうでないと後日必ずもめ事になります。
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④実際に越境枝を切り取るときは越境している側の家人が見ている状態で切らないと、またまたもめることになりますね。
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弁護士のサイトでは簡単にできそうなことを書いているので、簡単に切れると考える人がいるようですが、素人が勝手に法律を解釈して行動を起こすととんでもないことになりますから注意が必要ですね。
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やはり従前通り話し合いで処理すべき問題です。
では、「なぜこんな使えない改正がされたのだろうか?」という疑問が生じますね。
この改正の真の狙いは『空き家』・『空き地』対策です。
つまり、今回の改正の主たる狙いは第3項第二号、すなわち、「竹木の所有者を知ることができず、又はその所在を知ることができないとき。」の処理です。
したがって、越境竹木の持ち主が明らかで話し合いをしようとすればできる通常の相隣関係に本条を持ち出すのは不適当です。
そもそも、越境されている側が、「越境竹木を切ってくれないか。」と言い、言われた越境側が、「どうぞお好きにお切りください。」と言ったら本条の適用前提が消えるとみるべきでしょう。
法律云々は、両当事者間に紛争があることが前提ですから。「切ってください。」、「どうぞお切りください。」の関係には法律が介入する余地はないのです。
これを無理に法律で処理しようとするのは一部の弁護士の営業戦略ではないかと、私は懐疑的に眺めています。(つづく)
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