自分の考えがまとまらない。
他人の庭に植えてある樹木を、枝が越境しているからと言って敷地に内に手を入れ幹から切るだろうか。
しかも立派に成長している樹木を。
どれほど不快でも、それは迷惑駐車をしている自動車を「不快だ!」と言って傷つけるのと同じだ。
だが、ストレートに抗議をすれば逆切れされる虞もあって怖い。
しかし、「やってはならないことはやってはならない」と「悪いことは悪い」と伝えなければさらにひどいことが起きるかもしれない。
結局、良く分からない文章になってしまった。
~~~以下送付文~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
2020年○月○日(○)
○○○○様
○○○○
(住所)
お尋ねとご相談
前略ごめんください。○○○○で御座います。大変お世話になっております。
さて、早速でまことに恐縮に存じますが、一つお尋ねしたい事があり甚だ不躾ながらお手紙を差し上げることにいたしました。なお、私の表現力が稚拙なことからご理解いただけない部分があろうかと存じます。そのときは弁護士にこの文書をそのままご提示いただき助言を仰いでください。その際、司法書士他、いわゆるパラリーガルはこの種の事案の処理をしませんのでお避けになる方がよろしいかと存じます。また、警察にご相談されてもよろしいですが、内容に刑事事件を含むので現時点ではお避けになる方がよろしいかと存じます。私も当初直ちに警察に通報しようとしたのですが、まずは〇〇様にご相談申し上げてからにしようと踏み留まりました。
さて、本論です。過日、拙宅の樹木が数本何者かによって幹の部分から切られ拙宅の庭に放置されていました。器物損壊罪(刑法261条)と不法行為(民法709条)に当たる事件です。
そこで、大変ご多用のところ恐縮に存じますが以下の記述を終りまでご精読いただきご教示を賜ることができれば幸甚に存じます。
一 事の始まりは2020年5月23日(土)の午後の事でした。〇〇様邸と拙宅の境あたりで何者かの話し声が聞こえました。様子を窺っていると、どうやら拙宅の植栽の内、〇〇様の敷地に越境している枝を切る算段をしているようでございました。
ご存じの通り、越境枝を勝手に切ることは違法です。しかし、何かしらの実行行為が無い限り警察に通報することはできません。そこで、記録用にカメラを準備し135mmの望遠レンズを装着し監視と記録の態勢に入りました。
すると男が一人、拙宅敷地の南西部分にある樹木を数本切りました。このときは顔がわずかに見える程度でした。
その後、同一人物か別人か不明ですが、男が一人、〇〇邸と拙宅敷地を画する境界のほぼ中央付近で〇〇邸と拙宅敷地を画するコンクリート塀の上あたりまで身体をあげ、左手で拙宅敷地内の樹木の幹をつかみ右手に鋸のようなものを握り、この樹木を切り始めたように見えました。このときはその男の顔ははっきり見えました。
なお、拙宅西側の道路上で、男たちの一人と思われるものが、あたかも切除する枝や樹木を指示しているような発言をする声も聞こえました。この人はどなたでしょうか。ご存じですか。
二 この日より少し前、〇〇様は拙宅にお越しくださり応対に出た妻に「こちらに出ている枝を切ってよいか。ご主人は切っていいと言っていた。」旨、お申し出になり、妻は「はい、どうぞ。」と答えました。このやり取りは私も窓越しに確認いたしております。したがって、仮に〇〇様がお切りになるとしても、樹木の越境部分だけを切るだけで、よもや拙宅の敷地内に手を伸ばし幹から切るとは到底考えられません。
そこで、多少なりとも越境枝を気にされていた〇〇様のお気持ちを忖度した何者かが本件事件を起こしたのだと考えております。お心当たりがあればご教示ください。お心当たりがなければ器物損壊事件として警察に被害届を出します。
三 ちなみに、私が〇〇様や〇〇様のお気持ちを忖度した男の立場だったらどうしただろうかと考えてみました。犯人の心理分析です。
「小さく越境している小枝ばかりでなく、中には自宅(〇〇様のご邸宅)の屋根にも迫るほど大きく越境しているものもあるので、これは切るべし。」と考えるかもしれません。しかし、それができないのが法律の決まりだということを知らなければなりません。
民法という法律の第233条第1項には、越境した枝の処理について「隣地の竹木の枝が境界線を越えるときは、その竹木の所有者に、その枝を切除させることができる。」と規定されています。「切除『させる』ことができる」のであって、自ら「切除『する』ことができる」のではありません。
現に数年前、〇〇様はこの法律の通りに大きな越境枝を処理されました。覚えていらっしゃいますか。〇〇様は、「窓に枝が入りそうになっている。」とおっしゃって拙宅に来られました。そこで、私は第233条第1項に基づく要請だと理解し直ちにその枝を拙宅の敷地内で切って取り除きました。ご記憶にあろうかと存じます。したがって、どんなに大きく越境していてもその枝を勝手に切ることはできないのですね。
四 とはいえ、「大きく越境した枝が自宅に害を及ぼしているときも切れないのか」という問題が残ります。法律上、この場合、裁判所に救済を求めるしかありません。そのときは「越境枝を切りなさい」という訴訟を提起することになります。しかし、この訴訟の原告となる訴えた側は、越境した枝が原因で害が現実に生じていることについて証拠を示して立証しなければなりません。したがって、「境界を越えているから不愉快だ。」などという理由では訴訟にもなりません。「越境枝が自宅の屋根にかかっている」とか「越境枝で暗くなっている」という程度でも無理です。実務ではこの裁判で原告が勝訴する例は希です。なぜならば、越境しているとはいえその枝は他人の所有物だからです。いわゆる所有権の絶対性という法原則です。
(後退距離及び高木繁茂に至る背景)
五 ちなみに、私が〇〇邸との境界付近に樹木を繁茂させている理由を聴いて頂けますか。
1.〇〇様は後退距離についてご存知ですか。後退距離とは敷地境界から建物の柱のある壁面までの距離です。この地区ではブロックによってこの距離が違っているようです。私どもが拙宅を建てたとき施工業者は「この地区の建築協定により後退距離は150cmとなっています。」と説明しました。その為、私どもの希望が入れられず何度も設計変更され、いくつかの間取りの提案はことごとく却下された記憶があります。〇〇様は何cmだと説明を受けましたか。
〇〇様の邸宅が建設された当時、私は基礎工事から拝見しておりました。コンクリートの基礎ができたとき、後退距離が150cmあるようには見えませんでした。しかし、家を建てるのは人の人生にとって一生に一度のことかも知れず、また、できれば大きな家に住みたいというのは人の情なので私は詮索しませんでした。
しかし、上物が完成に近づくにつれ圧迫感というか何というか邸宅がこちらに迫ってくる感覚は否めませんでした。
しかも、拙宅側に面した二階の壁に窓が三つあり、その内の西寄りの二つの窓はそこから拙宅の部屋の中が丸見えになる位置にあります。そこで、植栽に関する規定の説明も受けていたので高木と中木の植栽をいたしました。
2.〇〇様はこの植栽条例についてご存知ですか。こちらも拙宅を立てたときの話ですが、私どもは業者から、「市の定めでこの地区では高木、中木、低木を規定に従い一定本数以上植えなければなりません。」と重要事項説明の中で告げられました。説明資料には具体的な図まで示されていました。低木や中木なら何とかなると思いましたが高木に至ってはどうしてよいか分からず難渋したことを覚えています。しかし、これはこのあたりの複数のブロックが新たに山を崩して造成したものであるため分譲後は条例により植栽をしなければならないとの行政の指導によるものだとの説明を受けました。
六 日中、あれだけのことを堂々とやってのけるのですから相当の度胸と組織力があるのだと感じ、怖くなりました。〇〇様には被害はございませんでしたか。
ただ、一つ気になることがあります。それは本件行為の初期の段階で、「切ってもらえばいいのに。」という女性の声が聞こえたことです。民法第233条第1項の提案です。この女性がどなたであるかは知りません。しかし、越境樹木の切り取りを私に依頼すればそれが実現できることを知っているものだと推測できます。したがって、本件行為者を知るものである可能性が高いと言ってよいでしょう。〇〇様にご相談申し上げる所以です。
もっとも、本件行為者はこの提案を無視、または意に介すことなく本件損壊行為に及んでおります。強い損壊意思を推測することができます。ちなみに、本件行為を傍で見ていながら止めさせなかった人は共犯(刑法第62条(従犯))、本件実行犯に本件を促した者も共犯(同法第61条(教唆犯))です。もし、西側道路上から切る枝を指示していたものが本件のすべてを仕切っていたならばその人は共同正犯(同法第60条)となり実行犯と同じに処罰されます。
七 今後の方針ですが、私は、〇〇様の意を忖度した集団による行為だと考えていますので、もし、〇〇様にお心当たりがございますればその人たちにご確認いただきたく存じます。
とはいえ、私はその人たちに対する刑事訴追は望みません。人には一時の感情や他人との損得を考えて行動するものがいます。今回も〇〇様の意を忖度し、〇〇様のお気持ちに沿う事を願って犯行に及んだのだと推測しております。したがって、今後同じことを繰り返すことは無いと確約されれば事件とするつもりはありません。
しかし、今後も同種行為を繰り返す計画を捨てないのであれば、このまま刑事訴追に向けた手続きを進めます。立木が複数切られているので、それを切った道具にはそれぞれの樹の成分が付着しているはずです。これは布で拭ったり水で洗った程度では取れません。刃の深部に残る成分を分析すれば切除行為に使用した刃物は特定できます。
本件は自動車にキズをつける行為と同じです。迷惑駐車に腹を立てた人がクギやコインで自動車にキズをつける器物損壊行為と同じです。どれほど立腹していてもやってはならないことはやってはなりません。しかし、悔い改めるならば許されることもあります。
八 刑事訴追を猶予したとしても、民事責任は残ります。切ってしまったものは元には戻せません。損害賠償しかありません。しかし、こちらも二度と同じことが繰り替えされないことが、実行行為の集団の人々において約束されるならば本件損害賠償請求の権利は一時凍結します。しかし、そうでないときは実行します。
九 もし、本件実行集団の人々にお心当たりがあれば、以上の内容をお伝えください。
以上諸々ご面倒をおかけして大変申し訳ございませんが何卒よろしくお願いいたします。〇〇様とは一緒に子供神輿を盛り上げた仲です。今後とも良好な関係を維持したいと願っております。何卒よろしくお願いいたします。
ご精読に感謝申し上げます。ありがとうございました。
時節柄ご自愛ください。(合掌)
○○○○拝
追伸
実行犯を然るべくお諫めくださいました後はこの文書に対するご回答は不要です。しかし、何らかの回答が必要なときは必ず文書にしていただきたくお願いいたします。口頭では記録が残りませんから。
以下雑感です。樹木は人を活かしていると思います。この住宅地は山を崩し、樹木を伐採してつくられました。分譲区画は人の金儲けのために作られた仕切りでしかないと思います。実際、土地に居付いた猫は境界なぞ関係なく移動しています。樹木も同じだと思います。その根のある所から延びた枝が人家の境界を越えようとも樹木は人の命を支えるために枝を伸ばし続けているだけだと思います。人が勝手に作った境界を超えた云々はいかがなものかと愚考しております。ご賢慮ご賢察あれば大変有り難く存じます。(了)
合掌
【以下資料】
(不法行為)
〇民法第709条「故意又は過失によって他人の権利又は法律上保護される利益を侵害した者は、これによって生じた損害を賠償する責任を負う。」
(器物損壊)
〇刑法第261条「前三条に規定するもののほか、他人の物を損壊し、又は傷害した者は、三年以下の懲役又は三十万円以下の罰金若しくは科料に処する。」(注:「前三条」とは刑法第258条(公用文書等毀棄)、刑法第259条(私用文書等毀棄)、刑法第260条(建造物等損壊)です。
(共同正犯)
〇刑法第60条「二人以上共同して犯罪を実行した者は、すべて正犯とする。」
(教唆犯)
〇刑法第61条「人を教唆して犯罪を実行させた者には、正犯の刑を科する。」第2項「教唆者を教唆した者についても、前項と同様とする。」
(従犯)
〇刑法第62条「正犯を幇助した者は、従犯とする。」第2項「従犯を教唆した者には、従犯の刑を科する。」
(以上以下余白)