ネタばれせずにCINEるか

かなり悪いオヤジの超独断映画批評。ネタばれごめんの毒舌映画評論ですのでお取扱いにはご注意願います。

ハードエイト

2025年01月26日 | なつかシネマ篇


PTA初期の作品には“擬似父子”をテーマにしたお話が非常に多い。『ブギーナイツ』『ゼア・ウィル・ビー・ブラッド』『ザ・マスター』、そして長編デビューとなる本作も、ベガスで一文無しになったジョン(クリス・ライリー)に救いの手をさしのべる赤の他人シドニー(フィリップ・ベイカー・ホール)の物語である。大富豪から莫大な遺産の相続人に指名された男を主人公にした『メルビンとハワード』(ジョナサン・デミ監督)に着想を得たと語っていたPTA。カジノの顔役でもある主人公シドニー目線で語られるシナリオには、一筋縄ではいかないPTAのある企みが感じられるのである。

どこか抜けたところがあるジョンにシドニーが「わが子と同じ愛を注ぐ」理由が、一応ラスト近くで明かされるのだが、いわゆる老シドニーの“贖罪”として観たらこの映画面白くもなんともない。そして観客はこう疑いはじめるはずだ。映画タイトルの『ハードエイト』に何かしらヒントがあるのではないかと。クラップスと呼ばれるサイコロ2つの出目に賭けるこのゲーム、“ハードエイト”とは4のゾロ目が揃う一発逆転の出目らしいのだが、本作品のストーリーとはあまり関係がなさそうなのである。

それでは、カジノでウェイトレスをしながら売春で生計を立てているクレメンタイン(グイネス・パルトロー)という女の名前にヒントがあるのでは?ジョン・フォード監督『荒野の決闘』に登場するクレメンタインは、元外科医(実際は歯医者だった)で結核におかされているギャンブラードク・ホリデーの元恋人。しかも看護師の淑女という設定は、金に固執するこれまたトッポい本作のクレメンタインとは、似ても似つかないキャラクターなのである。

私は思うのである。シドニーが血もつながっていないジョンをあれほど親身になって助ける理由は、もしかしたら他にあるのではないか、と。ヒントはおそらく、シドニーがくっつけようとしたジョンとクレメンタインが生きるための“知恵”を何一つ身につけていない無垢なる人間で、その2人が悪人ジミー(サミュエル・L・ジャクソン)に唆され、ベガスを出ていかざるをえなくなるストーリーにあるのだろう。

ここまで言えば皆さんもうお気づきだろう。このどこにでも転がっていそうな物好き老人のお節介話は、蛇=ジミーに唆され、楽園=カジノから追放されたアダム=ジョンとイブ=クレメンタインの聖書ネタがベースにある気がするのである。アダムとイブに無償の愛を注ぐシドニーは“神”ということになるのだろう。クラップスというゲーム、プレーヤー自身が🎲を降って遊ぶゲームのためイカサマが成立しにくいという特性があるらしい。しかし、このシドニーはけっして自ら“🎲をふらない”。なぜならシドニーは“(カジノに住まう)神”なのだから....

ハードエイト
監督 ポール・トーマス・アンダーソン(1996年)
オススメ度[]

この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« よこがお | トップ | ヒットマン »
最新の画像もっと見る