きんえんSwitter

医者の心の目で日々を綴ります

桂歌丸師匠

2018年07月02日 | 喫煙防止教育
喫煙防止教室では、当然ながら喫煙による健康被害について、子どもたちに教えています。

数ある喫煙関連疾患のなかでも、本物の肺の写真を見せながら、病名をきちんと伝えるようにしているのが「COPD(慢性閉塞性肺疾患)」です。


その理由は三つあります。

1)タバコを吸わなければ、ほぼ予防できる病気であること
2)いまだに多くの患者が診断されず、未治療のままでいること
3)日常的社会生活を脅かす病気であること



タバコを吸っている人の肺が真っ黒に汚れていることは、誰でも知っていますし、禁煙講話などでは必ずといっていいほど、「禁煙したら綺麗な肺に戻りますか?」と質問されます。

残念ながら、肺の奥にこびりついた汚れは、禁煙しても取り除くことはできません。

けれども、肺が壊れる前にタバコをやめれば、機能は回復し、死ぬまで自分の肺で呼吸ができます。


壊れた肺、すなわち、それがCOPDです。

一言でCOPDといっても、その機能障害の程度はタバコを吸っている年月と個人の感受性の違いによって非常に幅が広く、また肺はゆっくりと年月をかけて壊されていくため、本人は重症になるまで自覚しづらいというのも、この病気のやっかいなところです。


私は約20年前、ヒマラヤ登山隊に医師として同行したことがあります。
そのとき、標高5000mのベースキャンプに二ヶ月間滞在したのですが、そのときの私の動脈血の酸素飽和度は常に82%前後でした。
医療現場では、緊急を要する低酸素状態と判断される数字です。

登山では4000mから10日間かけてゆっくりと高度順応していきましたから、二ヶ月間酸素なしですごすことができましたが、食欲低下、倦怠感、気力低下が、下山するまでずっと続いていましたし、ちょっとした指先の切り傷なども治りが悪く、酸素のありがたさを実感できた貴重な体験でした。
また、COPDの患者さんの日常を実感できたことで、医師としてより適切なアドバイスが患者さんにできるようになったと思っています。


本日、桂歌丸師匠がお亡くなりになりました。

歌丸師匠はCOPDと診断され、数年前からCOPDの啓蒙広報活動に賛同・協力してくださっていました。
そのこともあって、子どもたちにもCOPDという病気をより具体的に理解できるよう、師匠の名前を挙げて説明していました。

師匠のご冥福をお祈りしつつ、これからも、子どもたちの将来のために、ご協力いただこうと思っています。









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