きんえんSwitter

医者の心の目で日々を綴ります

緊急要請 つづき

2020年05月03日 | CORONA
日ごろから仲良くしてもらっている同僚のナースYちゃんに、オーストラリアの9才の女の子の救急隊要請電話について(緊急要請 - きんえんSwitter)を、「感動的だから見て!泣いちゃうよ。英語わからなくても、訳つけておいたから」と動画を紹介しましたところ、彼女から意外な反応がメールで返ってきました。

「落ち着いてますね。でもなんだか感情移入しないですね。なんか、作り物みたいに感じちゃいます」

なるほどなあ、と思いました。

人はみなそれぞれ、経験してきた人生が違います。
しかも彼女と私とでは、年齢もひとまわり以上違います。
どんなことを好み、嫌い、喜び、悲しみ、感動するか・・・価値観は同じではないのですね。
考えてみればあたりまえのことですが、そのことに改めて気づかされました。

私は、医師として寝ずの救急現場で働いていたことがあります。
重篤な患者さんに付き添って救急車に乗ったことも何度かあります。

先日、ある病院でコロナウィルスが院内感染し、残念なことに何人も患者さんが亡くなったという記事を新聞でみたとき、かつて、最愛の祖母が倒れたとき、一時入院していたことのあるE病院だ!と思い出しました。

十数年前のある日、胸が気持ち悪いといって嘔吐した94歳の祖母。
当時同居していた伯母が心配して、近くのE病院に連れていったところ、急性胃腸炎の疑いありとのことで入院となりました。

その知らせを伯母から聞いた2日後、お見舞いに行った父と私は、ベッドサイドの検温版の心電図を見て、祖母の病気が急性心筋梗塞であると診断しました。

心筋梗塞は、動脈硬化が原因で、細くなった冠動脈(心臓そのものに酸素を供給するための血管で、大きく3本ある)に、ベタベタとした血糊のような血液の小さなかたまりなどが詰まり、その結果、心筋を壊死させ、場合によっては急死、あるいはその後の心機能の低下(心不全)を招くという病気です。
典型的な症状のひとつに胸の痛みがありますが、心臓の下側への血流を担当している冠動脈が閉塞すると(下壁梗塞)、気持ち悪くなって吐くといった症状で発症することもあります。

祖母を見舞ったとき、言葉は発しませんでしたが、手で胸の辺りをしきりとさすっているのに気がつきました。
発症から2日たったその日も、きっと胸の痛みが続いていたのでしょう。

E病院の当時の院長先生にお話ししたところ、すぐに状況をご理解くださり、私が救急車に同乗して、祖母を循環器専門病院に転院させてもらったのでした。

その後祖母は、転院した日に急変し、人工呼吸器を装着。
幸い軽快して、一時期、呼吸器を脱着できましたが、糖尿病もあったため、腎機能が低下。
発症から約2か月後に多臓器不全状態となって、天寿を全うしました。

このとき経験したことは、いまでも私に色々なことを教えてくれます。
今日も、久しぶりに思いだし、このような形でお話しすることになりました。


街や職場で救急車のサイレンを聞くたびに、頭のなかを色々なことが巡ります。
9才の女の子のエピソードに、私が深く心を動かされた理由のひとつには、これまでのこういった人生経験が関わっているのかもしれません。

それから···

たとえば、体調や心の状態の変化というのは、その道の専門家ならば気づきやすいことも確かですが、家族や、その人をよく知る友人にしか気づけないこともあります。
普通の嘔吐ではないと直感した伯母が病院を受診させたからこそ、まら、最初に診た医師が胃カメラではなく心電図をとってみたからこそ、私が胸をさすっている様子に気づいたからこそ、正しい診断に至ったのです。


コロナに感染した家族をお持ちのかたには、そういうことも知ったうえで、大切な方の重症化のサインを見逃さないようにしていただきたいです。

そして医療者としての立場にある者としては、このことを忘れずに、日々、患者さんやそのご家族と真摯に向き合っていきたいと思っています。
















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