不当捜査による冤罪晴らす道
警察、検察の不当な捜査手法がまたも司法によって厳しく批判され、再審の道が開かれました。 38年前に福井市内で中学生が殺された事件で、懲役7年の実刑が確定し服役した前川彰司さんに対し、名古屋高裁金沢支部は再審開始の決定をしました(23日)。 検察は異議を申し立てず再審公判の開始が確定しました。
事件発生1年後に逮捕された前川さんは、一貫して無罪を主張。 前川さんの胸に血がついていたなどとする知人らの証言をもとに起訴されましたが、客観的な証拠はありませんでした。
■不利益な事実隠す
事件の経過からは、物証がないなか、警察の見立てに沿った証言を無理にでも引き出そうとする不当な捜査と、証言の信用性をめぐる司法判断の問題点が浮かび上がります。
当初の裁判の一審は、証人の供述は変遷を重ねており信用できないとして無罪としました。 しかし二審は、その裁判においても証人が供述を変えたにもかかわらず、「大筋で一致」するとして逆転有罪を言い渡し、最高裁で確定しました。
前川さんは服役後の2004年に再審請求し、証言者の供述調書の一部が開示された結果、証言の変転がいっそう明白となり再審開始が認められました。 しかし、検察の異議が認められて取り消され、再審請求は2度目でした。
今回、弁護団の要求と裁判所の訴訟指揮で警察の捜査報告メモを含む287点の新証拠が開示され、供述を変えた証人の尋問も行われました。 その結果、事件発生日に関する供述が事実と異なる▽自身の覚せい剤取引を見逃す見返りに捜査側の求める証言をした▽捜査側から金銭を受けていた―などが明らかになりました。 検察が日付の違いを認識しながら隠してきたことも判明しました。
再審開始を認めた名古屋高裁金沢支部は、証言は捜査に行き詰まった警察が「なりふり構わず」不当な誘導などで引き出したものだと指摘。 検察には不利益な事実を隠そうとする意図があったと推認されるとし「公益を代表する検察官としてあるまじき、不誠実で罪深い不正」「到底容認することはできない」と非難しました。 有罪とした司法判断も「正義にも反し許されない」と批判しました。
関係当局はこの指摘を真摯(しんし)に受け止めるべきです。 袴田事件では自白偏重の捜査が厳しく批判されました。 冤罪(えんざい)を生むこうした捜査の根絶のため、捜査のあり方の検証が不可欠です。
■再審法の改正急務
袴田事件でも明らかになったように、今回も刑事訴訟法に再審に関する規定がほとんどないという問題が浮き彫りになりました。 検察が証拠開示に応じるルールがなく、開示命令するかは担当裁判官に左右されるうえ検察は拒否できます。 実際、今回も検察は無罪を示す証拠を隠していました。 法改正で証拠の全面開示を義務づけるべきです。
再審開始への検察の不服申し立てが審理の長期化を招いています。 検察は再審公判で事実を争えばよいのであり、不服申し立ては禁止すべきです。 国家による最大の人権侵害である冤罪を防ぎ、速やかに救済するための法改正がいよいよ政治に求められています。