18世紀の英経済学者アダム・スミスは、のちの経済学を決定づける一文を書きました。「我々が食事を手に入れられるのは、肉屋や酒屋やパン屋の善意のおかげではなく、彼らが自分の利益を考えるからである」。
では、そのステーキを誰が焼いたのか。『アダム・スミスの夕食を作ったのは誰か?』は、そんな問いかけから始まります。生涯独身だったアダム・スミスの世話をしたのは母親でしたが、それが語られることはありませんでした。
これまで主に女性によって担われてきた家事や育児、介護などのケア労働。しかしそれは経済活動とみなされず、GDPにも計算されず、経済学からは価値のないものとして切り捨てられてきました。
アダム・スミスに始まる、利己的で合理的で女性の無償労働に依存してきた「経済人(ホモ・エコノミクス)」を前提とする経済モデルには限界があるのではないか。英国在住のジャーナリストで著者のカトリーン・マルサルさんはそう指摘します。
男性中心の「経済人」の中で光が当てられてこなかったもう一つの経済。それは市場万能や弱肉強食ではなく、公正や平等、ケアや環境、信頼や心身の健康といった価値に重きをおくものだと。
今年のノーベル経済学賞を贈られた米ハーバード大のクラウディア・ゴールディン教授も女性就労の研究を続け、男女の格差是正の必要性を訴えてきました。伝統や歴史を覆し、新たな社会をめざす探究は、人間が働くことの意義も指し示します。勤労感謝の日に。
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