『夜想曲集 音楽と夕暮れをめぐる五つの物語』
”Nocturnes Five Stories of Music and Nightfall” by Kazuo Ishiguro(2009)
カズオ・イシグロ(英:1954-)
土屋政雄 訳
2009年・早川書房
2011年・ハヤカワ文庫
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肝心のあの若いハンガリー人マエストロのことも、今日広場で見かけるまではずっと忘れていた。
体形が少し丸くなり、首の周りも太くなっていたが、見れば、あの若者だと気づくのは難しくなかった。
ただ、ウェイターを呼ぶときの指の動きに、昔と違う何かがあった。
私の気のせいかもしれないが、人生への不満からくる苛立ち、ある種の傲慢さ―――
そんな何かがあった。
もちろん、一瞬見かけただけで断定するのはフェアではあるまい。
それでも、周囲に気に入られたいという若者の気遣いを失い、慎重な立ち居振る舞いをなくしているように見えた。
まあ、この世を生きていくにはいいことだと言えなくもない。
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2005年の『わたしを離さないで』が、昨年映画化されたカズオ・イシグロ。(日本では今月26日から公開)
よりによって、ルイ・ヨシダの直後にカズオ・イシグロの事を書いて良いのか。
そんな疑念を、
「いや、吉田類だって、今に世界に誇る歌人になる・・・」
と、自分の中で強く打ち消しながら、書き進めていくのだった。
イシグロ初の短篇集。
音楽と夕暮れをめぐる5篇。
長編が得意な人だと勝手に思っていたが・・・、めちゃくちゃいいのです。
5篇いずれもハズレなしだが、個人的に『チェリスト』が好き。
人生の切なさが凝縮されていると思う。
ところで、単行本のカバーは表紙と裏表紙を開くと、レコード盤になってて、これいいジャケだなぁと思ってたんだけど。
今年出た文庫本ではアレンジされちゃってて、ちょいと残念。
ちなみに英版はこんなん。
■本 de ミュージック
・『さよならバードランド』 ビル・クロウ(1996年・新潮社)
・『ジャズ・カントリー』 ナット・ヘントフ(1997年・晶文社)
・『ソング・ブック』 ニック・ホーンビィ(2004年・新潮文庫)
・『ペット・サウンズ』 ジム・フジーリ(2008年・新潮社)
・『夜想曲集』 カズオ・イシグロ(2009年・早川書房)
・『ヴェルヴェット・アンダーグラウンド&ニコ もっとも嫌われもっとも影響力のあったアルバム』 ジョー・ハーヴァード(2010年・ブルース・インターアクションズ)
■映画 de ミュージック
・『ビートルズがやってくる ヤァ!ヤァ!ヤァ!』 (1964年・英米/リチャード・レスター)
・『イエロー・サブマリン』 (1968年・英/ジョージ・ダニング、ジャック・ストークス)
・『アマデウス』 (1984年・米/ミロシュ・フォアマン)
・『バード』 (1988年・米/クリント・イーストウッド)
・『あの頃ペニー・レインと』 (2000年・米/キャメロン・クロウ)
・『ウォーク・ザ・ライン/君につづく道』 (2005年・米/ジェームズ・マンゴールド)
・『マイ・ブルーベリー・ナイツ』 (2007年・米仏英中香/ウォン・カーワイ)
・『ブロードウェイ♪ブロードウェイ コーラスラインにかける夢』 (2008年・米/ジェームズ・D・スターン)
・『アンヴィル!夢を諦めきれない男たち』 (2009年・米/サーシャ・ガヴァシ)
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夜想曲集:音楽と夕暮れをめぐる五つの物語(単行本) | |
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