『ボビー・フィッシャーを探して』
"Searching for Bobby Fischer"
監督、脚本:スティーヴン・ザイリアン
原作:フレッド・ウェイツキン
公開:(米)1993年(日)1994年
映画の冒頭、実際のボビー・フィッシャーの記録映像が流れつつナレーションが被さるシーン。
ここが物凄くいい。
このシーンだけでも価値があるくらい。
++++
ゲームまでの数日間
彼が現れるかどうか世界中が注目した
毎日 飛行機を滑走路に待たせ
彼は昼寝や
散歩をして過ごした
だがキッシンジャーに説得されゲームに
到着後 彼はアイスランドを侮辱した
”ボウリング場がないから 文明国じゃない” と。
テレビカメラやライトが気に入らず
テーブル 椅子 チェス盤にも文句を言った
ホテルの景色がよすぎる事も・・・
チェスには関係ない事なのになぜだろう
勝てば史上初のアメリカ人世界チャンピオン
負ければブルックリン出身のただの負け犬
21曲目の40手で彼はスパスキーのスキを突いてポーンを進めた
ついにやった
彼はヒーローとなった
ロシア人を破るという約束を果たしたのだ
ヘビー級マッチと同じくらいの賞金額
政治家や大物たちとの夕食・・・
けれどボビー・フィッシャーは予期せぬ事をした
姿を消したのだ
++++
IQ187のミステリアなチェスプレイヤー、ボビー・フィッシャー(1943-2008)。
最近あんまりIQって言わなくなりましたが、人類の95%はIQ70~130に収まるそうな。
米国人初の世界チャンピオンにして、奇行癖の持ち主。
試合拒否、失踪。
米国政府からの起訴、拘束。
しかし、この映画はボビー・フィッシャーにフォーカスした作品ではない。
子供時代、天才チェス少年として鳴らした、ジョッシュ・ウェイツキン(1976-)。
ボビー・フィッシャーに憧れ、ストリートのチェスに鍛えられた。
本作公開の1993年と翌94年には米国ジュニア選手権で優勝。
彼の父親が息子ジョッシュを題材に上梓した同名の小説(1988)を映画化したのが本作。
2014年に邦訳出てます。(みすず書房サイコー)
つまり、ちょっとややこしいけどこの映画、冒頭の記録映像を除いてボビー・フィッシャーは出てきませんのん。
ジョッシュ少年のチェスの打ち方がボビー・フィッシャー的だって話ね。
ボビー・フィッシャー自身について知りたい人は、2014年に『完全なるチェックメイト』でトビー・マグワイアがボビーを演じているのでそちらを観よう。
わたし、個人的にトビー・マグワイアは好きな俳優でして。
題材はもちろんボビーの人生のハイライトとも言えるソ連チャンピオン、ボリス・スパスキー戦。
ボビーが神経やられていく感じをトビーが好演するという、ボビー&トビーな状況。
さて、本作『ボビー・フィッシャーを探して』に話を戻しまして。
テーマは大人たちの狂騒曲。
ストリート(公園)でチェスを打ち始めたジョッシュ少年。
父親のフレッドほか、周りの大人たちは彼の才能に魅せられ、誇らしく感じます。
でも、ジョッシュが全米で勝利を重ねるにつれ、大人たちはおかしくなっていきます。
当の本人は純粋にゲームを楽しんでいるのに。
こうあるべし、という型にジョッシュを押し込もうとします。
そこには、自分の人生でもこうすべきだった、本当はこうなりたかったというエゴが見え隠れします。
息子思いの良き父だったフレッド。
初めてジョッシュが出場したキッズ・トーナメントでは、他の子の親たちの狂乱ぶりに戸惑いを覚えますが。
いつしかその親たちそっくりになっていきます。
やがてジョッシュは自分がゲームで負ければ、父親からの愛を失うのではないかと恐れるようになります。
それは、彼が自由奔放な攻撃型のチェス(つまりボビー・フィッシャー的チェス)を失った瞬間でもありました。
父フレッドがジョッシュの勝利を望めば望むほど、ジョッシュは本来のチェスが打てなくなるというジレンマ。
どんな子供にとっても親の愛を失うほど怖いものは無い。
親が分かっているつもりで、忘れがちな事実です。
肝心の子どもたちはと言うと、彼らはゲームとの付き合い方をちゃんと分かっていたのに。
ジョシュ・ウェイツキンを演じたマックス・ポメランク君、当時8歳。
目の繊細な表情だけで、ジョッシュの思いを語りきります。
この人はいま何をしているのでしょうか。
ジョッシュと一緒に自らも成長する父親を演じたジョー・マンテーニャ。
超絶どーでもいい話ですが、小生、途中までこの人をチャズ・パルミンテリと混同して観てました。
チャズは『ユージュアル・サスペクツ』の大オチでコーヒー・カップ落とす人(クイヤン捜査官)ね。
お恥ずかしい。
でも、まだ見分けついてない。
ジョッシュの師匠、ブルースを演じたベン・キングズレー。
心に傷をもつブルースの繊細さと神経質さ、そして弱さをこれでもかと表現します。
母親ボニーを演じたジョーン・アレンは大きな母性を感じさせる演技。
ジョッシュに自己を投影しようとするあまり、子どもの心のキャパシティを超える要求をし始めるフレッドやブルースからジョッシュを必死で守ろうとします。
最愛の息子を守るため、夫であるフレッドに啖呵を切り、チェス教師として雇ったブルースを家から追い出します。
さながらジョッシュの防波堤といった役割。
オトコって本当ダメだね。
近年だと『ジェイソン・ボーン』シリーズのパメラ・ランディ役可愛かった。
ジョッシュのもう一人の師匠、ヴィニーを演じたローレンス・フィッシュバーン。
フィッシュバーンはなんと70年代からキャリアを積んでいて、本作時点で既に経験豊富な俳優ですが、瑞々しい魅力を放っています。
(後の姿を知る身としては、とにかく細い!)
仮にヴィニー役が魅力ゼロだったとしたら、この映画は成立しなかったでしょう。
このように魅力あふれる役者陣に支えられた本作ですが。
個人的に目が離せないのは、やはり学校の先生役を演じたローラ・リニーでしょう。
本作での演技がどうと言うより、単純にタイプなのだ。
ローラ・リニ―に関しては『ラブ・アクチュアリー』(2003)とか、『イカとクジラ』(2005)とか、2000年代の映画でも毎回気になります。
毎度、若干野暮ったいのは役作りなのか天性のものなのか。(本作の先生役もダサい)
そして、ほんの少しだけ寄り目なのかな?
黒目が少し中央に寄っていたり、あるいは目自体が若干離れている女子と対峙すると、男子の心拍数が上がるというのは科学的に実証された事実です。(夜間飛行調べ)
きっと実際にお会いしたらドギマギしてしまいます。
(ちなみにこのドギマギという言葉は令和の世になっても使い続けていきたい)
現在55歳の彼女ですが、もしニューヨークのレストランでお見掛けしたら(ローラはジュリアード卒)俺は強く思うだろう。
今でもタイプだと。
■おまけ
本作は、天才チェス少年、本物のジョッシュ君のカメオ出演でも知られます。
さて、どの人?
そーです。
真ん中の白シャツにグリーングレーのコートを来た青年がジョッシュ君本人です。
93年だと、もうだいぶ大きいですね。
あと、本作には序盤の公園のチェス打ちたちのシーンで、実在のチェスプレイヤー、カムラン・シラジ(Kamran Shirazi)もカメオ出演しているんですが。
ご本人の、あの、ナイーブそうな佇まい。
これはキュンと来ますね。(ホモではない)
ちなみに、劇中では
「見ろ、ありゃグランド・マスターのシラジだぜ」
と言われていますが、実際のシラジ氏はインターナショナル・マスターだそうです。
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