■Sさん
金曜日の夕方。
年度末でざわつくオフィスに、Sさんが挨拶に来てくれた。
「どこに異動になったの?」
「ドイツ支店です」
「え? 今、金曜の夕方にここ(東京本社)にいて・・・」
「はい、月曜の朝7:30にはドイツ支店に初出勤です・・・(笑)」
「え~(笑) 」
働くなぁ、日本のサラリーマン・・・。
それじゃ土日はほとんど移動で、着いたら寝ないで出社だね。
Sさんは今は本社に居るけど、俺がイスタンブールに住んでいたころは、イタリア支店に居て。
遊びに行くと、現地でホテルも手配してくれるし、美味しいピッツェリアやトラットリアに沢山連れていってくれた。
10コくらい後輩だけど、仕事もできるナイスガイなので、義理の弟とかになってくれたら嬉しいと秘かに思ってたんだけど。
半年前にできた彼女と急遽結婚し、奥様もイタリアに連れてくそうで。
さすが、出来る男はいざとなったらやる。
再びヨーロッパへ。
今頃はドイツに向けて雲の上を夜間飛行しているだろう。
無事なフライトを。
■Hくん
Hくんは、去年できたばかりの同い年の友達。
仲間は沢山いるけど、本当の友達に出会えることは少ない。
お互い、呑み助ということで意気投合したけど、人間の中身は正反対。
Hくんの専門は数字(経理と財務)。
俺の専門は言葉。
Hくんはいつも控えめだけど、言うべき時には相手が誰であっても言える意思の強い男。
俺は日ごろ大言壮語して、必要な時には何もできずに手をこまねいている男。
Hくんは水泳と自転車の名手で、休日には数々の大会に挑むタフな男。
俺は年々膨らんでいく己がお腹をさすりながら「双子かしら?うふふ・・・」と嘯くだらしない男。
Hくんは歴史書を当たるとき、後年の研究書じゃなくて必ず原本にあたる男。
俺はさっき読んだWEB上の駄文でも、100年前から知ってたかのように語る男。
今の組織に入ったとき、Hくんの知識や謙虚さに完全にノックアウトされてたんだけど、
ある仕事を納期に迫られて「えいッ」と例によって適当にこなした時、Hくんが
「夜間飛行くんはスゴイ・・・!!」
と言ってくれて、今思えば新入りの俺を意図的にチア・アップしてくれてたのかもしれないけど、あれは助けられた。
Hくんは4月から名古屋に移り、40人を率いるリーダーにご昇進。
飲み仲間は沢山いるけど、さしで飲みにいくのは夜間飛行くんくらいしか居ないんだ。
そう言ってもらい、あの時、秘かに嬉しかった。
■Sくん
一緒のチームで仕事したSくんは俺が持っていない分析力を持っている男。
データを集めるのも早く、それを分析してまとめるのもスーパー早い。
毎朝、各国の情報を拾わなきゃいけないくて、ソースは英語中心で、たまにフランス語やドイツ語もまじるけど、なんなく資料を作ってくれる。
モノゴトを一瞬とて覚えていられない俺が
「あれ? えーっとあの会社って北欧のファンドに買われたの何年前やっけ?」
とか聞くと、たいていコンピュータのごとく即答してくれる。
そのかわり。
と言う訳ではないけど、Sくんはまともな社会人としての人付き合いができない。
社交辞令が言えない。
会議や宴会がつまらなければ、その場ですぐに内職を初めてしまう。
しかし、それらは全部、俺が持っている能力で補える(笑)
つまり我々は良いコンビだったんではないかな。
ついこないだも一緒にラスベガス行ったばかりだしね。
4月から法務のセクションに。
幸運を。
また飲みに行こう。
++++
異動するみなさん、お元気で。
また会う時はとびきり美味い酒を飲もうぜ。