『夜間飛行』

また靴を履いて出かけるのは何故だろう
未開の地なんて、もう何処にもないのに

『マンスフィールド短編集』

2013-03-20 | Books(本):愛すべき活字

『マンスフィールド短編集』
キャサリン・マンスフィールド(英:1888-1923)
"The Garden Party" by Katherine Mansfield(1922)
1957年・新潮文庫


仕事と飲みでぶっ倒れそうな最中、よりによって20年代の短編を読んでる自分がよく分からない。

しかも、マンスフィールドなんかじぇんじぇん好きくない。


あー、どうして読んでるんだろ、俺。


しかし、本書のなかに
『ブリル女史』という、たった10ページの短編がある。

ちょっと、そのことを話しちゃおうかな。


日曜日になるとブリル女史は自慢の毛皮の襟巻(狐の顔がそのまま付いてるヤツ)を首に巻いて公園に行き、楽隊(バンド)の演奏を楽しむ。

しかし、ブリル女史の本当の楽しみは、この公園で起こる全ての出来事を観察することにある。


腕を組んでさっていく若者たち、すみれの花を落とす美しい婦人、すみれを拾ってあげる子供、受け取ったすみれをもう一度捨てる婦人(よー分からん)、威厳のある紳士に声をかけるがあっさり振られる中年の婦人。


天気は朗らかで、季節は春へと向かっている。

なんて楽しいんだろう!


そして、ブリル婦人は思う。

この公園にいる皆が俳優だ!

そして、ベンチに座り、彼らが交わす会話の全てに耳をそばだてている自分自身も、紛れもなく、公園というステージに立つ女優の一人なのだ!


ところが、ちょうどそのとき、美しい服を着た少年と少女がやって来て、ブリル婦人のそばに座る。

二人は愛し合っているように見える。


「いや、いまはだめ。ここじゃだめよ」


「どうしてさ?

あそこの端に、あのいやな老いぼれ婆さんがいるからかい?

あいつ、なんだって、ここへくるんだろう。

だれもあんなやつに用はないのにさ。

なんだって、あの老いぼれの馬鹿づらを、うちにひっこめておかないんだろう?」


「おかしいのは、あの毛皮の襟巻よ。

鱈のフライそっくりだわ」


「おいっ、いっちまえ!

ねえ・・・、話してよ、かわいいひと(マ・プティット・シェリ)」


「だめ、ここじゃ。あとでね」


ブリル女史は家へ帰る途中、たいていパン屋で蜂蜜入りケーキを一切れ買う。

この一切れは彼女なりの”日曜日のおごり”なのだが、この日はパン屋にも寄らず、階段をあがり、小さな部屋にはいって羽根布団のうえに腰をおろす。


長いこと布団に坐っていた後、毛皮の襟巻をすばやくはずして、それを見もしないで箱の中にしまいこむ。

その箱のふたをしめるとき、ブリル女史は、何か泣いている声のようなものを聞いたと思う。



ちょっとぉ・・・。

なんなの、この、読んだ瞬間に読んだことを後悔しちゃうような話。

100年前だって、今だって、結局人が住むかぎりこの世は変らんという事かしら。


ブリル女史は狐の襟巻で少年を攻撃したら良かったんだよ。

シャーッとか言って。

その喧嘩、俺はブリルサイドにつくよ。


マンスフィールドは短編の名手と評されるも、病気に悩まされ続け、34歳の若さで世を去った。

しかし、この感受性だと、病気を別にしたって生きていくのは楽でなかっただろう。


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マンスフィールド短編集 (新潮文庫)
安藤 一郎
新潮社

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3 コメント

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Unknown (uzu)
2013-03-21 00:51:37
はじめまして、こんばんは。
こっそり、ずっと楽しみに読んでました!
久々の連続更新、ウレシイです♪
私もブリルサイドにつきます、その喧嘩。
その後、蜂蜜ケーキを一緒に食べたい♪
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こんばんは (夜間飛行)
2013-03-22 02:17:18
uzuさん
いや~、蜂蜜ケーキを一緒に食べるとこまでは思い至りませんでした(笑)
返信する
Unknown (uzu)
2013-03-23 01:48:39
うっかり、食いしん坊なのがバレてしまいました(笑)
これからも、楽しみに読ませていただきます♪
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