『マンスフィールド短編集』
キャサリン・マンスフィールド(英:1888-1923)
"The Garden Party" by Katherine Mansfield(1922)
1957年・新潮文庫
仕事と飲みでぶっ倒れそうな最中、よりによって20年代の短編を読んでる自分がよく分からない。
しかも、マンスフィールドなんかじぇんじぇん好きくない。
あー、どうして読んでるんだろ、俺。
しかし、本書のなかに『ブリル女史』という、たった10ページの短編がある。
ちょっと、そのことを話しちゃおうかな。
日曜日になるとブリル女史は自慢の毛皮の襟巻(狐の顔がそのまま付いてるヤツ)を首に巻いて公園に行き、楽隊(バンド)の演奏を楽しむ。
しかし、ブリル女史の本当の楽しみは、この公園で起こる全ての出来事を観察することにある。
腕を組んでさっていく若者たち、すみれの花を落とす美しい婦人、すみれを拾ってあげる子供、受け取ったすみれをもう一度捨てる婦人(よー分からん)、威厳のある紳士に声をかけるがあっさり振られる中年の婦人。
天気は朗らかで、季節は春へと向かっている。
なんて楽しいんだろう!
そして、ブリル婦人は思う。
この公園にいる皆が俳優だ!
そして、ベンチに座り、彼らが交わす会話の全てに耳をそばだてている自分自身も、紛れもなく、公園というステージに立つ女優の一人なのだ!
ところが、ちょうどそのとき、美しい服を着た少年と少女がやって来て、ブリル婦人のそばに座る。
二人は愛し合っているように見える。
「いや、いまはだめ。ここじゃだめよ」
「どうしてさ?
あそこの端に、あのいやな老いぼれ婆さんがいるからかい?
あいつ、なんだって、ここへくるんだろう。
だれもあんなやつに用はないのにさ。
なんだって、あの老いぼれの馬鹿づらを、うちにひっこめておかないんだろう?」
「おかしいのは、あの毛皮の襟巻よ。
鱈のフライそっくりだわ」
「おいっ、いっちまえ!
ねえ・・・、話してよ、かわいいひと(マ・プティット・シェリ)」
「だめ、ここじゃ。あとでね」
ブリル女史は家へ帰る途中、たいていパン屋で蜂蜜入りケーキを一切れ買う。
この一切れは彼女なりの”日曜日のおごり”なのだが、この日はパン屋にも寄らず、階段をあがり、小さな部屋にはいって羽根布団のうえに腰をおろす。
長いこと布団に坐っていた後、毛皮の襟巻をすばやくはずして、それを見もしないで箱の中にしまいこむ。
その箱のふたをしめるとき、ブリル女史は、何か泣いている声のようなものを聞いたと思う。
ちょっとぉ・・・。
なんなの、この、読んだ瞬間に読んだことを後悔しちゃうような話。
100年前だって、今だって、結局人が住むかぎりこの世は変らんという事かしら。
ブリル女史は狐の襟巻で少年を攻撃したら良かったんだよ。
シャーッとか言って。
その喧嘩、俺はブリルサイドにつくよ。
マンスフィールドは短編の名手と評されるも、病気に悩まされ続け、34歳の若さで世を去った。
しかし、この感受性だと、病気を別にしたって生きていくのは楽でなかっただろう。
<Amazon>
マンスフィールド短編集 (新潮文庫) | |
安藤 一郎 | |
新潮社 |
こっそり、ずっと楽しみに読んでました!
久々の連続更新、ウレシイです♪
私もブリルサイドにつきます、その喧嘩。
その後、蜂蜜ケーキを一緒に食べたい♪
いや~、蜂蜜ケーキを一緒に食べるとこまでは思い至りませんでした(笑)
これからも、楽しみに読ませていただきます♪