『ヘビトンボの季節に自殺した五人姉妹』
ジェフリー・ユージェニデス(米:1960-)
佐々田雅子 訳
"The Virgin Suicides" by Jeffrey Eugenides(1993)
1994年・早川書房
2001年・ハヤカワ文庫
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六年生のとき、女の子たちが特別な映画を見るために講堂に集まったことがあった。
講堂にもぐり込んで、古い投票用紙記入所に隠れたポール・バルディノが、何の映画なのか報告してくれることになっていた。
ぼくらは運動場に出て、小石を蹴りながら待っていた。
ポールが楊枝を噛み、金の指輪をもてあそびながら、ようやく現れたときには、期待で息が詰まりそうになった。
「映画、見てきたぞ」
と、ポールは言った。
「何のことかわかった。
いいか、あのな、女の子はな、十二かそこらになると」
ポールは身を乗り出した
「おっぱいから血が出るんだ」
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2001年、元ビートルズのジョージ・ハリスンが死んだ時に、The DIGとロックジェットの共同編集で出た追悼のムックがある。
その中に、作家の桐野夏生のインタビューが載っていて、中学生時代、武道館でのビートルズ来日コンサートに行ったと。
桐野夏生は、どういう訳かジョージの大ファンで、定期入れの中にはずっとジョージの写真を入れていたそうだ。
しかし、武道館で生身の4人を目にして、
「何万人のファンにとってのジョージ」
であることを認識した瞬間に、恋の熱がスーッと冷めていった。
インタビュアーの
「誰かをアイドル視する時代そのものが終わったという感じなんでしょうか?」
という問いに、桐野はこう答えている。
「そうですね。私は、その後、誰かの追っかけをやったことはないんですよね。
音楽はずっと聴いてはいましたけど。
ジョージに夢中になったようにはならなかったですね」
本書、『ヘビトンボの季節に自殺した五人姉妹』。
まあ、題名を見た瞬間わかるとおり、陰鬱だ。
心躍るような話じゃない。
それでも、 この本が「読ませる」のは、語り手である元・少年たちの青春期でもあるから。
リズボン家の五人姉妹は、町にとってまさしく偶像そのものだった。
セシリア(13)、ラックス(14)、ボニー(15)、メアリイ(16)、テレーズ(17)は、少年たちの永久不滅のアイドル。
桐野夏生にとってのジョージだ。
五姉妹の前には何もなく、五姉妹の後には思い出しか残らないのだ。
なーーーんもない町に、間違って生れ落ちた五人姉妹。
いざ、彼女たちが去っていく時には、見ほれてしまった少年たちの残りの人生と、なんと町そのものまで奪っていく。
別に欲しくもなかったんだろうけどね、あんな町。
ちなみにソフィア・コッポラの映画(1999年)は、 原作を越える傑作。
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ヘビトンボの季節に自殺した五人姉妹 (ハヤカワepi文庫) | |
Jeffrey Eugenides,佐々田 雅子 | |
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