皆さんこんにちは、監督の角谷です。
在宅勤務にも慣れ、家族と過ごす時間も増えました、
おそらく今年度はチームメンバーといる時間より、家族と過ごす時間の方が長くなりそうなので、
しっかり家族孝行したいと思います。
さて、今回は市販車部門7連覇の振り返り、第3弾最終回(6~7連覇)です。
就任5年目のダカールラリー2019 ペルー大会は、初めての1か国開催となり、走行距離・大会期間とも
例年に比べ短くなりましたが、競技区間の70%が砂丘エリアと、競技難易度の非常に高い大会となりました。
大会初日から砂路面が中心となり、砂丘も登場するなどいつもと違う雰囲気、そんな中349号車
(三浦DR/ローランNV)はステージ途中にスタック。
スタック自体は珍しいことではないのですが、その時使用した脱出板を見失うというビックリする
ようなことが起きました。
なぜなら、長さ100cm×幅40cmの蛍光オレンジに塗装されたとても目立つ脱出板・・・どうやったら見失うんだ?
と思うと同時に、それだけ砂がフカフカなんだと理解しました。
普段、砂路面での作業では、取り外したタイヤのナットですら、必ず室内へ置くというのが鉄則。
小さな部品は砂に埋もれやすく、現場で見失わないようにするため。
脱出板のような大きなものが簡単に埋もれてしまうということが、この大会の難しさを物語る出来事であり、
初日から嫌な予感しかなかったです。
しかし、その後は前回大会から力を入れてきた砂路面対策の効果もあり、難しいながらも大きなトラブルなく、
前半戦を乗り切ることができました。
ここで、砂路面の対策の1つを簡単にご紹介。
軽量化や高性能パーツなども、もちろん重要ですが、我々がエントリーしている市販車部門では、
制約が厳しく簡単に改造することができません。なので、日本語でいうと、「改造」というよりは「工夫 」
という言葉の方が近いです。
前回大会から力を入れてきたのが、熱マネージメント。
「空気で冷やす」ということと「熱を逃がす」という、この2つを重点的に工夫してきました。
砂丘や砂路面では、車速が伸びません。(場合によってはローギアでアクセル全開なのに時速20km)
なので、空気(風)がクルマに当たり難いのです。
そこで、まずは風量が少なくても効率的にラジエターを冷やせるように導風板の取り付け位置や角度を工夫。
更に、空気を当てるだけではなく、熱せられた空気を逃がすことも工夫しました。
何度もトライ&エラーでデータを取り、試行錯誤して今のラリー車は作り込まれています。
←モロッコテストの走り込んだタイヤ
←テスト後のヒヤリング
←夕方、テストから戻っての表情
話を戻して、後半戦は更に競技難易度が上がり、2台のクルマは苦しめられました。
今大会、走行距離が短くなった分、ナビゲーションの難易度が上げられていて、何度もリルートする場面も。
そのような状況で350号車(ラヴィエルDR/ギャルサンNV)が、前回大会でリタイアとなった地点のすぐ近くで、
またしても冷却系のトラブル。こちらもリタイアの教訓から、対策として交換部品を積載していて、
トラブル対応ができビバークに戻って来ました。
トラブルが起きたことは、もちろん原因究明が必要ですが、去年の「借り」を返せたような気持ちになりました。
最後まで気の抜けないステージが続きましたが、2台は協力し合いながら、ワンツーフィニッシュで市販車部門6連覇を達成。
今回は砂路面が多く、クルマへの負担が非常に大きかったですが、毎日毎日完璧に修理してくれたてメカニック陣
の頑張りと、対策としてやってきたことが、しっかりと結果に繋がった手応えのあった大会でした。
続いて、就任6年目のダカールラリー2020 サウジアラビア大会
毎年「もっといいクルマづくり」を念頭に、いろいろなチャレンジに取り組んで来ましたが、今回私が就任してから
最大のチャレンジと言えるほど、非常に難しいAT仕様でのダカール参戦でした。
3年前のモロッコテストから開発がスタートし、最初はだれもがその性能に対して半信半疑でした。
しかし、いきなりのテストでAT特有のギアの繋がり方(MTの様にシフトチェンジの際のクラッチが切れる状態がない)や、
操作性(2ペダル)の高さから、ラリー車としての可能性を見出すことができました。
もちろん全てが良い情報ばかりではなかったです。
ラリー走行=一般想定外の走行となるため、高負荷での走行が続くとフェールセーフモード機能がはたらき、
車両を保護する目的で出力が自動的に制限されるなど、結局みんなで朝から晩までトライアンドエラーを繰り返し、
1つ1つトラブルを潰し込みながら、AT仕様のラリー車を仕上げていきました。
また主催者から大会情報がリリースされ、初の中東サウジアラビアでの開催と知り、初のAT仕様でのチャレンジに加え、
開催地も初ということで、未知の領域が拡がるばかりでした。
正直、今回の大会は「満を持して」というよりは「今やれることはすべてやった」という気持ちの方が強かったです。
それくらいギリギリまでやることも多く、最後まで諦めずに準備を進めてきました。
大会結果はご存知の通り、ダカールラリー史上初めて四輪の市販車部門で7連覇を獲ったチームとなり、
またTLCとしても初めての7連覇という最高の結果となりましたが、現場では成績ほど順調では無かったです。
大会初日から2台ともパンクが多く、その他交換部品(部位)も南米時代とは明らかに違っていました。
そして、大会4日目にはチーフメカのフィフィから「このままのペースでは持って来たパーツが無くなる」と。
急遽、チームミーティングを実施し、2台とも走行ペースを再考するよう指示しました。
そうなんです。南米時代のペースで走ってはいけなかったのです。
特に前半ステージは、岩盤の上に砂路面や砂丘がある状態のため、競技車両が何台も同じところを走行すると砂が掘り起こされ、
その下に隠れている岩とタイヤがヒットしてパンクするパターンが多く、競技車両はペースを落として回避する必要がありました。
そう言ったサウジの洗礼を浴びながらも、なんとか2台は協力して前半を乗り越えました。
前半を終えて、市販車部門のクルマは我々の2台になり、ライバルはいなくなりました。
あとは、このまま最後まで行けばいいだけ!と思う方も多かったと思いますが、私は逆のプレッシャーを感じていました。
ライバルがいないのだから、当然2台とも完走してワンツーフィニッシュで7連覇しなければならないと。
幸いチームメンバー全員が、ダカールラリーは最後までなにがあるかわからないことを知っているので、
後半も気を緩めることなくやってくれました。
ここで、ビバークでのお話。
今回もビバークにいると連日、いろんな人が我々のクルマを観に来てくれます。
サウジアラビアは、世界で一番ランドクルーザーが売られている国、観に来る人もランクル所有者やランクル好きな方ばかり!
皆さん、真剣な眼差しで興味津々!
南米時代と大きく違ったのは、その質問。
南米では、ご本人が趣味でラリーをやられている方が多く、その質問の多くはクルマの性能であったり、パーツに対する質問。
一方、サウジでは主に以下3つ
①このクルマを売って欲しい!誰に言えば買える?
②私のクルマをコレ(ラリー車)と同じにしてくれ!
③日本で同じモノが売っているのか?
その都度、通訳の方を介して、TLCの活動を説明してもらい対応してました。
※ただ、誰一人として「このラリー車はいくらするの?」と値段を聞く方が居なかったです。お金持ちだから?かな?
ラリーの話に戻り、後半はサウジアラビアの南部(ルブアルハリ砂漠)が主戦場、より難易度は上がりました。
特に、後半戦最初の3ステージ(ステージ7,8,9)は、SSで400km以上トータルでも700kmを超えるロングステージの連続。
路面状況からも、燃料切れを起こさないよう燃料のマネージメントをしながらの走行が必要で、非常に神経質になりました。
そして、次のステージ10、11は、メカニックのサポートができないマラソンステージ。
大会終盤にきてからのマラソンステージは、ラリー車にもクルーにも非常に過酷。
なんとか往路はペースを落として、よりセーフティに走行するプランでしたが、競技中突然338号車から衛星電話が入り、
電話に出たチーフメカニックのフィフィは仏語で放送禁止用語を連発。ビバークで待機していた我々の雰囲気は一変。
一気に緊張感に包まれました。(当然、DVDではカットされました(笑))
あとでわかったことですが、そこまで深刻なダメージでは無かったものの、マラソンステージの往路でのアクシデントだったことや、
電話でしか情報が掴めないことから、うまく状況が伝わらず非常に焦ったことを今でも覚えてます。
そんなこともありながら、復路も2台助け合って無事に難関だったマラソンステージをクリア!
最終日は160kmのSS、過去にも最終日にリタイアした選手が何人もいるので、SSをゴールして戻って車検に合格するまでは気が抜けません。
(不正が無かったことが確認されなければいけないため、車検を受けます)
ほとんどの関係者や、うちのメンバーも皆、SSゴールした時点で大喜びしている中、最終確認まで喜べない自分との
ギャップで毎回モヤモヤしています。
(更に会社に報告したり、SNS上げたり、祝勝会の準備とやることも多く喜ぶタイミングを逃してます)
いろいろなことが大会ごとに必ず起き、その時は大変で辛い思いもたくさんしますが、こうやって振り返ると全てが思い出になっていて、
一緒に戦ってくれた仲間と、応援してくださった皆様に感謝の気持ちでいっぱいになりました。
これで7連覇の振り返りが終了です。
これからも、TLCはさまざまなことに挑戦しながら、勝ち進んで行きますので今後とも応援よろしくお願いいたします。
最後まで観ていただきありがとうございました。
以上
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