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精神科医師のブログ。
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認知症やひとり暮らしをささえる在宅ケア「小規模多機能」

2010年12月23日 | Weblog
認知症やひとり暮らしを支える 在宅ケア「小規模多機能」
土本 亜理子
岩波書店


医療や介護福祉の周辺で取材をつづけ、自らもホームヘルパーとして現場に飛び込む土本亜理子氏。
出産、認知症、緩和ケア、介護、リハビリテーションなどとテーマは移り変われど、どの本も鋭い切り口と、丁寧な取材、問題提起の含まれたルポルタージュだ。
これまで出版された彼女の本はだいたい読ませていただいているが、その著作によりその世界の先達を知り、影響を受けたことは数知れず。

「認知症や一人暮らしを支える在宅ケア「小規模多機能」」はそんな土本亜理子氏の新作で地域に密着しそれぞれのケアをおこなっているいくつかの小規模多機能を飛び込んで取材したルポルタージュだ。

宅老所などから発展し、かゆいところに手が届かない介護保険サービスの切り札としての小規模多機能。制度化もされ、要介護度に応じた包括料金による定額制で通い、泊まり、訪問のサービスを同じ事業者が行う。鳴り物入りで制度化された小規模多機能であるが、ニーズはあるのだが現実にはなかなかふえていかない。
。制度ではもはや小規模とはいえない25人が定員だが、重度の人を抱えないと経営的に成り立たず、たとえば20人が損益分岐点などと、常にギリギリの状態。どこまでやるという際限がないため、365日24時間、利用者のニーズに応えようと丁寧に一生懸命やろうとすればするほど、スタッフの熱意と善意に頼らなくてはならなくなる。小規模多機能には介護保険の矛盾が丸投げされている、その現実を見直さないといけないという。

「経営が安定していれば、どんなに困難なケースだって受けることができます。それが私たちのやりがいだし、職員を育てることもできる。ですが、経営の不安を抱えたまま事業を続けるのは難しいですよ。」
「すべて一括でという定額制の介護報酬方式は、施設介護でしかあり得ないと思います。小規模多機能のような在宅サービスは、定額制が一見よさそうに見えるでしょう。ですが、実際にやてみると、どこかで無理が出てきます。」
という現場の声。

「良質で新しいサービスを標準的なものとして確立しようとする場合、国は介護報酬と運営基準の二つの方法をつかって制度化するため、当初にはあったはずの理念とかエネルギーなどが薄らぎます。しかし、全国で運用されるためには標準化しなければならないため仕方ないのです。つまり運営基準と介護報酬で精度が動く範囲のサービスにしかなりえない。これがジレンマなんですよ。」
という制度設計に関わる側の人の声。

「理念は良いけど、その理念に向けて全力疾走しなさいといわれたら、運営は成り立たず、正規のスタッフの首を切らないといけなくなる。ではパートばかりで良いのか。ケアの劣悪化に必ずつながります。お年寄りのいのちや安全を守れないと思いました。」
とあえて制度に乗らなかったのは宅老所の元祖、よりあいの代表の声だ。

制度に上手く乗っかり美味しいところどりをし儲けようとする人がいる一方で、熱い志をもちニーズに応えようと制度で定められたサービスの範囲を超えて現場でもがく人がいる。
それは、医療者かもしれないし介護者かもしれない。ケアマネかもしれない。
そういえば知り合いの看護師でもあるケアマネが、貧しい終末期の人を在宅で支えるために、訪問看護なら費用がかかるが、自分がいけば費用がかからないのだと何度も訪問していた。

「人が新しい何かを作り出すのは、疑問や怒りが沸点に達したときではないか」というのが著者の感想に深くうなづけた。