北相木の松橋先生の漢方の講演会(クラシエ主催)があったので松本まで行ってきた。
前回は「抑肝散加陳皮半夏」であったが、今回は「補中益気湯(ほちゅうえっきとう)の処方解説」なんだもの・・・。
松橋先生ファンかつ補中益気湯ファンとしては行かないわけにはいかない。
なんといっても補中益気湯は私が漢方に目覚めさせてくれた方剤だ。
自分がばててどうしようもなく、疲れているのに眠れなかった日々に補中益気湯を飲むと眠れるようになった。
また疲れると出てきていた痔も治ったということで漢方に信頼を寄せるようになった。
台湾にいったときは生薬で買ってきて煎じて飲んでみたが実に美味かった。
メーカーによると日本で人気のある漢方製剤は補剤が主だそうである。
高齢化し体力が低下し補剤が必要な人が増えているということかもしれない。
いわゆる補剤として補中益気湯、六君子湯(りっくんしとう)、加味帰脾湯(かみきひとう)、半夏白朮天麻湯(はんげびゃくじゅつてんまとう)、十全大補湯(じゅうぜんたいほとう)、人参養栄湯(にんじんようえいとう)などがある。
補剤の主たる対象は気虚(機能の低下、エネルギー切れ)や血虚(貧血など物質の低下)である。
そして補中益気湯は補剤の雄である。
補中益気湯を入院症例全員に飲ませれば良いということを言っている乱暴な本もあるくらいである。
本日、学んだことも取り入れながらこれら方剤に関してまとめてみる。
中医学の病理学をおさらいすると、中医学で気(き)は体の機能的な側面を表し、血(けつ)は実質的、物質的な側面を表す。
さらに血の一部として津液(水)がある。
これらのが一連のシステムとして人体の機能をなしたものが正気(せいき)である。
外部の邪気(風、寒、暑、湿、燥、火)と戦っているのが病気の姿である。
一方、気、血、水が流れているのが正常であり、流れが滞ると気滞(きたい)、血瘀(けつお)、水滞(痰湿)などの病態となる。
気は血や津液を流す働きがあるが、気虚となると津液の流れが滞り痰湿が起こりやすい。
痰湿が生じると脾気虚が更に進むという悪循環が生じる。
これを断ち切るために補気や去湿が必要となる。
この目的で用いられるのが六君子湯である。
六君子湯は脾を中心に全身に気を補う人参(朝鮮人参)がメインであり、白朮(びゃくじゅつ)、茯苓(ぶくりょう)がサブ。
この2つは対薬となっており、どちらも補気、燥湿の作用がある。白朮は(補気>燥湿)、茯苓は(補気<燥湿)でありバランスがとれている。さらに甘い大棗(ナツメ)、辛い生姜(ショウガ)で食欲を出す。全体をまとめる甘草が加わる。
どれも君子のように優しい生薬であり、ここまでで四君子湯(しくんしとう)であるが、さらに気虚の結果生じる痰湿にも配慮したのが六君子湯である。
六君子湯ではシトラスの香りのする陳皮(ちんぴ、ミカンの皮、理気(気を整える)、開胃(食欲↑)、燥湿)と、半夏(はんげ、理気、止嘔、去痰作用)が加わり、胃の痰湿を取り食欲を増進させるという配慮がされている。
まとめると、六君子湯は体の機能やエネルギーが落ち、胃の症状があり食欲がないケースに適応がある。
さて補中益気湯である。
六君子湯との違いは何か?
補中益気湯は補剤としての働きがより強く、気虚に伴う全身の症状に対して効果がある。
補中益気湯は体全体の気を補う人参と、体の表面(皮膚や肺など)の気を補う黄耆(おうぎ)、脾胃(消化器系)の気を補う白朮の補気トリオが方剤の中心となっている。
これに気血同源ということから気虚に引き続いておきる血虚にも配慮して当帰(とうき)が加わり補血、活血作用を加えている。
さらに補中益気湯を補中益気湯たらしめている生薬として柴胡(さいこ)、升麻(しょうま)が必須である。
これらは気を上にもちあげ、内蔵を身体のあるべき位置に保つ升提陽気作用をもつ生薬で内臓下垂、脱肛などを改善する。
これに理気健脾の陳皮、食欲改善の大棗、生姜、全体をまとめる甘草が加わる。
今回の講義では述べられなかったが補中益気湯は柴胡剤の一部であり小柴胡湯証の人が弱った時に用いれば良いという口訣もある。
古典的な使い方として①中気下陥②気虚発熱③気虚出血(気虚が主、血虚が主なら加味帰脾湯がベター)が適応となる。
一言で言うと「バテた人」に用いれば間違いない。
うつ病治療の補助としてもとても良い。(不眠や抑うつが強ければ加味帰脾湯がよい)
あまりに弱って死にかけるところまでいってヘロヘロな枯れた感じの高齢者などには十全大補湯か人参養栄湯がよいが・・。
(松橋先生はスライドは使わずホワイトボードに書きながらの講義である。)
さて半夏白朮天麻湯も六君子湯から発展した方剤であるが、気虚がベースで痰湿から生じためまいや頭痛など様々な症状に用いられる。六君子湯に補気の黄耆や消食理気の麦芽、めまいを抑える天麻が加わっている。
さらに化湿の蒼朮(そうじゅつ)や利湿の沢瀉(たくしゃ)など痰湿に配慮し、痰湿は熱を持ちやすいことから黄柏(清熱燥湿)を加え化炎を予め予防している。次の証に移行していくのを予想して予め防いでいる。
一方で、甘く痰湿を悪化させうる甘草や大棗は抜かれている。だから半夏白朮天麻湯は六君子湯や補中益気湯のように甘くない。
まとめると「元気がなく、ふらついてめまいや頭痛など頭部の症状のある人」に適応である。
私は起立性調節障害の子どもに出したりもしている。
他にも補剤といわれるものは気血両虚に対応した十全大補湯(枯れた人に適応)、加味帰脾湯(不眠やクヨクヨしている人に適応)、人参養栄湯、清暑益気湯、清心蓮子飲などグラデーションをもっていろいろあるが、病後の方や高齢者に六君子湯や補中益気湯を中心に出すと喜ばれる。
2つ目の講演はスパルタ式のめまいの集団リハビリをおこなっており、難治性のめまいの患者があつまる横浜市立みなと赤十字病院の新井先生の話であった。入院しての集団リハビリで入院したOBがきてボランティアで教えているというのがピアヘルプでいいとおもった。
そこで、めまいで入院し中程度の抑うつ傾向のある人に補中益気湯をだして効果を上げているそうだ。つかうようになったきっかけは漢方をつかう医師が入院していて、新井先生がばてている様子をみてすすめられ、飲んでみたところその効果に驚いたからだそうだ。
補中益気湯の効果を感じるためにはまずは自身が疲れてバテた時に飲んでみて欲しい。
普通の薬局でOTCでも売っており、ユンケル黄帝液やゼナの高級なものと同様の生薬が入っており、ユンケルやゼナなどよりもはるかにリーズナブルである。(OTCのものは医療用よりやや量がすくない。ユンケルと違って糖やカフェインもなく安心して飲める。)
前回は「抑肝散加陳皮半夏」であったが、今回は「補中益気湯(ほちゅうえっきとう)の処方解説」なんだもの・・・。
松橋先生ファンかつ補中益気湯ファンとしては行かないわけにはいかない。
なんといっても補中益気湯は私が漢方に目覚めさせてくれた方剤だ。
自分がばててどうしようもなく、疲れているのに眠れなかった日々に補中益気湯を飲むと眠れるようになった。
また疲れると出てきていた痔も治ったということで漢方に信頼を寄せるようになった。
台湾にいったときは生薬で買ってきて煎じて飲んでみたが実に美味かった。
メーカーによると日本で人気のある漢方製剤は補剤が主だそうである。
高齢化し体力が低下し補剤が必要な人が増えているということかもしれない。
いわゆる補剤として補中益気湯、六君子湯(りっくんしとう)、加味帰脾湯(かみきひとう)、半夏白朮天麻湯(はんげびゃくじゅつてんまとう)、十全大補湯(じゅうぜんたいほとう)、人参養栄湯(にんじんようえいとう)などがある。
補剤の主たる対象は気虚(機能の低下、エネルギー切れ)や血虚(貧血など物質の低下)である。
そして補中益気湯は補剤の雄である。
補中益気湯を入院症例全員に飲ませれば良いということを言っている乱暴な本もあるくらいである。
本日、学んだことも取り入れながらこれら方剤に関してまとめてみる。
中医学の病理学をおさらいすると、中医学で気(き)は体の機能的な側面を表し、血(けつ)は実質的、物質的な側面を表す。
さらに血の一部として津液(水)がある。
これらのが一連のシステムとして人体の機能をなしたものが正気(せいき)である。
外部の邪気(風、寒、暑、湿、燥、火)と戦っているのが病気の姿である。
一方、気、血、水が流れているのが正常であり、流れが滞ると気滞(きたい)、血瘀(けつお)、水滞(痰湿)などの病態となる。
気は血や津液を流す働きがあるが、気虚となると津液の流れが滞り痰湿が起こりやすい。
痰湿が生じると脾気虚が更に進むという悪循環が生じる。
これを断ち切るために補気や去湿が必要となる。
この目的で用いられるのが六君子湯である。
六君子湯は脾を中心に全身に気を補う人参(朝鮮人参)がメインであり、白朮(びゃくじゅつ)、茯苓(ぶくりょう)がサブ。
この2つは対薬となっており、どちらも補気、燥湿の作用がある。白朮は(補気>燥湿)、茯苓は(補気<燥湿)でありバランスがとれている。さらに甘い大棗(ナツメ)、辛い生姜(ショウガ)で食欲を出す。全体をまとめる甘草が加わる。
どれも君子のように優しい生薬であり、ここまでで四君子湯(しくんしとう)であるが、さらに気虚の結果生じる痰湿にも配慮したのが六君子湯である。
六君子湯ではシトラスの香りのする陳皮(ちんぴ、ミカンの皮、理気(気を整える)、開胃(食欲↑)、燥湿)と、半夏(はんげ、理気、止嘔、去痰作用)が加わり、胃の痰湿を取り食欲を増進させるという配慮がされている。
まとめると、六君子湯は体の機能やエネルギーが落ち、胃の症状があり食欲がないケースに適応がある。
さて補中益気湯である。
六君子湯との違いは何か?
補中益気湯は補剤としての働きがより強く、気虚に伴う全身の症状に対して効果がある。
補中益気湯は体全体の気を補う人参と、体の表面(皮膚や肺など)の気を補う黄耆(おうぎ)、脾胃(消化器系)の気を補う白朮の補気トリオが方剤の中心となっている。
これに気血同源ということから気虚に引き続いておきる血虚にも配慮して当帰(とうき)が加わり補血、活血作用を加えている。
さらに補中益気湯を補中益気湯たらしめている生薬として柴胡(さいこ)、升麻(しょうま)が必須である。
これらは気を上にもちあげ、内蔵を身体のあるべき位置に保つ升提陽気作用をもつ生薬で内臓下垂、脱肛などを改善する。
これに理気健脾の陳皮、食欲改善の大棗、生姜、全体をまとめる甘草が加わる。
今回の講義では述べられなかったが補中益気湯は柴胡剤の一部であり小柴胡湯証の人が弱った時に用いれば良いという口訣もある。
古典的な使い方として①中気下陥②気虚発熱③気虚出血(気虚が主、血虚が主なら加味帰脾湯がベター)が適応となる。
一言で言うと「バテた人」に用いれば間違いない。
うつ病治療の補助としてもとても良い。(不眠や抑うつが強ければ加味帰脾湯がよい)
あまりに弱って死にかけるところまでいってヘロヘロな枯れた感じの高齢者などには十全大補湯か人参養栄湯がよいが・・。
(松橋先生はスライドは使わずホワイトボードに書きながらの講義である。)
さて半夏白朮天麻湯も六君子湯から発展した方剤であるが、気虚がベースで痰湿から生じためまいや頭痛など様々な症状に用いられる。六君子湯に補気の黄耆や消食理気の麦芽、めまいを抑える天麻が加わっている。
さらに化湿の蒼朮(そうじゅつ)や利湿の沢瀉(たくしゃ)など痰湿に配慮し、痰湿は熱を持ちやすいことから黄柏(清熱燥湿)を加え化炎を予め予防している。次の証に移行していくのを予想して予め防いでいる。
一方で、甘く痰湿を悪化させうる甘草や大棗は抜かれている。だから半夏白朮天麻湯は六君子湯や補中益気湯のように甘くない。
まとめると「元気がなく、ふらついてめまいや頭痛など頭部の症状のある人」に適応である。
私は起立性調節障害の子どもに出したりもしている。
他にも補剤といわれるものは気血両虚に対応した十全大補湯(枯れた人に適応)、加味帰脾湯(不眠やクヨクヨしている人に適応)、人参養栄湯、清暑益気湯、清心蓮子飲などグラデーションをもっていろいろあるが、病後の方や高齢者に六君子湯や補中益気湯を中心に出すと喜ばれる。
2つ目の講演はスパルタ式のめまいの集団リハビリをおこなっており、難治性のめまいの患者があつまる横浜市立みなと赤十字病院の新井先生の話であった。入院しての集団リハビリで入院したOBがきてボランティアで教えているというのがピアヘルプでいいとおもった。
そこで、めまいで入院し中程度の抑うつ傾向のある人に補中益気湯をだして効果を上げているそうだ。つかうようになったきっかけは漢方をつかう医師が入院していて、新井先生がばてている様子をみてすすめられ、飲んでみたところその効果に驚いたからだそうだ。
補中益気湯の効果を感じるためにはまずは自身が疲れてバテた時に飲んでみて欲しい。
普通の薬局でOTCでも売っており、ユンケル黄帝液やゼナの高級なものと同様の生薬が入っており、ユンケルやゼナなどよりもはるかにリーズナブルである。(OTCのものは医療用よりやや量がすくない。ユンケルと違って糖やカフェインもなく安心して飲める。)
めまいは寝てては治らない―実践!めまいを治す23のリハビリ | |
新井 基洋 | |
中外医学社 |