情報流通促進計画 by ヤメ記者弁護士(ヤメ蚊)日隅一雄

知らなきゃ判断できないじゃないか! ということで、情報流通を促進するために何ができるか考えていきましょう

防衛庁立川宿舎イラク反戦ビラ投函事件高裁判決に対し,東京弁護士会会長が憂慮すると声明

2005-12-27 20:24:01 | 適正手続(裁判員・可視化など)
「防衛庁立川宿舎イラク反戦ビラ投函事件高裁判決に関する会長声明」
 
 2005年12月9日、東京高裁第3刑事部は、防衛庁立川宿舎イラク反戦ビラ投函事件について、これを無罪とした東京地裁八王子支部刑事第3部判決を破棄し、被告人ら3名に対し、「正当な理由なく人の看守する邸宅に侵入したものである」として各罰金刑の言渡しを行った。

 地裁判決は、「ビラの投函自体は、憲法21条1項の保障する政治的表現活動の一態様であり、民主主義社会の根幹を成すもの」であるとして政治的表現活動の自由の優越的地位にも言及し、被告人らの行動は住居侵入罪の構成要件に該当するが、動機・態様・生じた法益侵害の要素にてらし可罰的違法性がないとした。

他方、高裁判決は、地裁判決がビラの投函に優越的地位を認めている点を批判して,「しかしながら,表現の自由が尊重されるべきことはそのとおりであるにしても,そのために直ちに他人の権利を侵害してよいことにはならない」「何人も,他人が管理する場所に無断で侵入して勝手に自己の政治的意見を発表する権利はない」と判示して,被告人らの行動の可罰的違法性を肯認した。

本件で投函されたビラの記載内容は、政府の自衛隊のイラク派遣政策を批判したものである。民主主義社会において表現の自由とりわけ政治的表現の自由は、大きな意義を有する。地裁判決の「ビラの記載内容は・・・自衛隊のイラク派遣という政府の政策を批判するものであるから・・・不当な意図を有していると解することは根拠に乏しい」「ビラの投函自体は・・・政治的表現活動の一態様であり・・・商業的宣伝ビラの投函に比して、いわゆる優越的地位が認められる」との判示も、この理を認めたものと解される。しかるに、高裁判決は政治的表現活動の自由の意義をふまえた被害法益保護などとの比較考量に乏しいと言わざるを得ない。

また、ビラ投函行為は、マスメディアのような意思伝達手段を持たない市民にとって表現の自由に基づいて自己の意見を他に伝達する重要な手段となっている。2005年5月14日、当会と日本弁護士連合会及び第一・第二東京弁護士会共催の憲法記念行事において、「今、問われる表現の自由、憲法21条―テレビからビラまで」と題してシンポジウムを行ってきたのは、このことを明らかにするためである。高裁判決は、この点についての理解も乏しいと言わざるを得ない。

ビラ投函に関連しては、本件以後も起訴される事案が続いている。当会は、こうした高裁判決が民主主義社会の根幹をなす表現の自由を萎縮させる結果をもたらすことを憂慮し、本声明を発するものである。

2005(平成17)年12月26日
東京弁護士会
会 長  柳 瀬 康 治

警察の情報コントロール権を強化~犯罪被害者等基本計画案閣議決定

2005-12-27 20:19:08 | 匿名発表問題(警察→メディア)
懸念されていたとおり,【犯罪被害者を支援するため、総合的な対策として政府が初めてまとめた犯罪被害者等基本計画案が27日の閣議で正式決定された。計画には、被害者を実名で発表するか、匿名にするかは、「警察が個別に判断する」という項目が入った。】(朝日新聞)早くも,沓掛国家公安委員長は「被害者が実名を希望するならば、意向を尊重しながら総合的に判断する」と述べ,原則,匿名発表をする構えだ。

メディアは,この問題について,もっと早くから取り組むべきであった。決定直前になって【匿名発表では被害者の周辺取材が難しくなる。加害者の供述や警察情報に偏った報道になりがちだ。被害者特定のため過熱取材に走るメディアも出てくる。 本当に被害者が匿名を望んだのか、検証も困難だ。警察が「誘導」したり、捜査ミスや不祥事を隠すため匿名にしたりすることもないとは限らない。】(読売12月26日付社説)などと言い出しても遅い!(個人的には神奈川方式を推します)

もちろん,もう少し早くから取り組んでいたメディアもあったが,こういう社説をパブリックコメントを受け付ける前に展開しないとだめだ。

この日の朝日は,【岡村代表幹事は「少なくとも、これまでのように無条件に名前を公表されることがなくなり、進歩だ」と肯定的。「実名を発表されると、過熱取材で外にも出られない。マスコミは『知る権利』というが、こちらは『生きる権利』を阻害されている」と訴えた。高橋代表世話人は「実名発表されたからこそ、夫が搬送された病院に駆けつけることができた。匿名では『被害者はどういう人なのか』と周囲の人に取材され、ダメージがかえって大きくなるのでは」と話した。】と両論併記で,いかにも弱腰。この点は,産経も同様。

毎日は次のとおり,しっかり批判している。もちろん,朝日,産経もこれまで批判したことはあるだろうが,決議を伝える記事とともに批判することに意味があると思う。

□□引用□□
◇メディア側のチャンネルを狭める恐れ

 事件・事故の被害者が誰かという情報は、誰が容疑者なのかと同様、メディアにとって取材の根幹である。政府が被害者の実名・匿名発表の判断を警察に委ねたことは、被害者取材へのメディア側からのチャンネルを狭める恐れがある。「実名」が分からなければ犯罪が起きた背景の取材はできず、警察が適正な捜査活動を行っているかチェックすることも妨げられる。

 近年、警察が被害者を匿名発表するケースが増加している。「犯罪に巻き込まれたことを一般に知られてほしくない被害者が増えている」などが理由だ。犯罪被害者等基本計画もそのような被害者の意向を反映している。だが、犯罪の被害に遭うことが「知られたくない」とすれば、別の議論が必要なはずだ。被害者たちを偏見や好奇の目で見ていないか、社会全体で考え直すべきだ。

 警察が「実名発表」することと、メディアが「実名報道」することは、全く別のことだ。メディアは犯罪の態様や軽重などを判断し、警察が実名で発表しても自らの判断で匿名で報じることがある。その判断材料の中には被害者・遺族の意向が含まれる。そのためにも被害者とメディアをつなぐチャンネルは必要だ。事件発生直後に遺族に殺到するような取材についてメディア側は真剣に反省し、さらに対応の工夫を重ねる必要がある。

 被害者名の発表について警察当局は、これまでの運用と変わらないと説明する。しかし、警察庁は従来「捜査上の支障」も実名・匿名発表を決める際の判断基準だと説明してきた。今後も第三者のチェックが入らない「捜査上の支障」の判断で被害者の名前が伏せられる可能性が出てくる。捜査ミスの隠ぺいにつながりかねない。

 個人情報保護法の全面施行(今年4月)などで個人情報への過剰反応が広がる中、警察の匿名発表が今後さらに増加し、「匿名社会」が加速する懸念が強まる。実名・匿名発表の判断を警察に委ねる項目は早期に見直すべきだ。【伊藤正志】

鳥取県弁護士会、委員派遣拒否を臨時総会で正式決定 ~「人権擁護」条例

2005-12-27 05:34:09 | 人権擁護法案(原則必要派)
やや旧聞の部類になりますが,【鳥取県弁護士会(松本光寿会長)は二十三日、鳥取市内で臨時総会を開き、同県人権侵害救済条例の施行規則検討委員会への委員派遣を拒否すると同時に、同条例の改廃を求める決議をした。決議文は同日、鳥取県知事や議長に送付した。同弁護士会は検討委員会への派遣拒否を先月、常議員会で決定。片山善博知事に松本会長が直接伝えていたが、臨時総会で正式に決定した。
決議文では「違憲の疑いがある現状の条例の存続を前提とする限り、いかなる協力もなしえない」としている。】ということです(山陰中央新報)。

独立性の担保のない機関が迅速な手続を旨とする人権救済手続をすることは避けるべきだと思う。また,メディア規制も問題あり,ということで,鳥取県弁護士会は従前からこの条例案には反対していたが,今回委員の派遣拒否まで決議した。この決断は今後大きい意味を持ってくると思う。

話は変わるが,日弁連も刑事手続きの改悪などに対しては,きっぱりとした姿勢を示してほしいところだ。地方がきちんと注文をつけることができるのに中央はダメダメっていうのは,マスコミと同じ図のように見えるなぁ。もちろん,日弁連も分野によっては頑張っている部分もあるし,執行部に反対して(あるいは執行部内で)頑張っている人もいるので,こういう単純な切り口ができるものではないとは思うが,鹿児島の国選拒否なんかのきっぱりした態度を見ると,日弁連ももっと頑張れって気になってしまう…。

参照:第159回国会 法務委員会議事録(平成16年6月2日)

【さらに、鹿児島新聞の二〇〇三年の七月十二日付の報道によれば、検察庁、鹿児島地検が国選弁護人の解任請求を行って、それを鹿児島地裁が解任を認めるという、そのような事実が存在しております。
 その理由は何なのかというと、報道によれば、弁護士が接見禁止中の被疑者と接見したときに、親族の手紙、お父さん頑張ってねとか、あなた頑張ってねというような手紙を、メッセージをガラス越しに見せた。被告人を励ますために、被疑者を励ますために、証拠隠滅のおそれなど全くないような、そのようなメッセージを見せた。このことを理由に、国選の解任請求を鹿児島地検が行って、それを鹿児島地裁が決定する、認めるというようなことをしておる。
 これは、鹿児島弁護士会はこれに対して抗議声明を出して、その後の二カ月間、国選弁護の推薦手続について拒否している、裁判所、検察庁のやり方が極めて違法であるということで拒否しております。このような事案、事例も生じています。
 そして、この問題については、志布志町の有志の人たちを中心に、住民の人権を考える会ということが組織されて、一万人近い署名を集めて、公安委員会やいろいろなところで訴えておられます。】

検索連動型広告運営会社(ヤフーの子会社オーバーチュア)を提訴~恣意的な広告掲載拒否を理由に

2005-12-27 03:59:29 | インターネットとメディア
ヤフーの子会社オーアバーチュアに対し,検索連動型広告の掲載を求めて仮処分を申し立てていた(ここのほか,ここここここなど)日本ビデオニュース社が26日,仮処分を取り下げ,通常訴訟を提起した(産経GripBlog)。仮処分の過程で不掲載理由について,オーバーチュア側が「警察・検察・裁判所などの司法制度や天皇制に対する批判など,思想的にも価値の対立が著しいセンシティブなトピックについて,ジャーナリズムの観点からその不合理性などを批判質得るものが散見された」「私企業による純粋な広告ビジネスであって,公共的な事業ではな」い,と主張したことから,仮処分ではなく,本訴でじっくりと,その主張の正否を見定めてもらうために,提訴したものだ。

本件では,オーバーチュア側は,基本契約は存在せず,一回一回の広告キーワード申請がそれぞれ契約の申込み行為になると主張している。そこで,日本ビデオニュース社は,仮に契約関係がないとしても広告掲載を拒否したことは不法行為になるとする主張を行っている。

公共的な事業において,不当な差別をした場合に慰謝料が認められるケースとしては,小樽の公衆浴場の例が有名だ(ここの5番目の判例,ここ)。

インターネットの公共性は,いまや,公衆浴場の比ではないように思うのは私だけだろうか?

インターネットというルールがまだ確定していない場で,今後,その場を利用して事業を行うもの,しかも,その場のあり方を定めると言ってよい検索業を行うものが完全に資本のルールだけでやっていってよいのか,それともインターネットという空間の公共性からは表現の自由を守るために一定の制限を課すべきなのか?非常に重要な問題が焦点となっている。

検索連動型広告は,オーバーチュアを含む2社の寡占状態であり,このような圧倒的なシェアを握っている会社が契約自由の原則だと称して自由に広告掲載の可否を定める権限を行使すること(例えば,アサヒビールは載せるけど,キリンビールは載せない。あるいは,大手ビールは載せるけど,地ビールは載せない)は,非常に大きな問題をはらんでいるのではないでしょうか。インターネット広告の急激な伸びなどを考慮すると,今後はインターネットで広告してもらえない企業は伸び悩むことが考えられ,まさにインターネット広告業を牛耳る者に企業が首根っこを押さえられることになりかねない…。

ネット利用者が声をあげるべきテーマではないでしょうか?