情報流通促進計画 by ヤメ記者弁護士(ヤメ蚊)日隅一雄

知らなきゃ判断できないじゃないか! ということで、情報流通を促進するために何ができるか考えていきましょう

新靖国Q18.東京裁判において、被告全員を無罪とする意見を書いたパール判事の見解とは?

2007-03-31 15:30:19 | 靖国問題Q&A
 Q.東京裁判において、被告全員を無罪とする意見を書いたパール判事の見解とは、どのようなものなのでしょうか。

 A.靖国神社境内、遊就館に隣接するところにパール博士顕彰碑というものがあります。この碑について、同神社発行の「やすくに大百科、私達の靖国神社」は以下のように説明しています。

    「昭和21年から行われた極東国際軍事裁判(通称 東京裁判)のインド代表判事であったラダ・ビノード・パール博士は、事実を曲げた訴えに対し、裁判官の中でただ一人、被告団を全員無罪とする意見書を出されました。その勇気と情熱を称え、後の世へ伝えるために平成17年に建立されました。」

    極東国際軍事裁判(東京裁判)所は、米、英、仏、加、中、ソ連、オランダ、オーストラリア、ニュージーランド、インド、フィリピンの11カ国より派遣された判事団によって構成されました。このうち、インドから派遣されたパール判事は、被告全員を有罪とした法廷意見(多数意見)に反対し、全員無罪とする意見書を出しました。彼の意見の骨子は、あくまで法律家としての立場から、当時の国際法上は被告らが問われた「平和に対する罪」「人道に対する罪」は事後法であって、その適用は許されないとするところにあり、日本の侵略戦争と植民地支配を肯定しているわけではありません。ですから、近・現代における日本の戦争をすべて「聖戦」として肯定する靖国神社が、パール判事について「その勇気と情熱を称え……」と顕彰碑を建てているのは些か「我田引水」の気味があると思います。パール判事の見解の根底には、単に法律論だけでなくイギリスの植民地支配の中で苦しめられてきたインドの歴史があり、日本を裁く西欧列強もその手が汚れていないなどとは決して言えない(それ自体は正論です)という気持があったのではないかと思います。

    なお、東京裁判では、ウエッブ裁判長(オーストラリア)、ベルナール判事(仏)、ローリング判事(オランダ)らによって、25被告全員が有罪ではなく、一部を無罪にすべきだとか、7名の死刑判決中、広田被告については死刑は相当でないとか、統帥の最高責任者天皇が訴追されない状況で国際裁判はこれを行う価値があるであろうか、そのことは被告達に対する量刑において、考慮すべきであるとかの個別意見書が提出されています。なお靖国神社遊就館で放映されている前記ドキュメント映画「私たちは忘れない─感謝と祈りと誇りを─」では、ウエッブ裁判長が後に「東京裁判はまちがいであった」と語っていると紹介がされていますが、これは彼の発言の一部だけを自己の都合のよいように剽窃したものにすぎません。

    文官で唯一絞首刑となった広田弘毅については、裁判中亡くなった松岡洋右(外務大臣として日独伊三国同盟を締結)らの身代りとされたなど、悲運の人として同情する人もいます(城山三郎著・「落日燃ゆ」など)。確かに絞首刑というのは重すぎるとは思いますが、しかし広田弘毅自身が自己の戦争責任を認めており、そのため裁判においては他の被告達とは異なり、一切弁明せずという姿勢を貫いたのでした。

    日中「戦争」拡大の中で1938年1月近衛内閣が「国民政府(蒋介石政権)を相手にせず」という声明を発してますますの泥沼に入り込んでいった際、広田弘毅が外務大臣として慎重論を唱えた統帥部を押切り、積極的な役割を果したことは正確に認識されておくべきです。

 「当時、東京の軍の中枢部では、戦争指導に必要な思索と教養をもたず、狭く浅い視野で、唯我独尊、強いことばかり主張し頑張る連中が、肩で風を切って横行していた。
 組織の中では、多くは正論は威勢が悪く、強行論者が勢力を張って生き残り、組織としての動向を決定するにいたることが多い。
 だが、この深刻な悲劇の深まる重大な転換点「蒋政権否認」の政府声明の公表を前にして、これに反対し抵抗した人物がまったくなかったわけではない。
 当時、最高の戦争指導方策を決定していたのは、政府と統帥部の連絡会議であったが、その席上で政府側(首相近衛文麿)の代表意見として、広田弘毅外相がまずその意見を述べた。
 『中国側の回答文は、日本側の条件内容を大体承知しながら、なお中国側の意見を示さず、しかも日本側の条件につき説明を求めるのは、和平に誠意がなく、遷延策を講じておるものと考えるほかない』
 この所見に対し、統帥部を代表する多田駿参謀次長は(当時の参謀総長は閑院宮だったので、参謀次長が実質的な全責任者)、『この回答文をもって脈なしと断定せず、脈あるよう図るべきである。中国側の最後的確答も待たずに、わずかの期日を争い、挙国的決意も準備も不十分のまま、前途暗澹たる長期戦に移行することが、いかに重大かつ困難なことであるか……』と述べ、中国側の真意を探る方策などを提案して、今ただちに交渉を打ち切ることに反対した。
 だが、広田外相は、『永い外交官生活の経験に照らし、中国側の応酬ぶりは、和平解決の誠意がないことは明らかである。参謀次長は、外務大臣を信用しないのか』と切り返し、杉山元陸相もこれに同調した。
 ついで米内光政海相は、『統帥部が、外務大臣を信用せぬは、同時に政府不信任である。政府は辞職のほかない』と、一流の政治的発言で詰めよった。
 多田参謀次長は、やむなくいったん参謀本部に帰って首脳会議に図ったが、遂に、『蒋政権否認を本日の会議で決定するのは時期尚早であり、統帥部としては不同意であるが、政府崩壊が内外に及ぼす悪影響を認め、黙過してあえて反対を唱えない』と、譲歩せざるを得なかった。
 多田参謀次長の『脈なしと断定せず、脈あるように図るべきである』という提唱は、日中の和平を願い、国運を憂える至誠の声であったが、時の大勢はこれを圧殺した。
 当時戦えば勝てると多くの政治家や軍人が安易に考えていた時、多田次長は独り『前途暗澹たる長期戦に移行する』ことを見透し、憂慮のあまりの発言であった。」(杉浦義教「ラバウル戦犯弁護人」光人社文庫) 


■■以上、内田雅敏弁護士執筆■■

 大臣はそれぞれが真剣に市民のためになることは何かを考えて行動してほしいし、我々市民もそのような政府を選びたいし、そういうプレッシャーを与え続けたいですね。







★「憎しみはダークサイドへの道、苦しみと痛みへの道なのじゃ」(マスター・ヨーダ)
★「政策を決めるのはその国の指導者です。そして,国民は,つねにその指導者のいいなりになるように仕向けられます。方法は簡単です。一般的な国民に向かっては,われわれは攻撃されかかっているのだと伝え,戦意を煽ります。平和主義者に対しては,愛国心が欠けていると非難すればいいのです。このやりかたはどんな国でも有効です」(ヒトラーの側近ヘルマン・ゲーリング。ナチスドイツを裁いたニュルンベルグ裁判にて)
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弁護士増員は破綻、直ちにリーガルエイド拡充に方向転換せよ!

2007-03-31 09:17:49 | 適正手続(裁判員・可視化など)
弁護士増員方針のもと、法科大学院(ロースクール)制度が採用され、近い将来年間3000人の弁護士が生まれることとなる。しかし、ご存じのように、2007年秋、従来通りのシステムで誕生する法曹(裁判官、検察官含む)が1455人、ロースクールのシステムで誕生する法曹が991人を予定しているが、数百人が就職できないと噂されている。

しかし、それにもかかわらず、弁護士会は司法試験合格者を絞る形での提言をしようとはしない。ノキ弁(給料を支払わず机や電話などを無償貸与し、一緒に仕事をしたら一部報酬を分けるシステム)の採用を奨励するなど、まったく的はずれのことをしている。

そもそも、なぜ、弁護士は従来年間数百人しか誕生していなかったのに、3000人への大増員がなされたのか。それは、企業が安く弁護士を使いたいと考えたことにつきる。市民向けの理由として、弁護士に頼めない市民が多いので、弁護士を増やして敷居を低くするというようなことが言われていたと思うが、そのためには弁護士の増員は効果的な手段ではない。

…なんてことをいうと弁護士が利権を守っているのか、という突っ込みが直ぐに来る。

しかし、考えてほしい。一定のサービスを受けるためには、一定の対価が必要なことは明白だ。そこに過当競争を持込み、価格破壊をさせた場合、どうなるか?これが何らかの工夫で生産性が向上するような産業であれば、価格が破壊されても製品・サービスの質は落ちないかもしれない。

しかし、弁護士の業務は何かを工夫すれば効率化できるというものではない。3時間の尋問をするにあたって必要な準備を1時間に削ることは物理的には可能かも知れないが、それでは本来依頼者が望む業務を履行することは出来ない。3時間の尋問をするにあたって、資料収集などの時間も含めると30時間を越える準備をすることは決して稀ではない。尋問の前の週末を2日間潰して尋問案を練り上げ、少しずつ新しい視点を盛り込んでいき、最初の構想からは見違えることになることもある。

弁護士を増員して価格破壊することで弁護士の敷居を低くするということは、上の例でいう、最初の構想で事件処理をすることにつながるわけだ。そんな弁護士業務を望むのだろうか?

もっといえば、その弁護士が依頼した時点までに得た知見はその弁護士の努力で得たものだ。弁護士成り立ての者と20年間の経験を積んだ者とを同じ報酬で使えるはずもない。そこに幻想がある。

本林元日弁連会長は市民会議で次のような発言をしている。

【それから資力がないために弁護士を頼めないという方々に弁護士の費用を立て替えるのが法律扶助(リーガルエイド)なんですが、これも日本では法律扶助協会を中心に国の費用を出しているのが年間わずか 35 億円です、予算が。フランスと比べても 10 分の 1、イギリスと比べたら大体 100 分の 1、2 桁違う】

問題はまさにここにある。いかにリーガルエイドを引っ張るかということだ。弁護士を増やしても、リーガルエイドが増えなければ、結局、普通の市民の弁護士へのアクセスを改善することにはならない。

もちろん、「というわけで」誕生したのが、法テラスだろうが、法テラスの現状は悲惨だ。9年限定の雇用、しかも、1年目の弁護士の現実の手取りは月額20万円台だという。ちょっとしたタクシーの使用にも細かい報告義務が課せられ、それぐらいなら、歩いた方がましだと遠距離を歩く弁護士もいるらしい。

重い荷物を抱えて歩き回り、20万円台の給料で働く弁護士に何が期待できるのでしょうか?

あなたは自分が選ぶとしたら、そういう収入でそういう待遇を受けている弁護士を選びますか?

弁護士大増員にノーを、リーガルエイド拡充にイエスを!









★「憎しみはダークサイドへの道、苦しみと痛みへの道なのじゃ」(マスター・ヨーダ)
★「政策を決めるのはその国の指導者です。そして,国民は,つねにその指導者のいいなりになるように仕向けられます。方法は簡単です。一般的な国民に向かっては,われわれは攻撃されかかっているのだと伝え,戦意を煽ります。平和主義者に対しては,愛国心が欠けていると非難すればいいのです。このやりかたはどんな国でも有効です」(ヒトラーの側近ヘルマン・ゲーリング。ナチスドイツを裁いたニュルンベルグ裁判にて)
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