情報流通促進計画 by ヤメ記者弁護士(ヤメ蚊)日隅一雄

知らなきゃ判断できないじゃないか! ということで、情報流通を促進するために何ができるか考えていきましょう

政党ビラまき東京高裁逆転有罪判決を下した裁判官に問う! パート2

2007-12-14 05:37:10 | メディア(知るための手段のあり方)
 ビラまき判決の骨子なるものを読んでみた。支援者の会のホームページ(http://homepage2.nifty.com/katusika-bira/C16_2.htm#9)に掲載されているが、検討しやすいように、末尾に全文を引用するのでご参照下さい。

 
 判決の最大の問題点は、管理組合が禁止できるかどうかに限って判断しており、その禁止された事項に違反した場合に、刑罰をもって処罰するべきかどうかの判断を一切していないことである。これはあまりにひどい。

 加罰的違法性について、高裁は、まず、【確かに,被告人は,政治ビラを配布する目的で本件立入り行為に及んでおり,その目的自体に不当な点はない】と認定したうえで、【しかし,住民らは住居の平穏を守るため,政治ビラの配布目的を含め,マンション内に部外者が立ち入ることを禁止できるのであり,本件マンションにおいては,管理組合の理事会によりそのような決定が行われ,これが住民の総意に沿うものであったと認められる】という。

 ここはまぁ、よしとしよう。手続きの問題はありうるが、住民が部外者立ち入りを禁止できるという結論については異論はない。

 次に、東京高裁は、【そして,本件マンションの構造,管理,利用の状況等に照らせば,ビラの配布を目的として,住民らの許諾を得ることなく本件マンション内に立ち入り,7階から3階までの多くの住戸のドアポストにビラを投函しながら滞留した行為が相当性を欠くことは明らかであ】るという。

 ここが問題でしょう。確かに、住民は立ち入りを禁止できる。しかし、それに違反した場合になぜ、刑罰を課しうるのか、それが肝心なポイントだ。私的な取り決めによって禁止できる部分と、刑罰が課される部分とは、必ずしも重ならないのだから…。しかし、東京高裁は、この点、【相当性を欠くことは明らか】としか述べていない。まったく説明していないに等しい。

 冒頭の図をみてほしい。マンションの管理組合がルールを決めたとしても、それはそのまま国が課す刑罰の範囲を決めることにはならないのだ。

 例えば、不退去罪というのがある。ビラまきを不快に思う人が、ビラをまいている人にマンションから出て行ってくれと言ったのに、それを無視したら、この不退去罪で刑法の問題にすれば足りるのではないか。あるいは、以前、二度、三度、注意したにもかかわらず、しつこくビラをまきにきたというなら、住居侵入罪で刑法上問題とすることもありうるかもしれない。東京高裁は、そういうことを一切顧みず、本件では、注意されたために直ちにビラまきを中止しているにもかかわらず、刑法上の問題となるとしたのである。これは、図で「イコールではない」とした部分を「イコール」としたに等しい。


 憲法は表現の自由、ビラまきの自由を保障している。そのビラまきの自由を国家が刑罰をもって侵害しようとしているのが本件の実態だ。図では、国がビラまき人に対して刑罰を課そうとしているが、それ自体が表現の自由の侵害であり、21条と真っ向から対立することになる。
 
 そもそも、管理組合が立ち入り禁止したことに対する違反は、原則として管理組合とビラまき人との間で決着をつければよい問題であり、その場合には、ビラまきの自由は、民法などの解釈にあたって間接的にしか適用されない。この「私人対私人」の場面と「国家対私人」の場面は明らかに区別して考えなければならない。

 東京高裁の裁判官は、この点、説明することができるのだろうか…。

  
■■引用開始■■

平成19年12月11日宣告       
 【判 決 骨 子】
 主   文
   原判決を破棄する。  
   被告人を罰金5万円に処する。
   未決勾留日数のうち,その1日を金5000円に換算してその罰金額に満つるまでの分を,その刑に算入する。
   原審における訴訟費用は被告人の負担とする。
 理   由
1 本件マンションの構造,管理及び利用の状況について 本件マンションは,地上7階,地下1階建ての分譲マンションであり,1階部分は4戸の店舗・事務所として,2階以上は40戸の住宅として分譲されている。2階以上の住戸への出入口としては,玄関出入口と西側敷地内出入口とがある。玄関出入ロから入ると,玄関ホールがあり,右手(南側)には掲示板と集合ポストが,左手(北側)には管理人室がある。住戸への出入りには,玄関ホールの東側にある玄関内東側ドアを開け,1階廊下を通り,防犯カメラの設置されたエレベーターを利用することが主に想定されているが,西側敷地内出入口を入って本件マンションの敷地東側に回り,北側外階段と中央外階段によって出入りすることもできる。

2 本件マンションへの部外者立入りについて
 管理組合の理事会は,かねてチラシ,ビラ,パンフレット類の配布のための立入りについて,区の公報に限って集合ポストへの投函を認める一方,その余については,集合ポストへの投函を含めて禁止する旨決定していた。そして,本件マンション玄関ホールの掲示板には,A4版大の紙に「チラシ・ビラ・パンフレット等広告の投函は固く禁じます。」と記載されたはり紙とB4版大の紙に「当マンションの敷地内に立ち入り,パンフレットの投函,物品販売などを行うことは厳禁です。工事施行,集金などのために訪問先が特定している業者の方は,必ず管理人室で『入退館記録簿』に記帳の上,入館(退館)願います。」と記載されたはり紙が掲示されている。
 弁護人は,政治ビラの配布が憲法21条1項によって保障された政治的表現の良由に基づくものであり,個々の居住者の情報受領権や知る権利の対象にもなることに照らせば,ビラの投函の禁止は,住民の総意や少なくとも管理組合総会によって決定されることが必要であると主張しているが,民間の分譲マンションであれば,区分所有者らがその点につき決定の手続を含め自由に決定する権利を有することは明らかであるし,本件では,管理組合の理事会がこれを決定し,掲示板にその旨を掲示していたところ,これについて住民から異論や苦情が出された事実はないのであるから,その理事会の決定は住民の総意に沿うものと認められる。

3 正当な理由について
 原判決は,本件マンションには部外者立入り禁止の意思表示が来訪者に伝わるような実効的な措置が執られていたといえないから,被告人の立入り行為が「正当な理由」のないものとは認められない旨説示する。しかし,本件マンションの構造,管理及び利用の状況に加え,はり紙の内容,位置等によれば,玄関ホールに,郵便等の配達や管理員に立入りの許否を確認しようなどとする部外者の立入りを許容する一方で、玄関内東側ドアより先は,エ事の施エや集金等のために訪問先が特定している者を除き,部外者の立入りは予定されておらず,各住戸のドアポストへのビラの配布を目的とする者も立入りを予定されていないことは明らかであって,そのことを来訪者に伝えるための実効的措置が執られていなかったとはいえないから, 原判断は是認できない。原判決は,本件マンションがオートロック方式ではなく, 管理人室に管理員が常駐しておらず,外階段を利用した出入りが可能であることなども指摘するが,オートロック方式を採用したり,管理人室に管理員を常駐させたりすることは,当該集合住宅の建設時期,構造変更の容易性,必要となる管理費の金額等とも関連するから,それらによらない限り部外者の立入りを禁止できないというのは,住民らの権利を不当に制約する。また,外階段を出入りする余地を残すことは,火災,停電等の際の住民の安全等のために必要なことであるから、その点を理由として部外者の立入りを禁止できないのも不当である。

4 住居侵入罪の成立について
 以上の本件マンションの構造等に加え,本件マンションがビラ配布のための部外者の立入りを許容していないことを被告人が知っていたと認められることなどを併せ考慮すると,被告人がビラを配布するために,本件マンションの共用部分である 玄関ホールを経て,1階通路,エレベーター,7階から3階の各階廊下及び外階段に立ち入った行為は,玄関内東側ドアより先への立入りはもちろん玄関ホールへの立入りを含め刑法130条前段の住居侵入罪を構成すると認めるのが相当である。

5 違法性阻却事由及び可罰的違法性について
 弁護人は,被告人の本件立入り行為が違法性を随却され,可罰的違法性を欠くと 主張する。確かに,被告人は,政治ビラを配布する目的で本件立入り行為に及んでおり,その目的自体に不当な点はない。しかし,住民らは住居の平穏を守るため,政治ビラの配布目的を含め,マンション内に部外者が立ち入ることを禁止できるのであり,本件マンションにおいては,管理組合の理事会によりそのような決定が行われ,これが住民の総意に沿うものであったと認められる。そして,本件マンショ ンの構造,管理,利用の状況等に照らせば,ビラの配布を目的として,住民らの許諾を得ることなく本件マンション内に立ち入り,7階から3階までの多くの住戸のドアポストにビラを投函しながら滞留した行為が相当性を欠くことは明らかであり,被告人のこの立入り行為につき違法性が阻却されるとか,可罰的違法性を欠くと解することはできない。

6 憲法21条1項との適合性について
 弁護人は,被告人の本件立入り行為を処罰することが憲法21条1項に違反すると主張する。確かに,憲法21条1項が保障する表現の自由は,民主的過程の維持等のために必要欠くべからざる基本的人権であり,最大限尊重されることが憲法上要請されている。しかし,憲法21条1項は,表現の自由を絶対無制限に保障したものではなく,今其の福祉のために必要かつ合理的な制限を是認するものであって,たとえ思想を外部に発表するための手段であっても,その手段が他人の財産権等を不当に害することは許されない。そして,本件マンションは,その共用部分といえ ども私人の財産権等の及ぶ領域であって,住民らはその意思に反する立入りを受認すべき地位にはないのであるから,住民らの委託を受けた管理員又は個別の住民の許諾を受けないで,本件マンションに侵入した本件の所為について刑法130条前段の規定を適用してこれを処罰しても憲法21条1項に違反するものではない。なお,このように解しても,立入りの禁止された本件マンションに立ち入って行うド.アポストへの投函以外の方法によってビラを配布することは可能であるし,ビラを配布する者が,個別の住民の許諾を得た上で,そのドアポストにビラを投函するために本件マンションに立ち入ることは禁止されておらず,住民らが管理組合の決議等を通じてビラ配布のための立入り規制を緩和することができないわけでもないのであるから,本件マンションの住民の情報受領権や知る権利を不当に侵害しているわけでもない。

7 破棄自判
 以上の次第で,被告人に対する住居侵入罪の成立を否定した原判決は法令の適用を誤っており,この誤りが判決に影響を及ぼすことは明らかである。論旨は,この限度で理由がある。よって,原判決を破棄し、証拠により,被告人は,正当な理由がないのに,平成16年12月23日午後2時20分ころ,多数名が居住する東京都葛飾区亀有2丁目所在の本件マンション内に侵入したとの事実を認定し,法律を適用して、主文のとおり判決する。

■■引用終了■■








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★「政策を決めるのはその国の指導者です。そして,国民は,つねにその指導者のいいなりになるように仕向けられます。方法は簡単です。一般的な国民に向かっては,われわれは攻撃されかかっているのだと伝え,戦意を煽ります。平和主義者に対しては,愛国心が欠けていると非難すればいいのです。このやりかたはどんな国でも有効です」(ヒトラーの側近ヘルマン・ゲーリング。ナチスドイツを裁いたニュルンベルグ裁判にて)
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