人権擁護法案が自民党内で再度議論されているようだ。人権擁護法案は、裁判所による解決が期待できない分野や迅速な解決が望ましい分野の人権侵害について対処するための人権救済機関の設置や人権教育の実施を目的とする法案で、国連総会決議で各国に対し設置が求められている。また、問題差別の解決にとっても必要な機関だとされており、10年近く議論されてきた。
しかし、残念ながら、①政府からの独立性を十分なものとできていないこと、②メディアの人権侵害を口実とするメディア規制の恐れがあったことなどから、反対する意見が根強かった。他方で、自民党などの一部議員などからも、A)人権擁護委員に外国人がなれないようにするべきだ、B)人権侵害の定義があいまいだ、などという反対論が寄せられ、結局、現在まで成立していない。
人権救済機関の必要性、その権能をめぐって、さまざまな思惑があり、容易にまとまらないのが実態だが、個人的には、国連の決議(パリ原則)に従ったシステムが設けられるべきだと考えている。
そんな折り、選挙が近いせいか、またまた、自民党内で人権擁護法案が騒がれるようになってきた。以前、この法案が成立直前までいったときも、選挙がらみだという情報が飛び交っていた。
今回は、自民党は、救済対象を限定することや不当な申立に対抗する制度を設けることなどで、党内の反対派を押さえ込むとともに、メディアに対する特別な規制を削除することで、メディアの反対を防ごうとしたようだ。
産経新聞(※1)によると、【救済対象を「公務員、事業主らによる差別行為」などいくつかの類型に限定。学術、歴史、宗教に絡む申し立てを救済対象から外し、制裁措置の対象は民法上の「不法行為」に限った。「差別的言動」の調査では過料制裁を除外し、制度乱用を防ぐため不服申し立て措置も設けた】ということのようだ。
議論は多岐にわたるので、ここでは、とりあえず、差別的言動について検討した。
読売新聞(※2)や産経新聞(※3)は社説で、次のように述べている。
【しかも、私案で示された人権侵害の例には、「反復して行う差別的言動」「差別的取り扱いを誘発する差別助長行為」など、どういう行為を想定しているのか不明瞭(めいりょう)なものが掲げられている。】(読売)
【例えば、人権救済の対象となる「差別的言動」を「反復して行われるもの」に限定したとしているが、言論を浸透させるためには、繰り返して主張することが必要である。言論自体が封じられる恐れは依然としてあり、「反復して」は無意味な付け足しに近い。
また、法務省が平成14年に示した案には報道制限につながりかねないメディア規制条項があった。マスコミの批判を受けて太田私案では削除されたが、それは報道機関が特別扱いされないだけで、他の民間組織と同様、「差別的言動」の有無などについては人権委員会の監視を受ける】(産経)
両紙とも、差別的表現について規制されることをおそれているようだ。しかし、個人的には、差別的表現、特に、人種、民族、国籍などに関する差別的表現は、児童ポルノなど同様に少なくとも公で語られるべき表現ではないと思う。
世界的にみても、人権救済機関の対象として差別的表現を入れているところは多い。
この点、産経新聞(※4)は、【英国やカナダなどはパリ原則に沿った人権機関を設けている。いずれも人権侵害の定義を明確に規定し、「表現の自由」は最大限尊重されている】としているが、明らかにミスリーディングだ。
英国では、差別禁止法によって、「皮膚の色」「人種」「国籍」「出身」に関する「差別的広告」「差別の支持、教唆」「人種的憎悪」などが禁止され、それに基づく人権救済機関への申し立てが可能となっている。
カナダでは、人権法によって、「人種」「肌の色」「出身地(国)・民族」「宗教」などに関する「差別的言辞」「憎悪の表明(ヘイトメッセージ)」「嫌がらせ」などが禁止され、人権救済機関での救済対象となっている。
産経が、「表現の自由」は最大限尊重されているという国々でも、他国の国民を差別することで愛国心などを煽る記事などは、申し立ての対象となるわけだ。
表現の自由の刃は差別される者に向けられるべきではなく、権力に向けられるべきではないでしょうか?
皆さんは、どう思いますか?
※1:http://sankei.jp.msn.com/politics/situation/080529/stt0805292304007-n1.htm
※2:http://www.yomiuri.co.jp/editorial/news/20080530-OYT1T00863.htm
※3:http://sankei.jp.msn.com/politics/situation/080531/stt0805310305000-n1.htm
※4:http://sankei.jp.msn.com/politics/situation/080310/stt0803102007004-n3.htm
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★「憎しみはダークサイドへの道、苦しみと痛みへの道なのじゃ」(マスター・ヨーダ)
★「政策を決めるのはその国の指導者です。そして,国民は,つねにその指導者のいいなりになるように仕向けられます。方法は簡単です。一般的な国民に向かっては,われわれは攻撃されかかっているのだと伝え,戦意を煽ります。平和主義者に対しては,愛国心が欠けていると非難すればいいのです。このやりかたはどんな国でも有効です」(ヒトラーの側近ヘルマン・ゲーリング。ナチスドイツを裁いたニュルンベルグ裁判にて)
★「News for the People in Japanを広めることこそ日本の民主化実現への有効な手段だ(笑)」(ヤメ蚊)
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しかし、残念ながら、①政府からの独立性を十分なものとできていないこと、②メディアの人権侵害を口実とするメディア規制の恐れがあったことなどから、反対する意見が根強かった。他方で、自民党などの一部議員などからも、A)人権擁護委員に外国人がなれないようにするべきだ、B)人権侵害の定義があいまいだ、などという反対論が寄せられ、結局、現在まで成立していない。
人権救済機関の必要性、その権能をめぐって、さまざまな思惑があり、容易にまとまらないのが実態だが、個人的には、国連の決議(パリ原則)に従ったシステムが設けられるべきだと考えている。
そんな折り、選挙が近いせいか、またまた、自民党内で人権擁護法案が騒がれるようになってきた。以前、この法案が成立直前までいったときも、選挙がらみだという情報が飛び交っていた。
今回は、自民党は、救済対象を限定することや不当な申立に対抗する制度を設けることなどで、党内の反対派を押さえ込むとともに、メディアに対する特別な規制を削除することで、メディアの反対を防ごうとしたようだ。
産経新聞(※1)によると、【救済対象を「公務員、事業主らによる差別行為」などいくつかの類型に限定。学術、歴史、宗教に絡む申し立てを救済対象から外し、制裁措置の対象は民法上の「不法行為」に限った。「差別的言動」の調査では過料制裁を除外し、制度乱用を防ぐため不服申し立て措置も設けた】ということのようだ。
議論は多岐にわたるので、ここでは、とりあえず、差別的言動について検討した。
読売新聞(※2)や産経新聞(※3)は社説で、次のように述べている。
【しかも、私案で示された人権侵害の例には、「反復して行う差別的言動」「差別的取り扱いを誘発する差別助長行為」など、どういう行為を想定しているのか不明瞭(めいりょう)なものが掲げられている。】(読売)
【例えば、人権救済の対象となる「差別的言動」を「反復して行われるもの」に限定したとしているが、言論を浸透させるためには、繰り返して主張することが必要である。言論自体が封じられる恐れは依然としてあり、「反復して」は無意味な付け足しに近い。
また、法務省が平成14年に示した案には報道制限につながりかねないメディア規制条項があった。マスコミの批判を受けて太田私案では削除されたが、それは報道機関が特別扱いされないだけで、他の民間組織と同様、「差別的言動」の有無などについては人権委員会の監視を受ける】(産経)
両紙とも、差別的表現について規制されることをおそれているようだ。しかし、個人的には、差別的表現、特に、人種、民族、国籍などに関する差別的表現は、児童ポルノなど同様に少なくとも公で語られるべき表現ではないと思う。
世界的にみても、人権救済機関の対象として差別的表現を入れているところは多い。
この点、産経新聞(※4)は、【英国やカナダなどはパリ原則に沿った人権機関を設けている。いずれも人権侵害の定義を明確に規定し、「表現の自由」は最大限尊重されている】としているが、明らかにミスリーディングだ。
英国では、差別禁止法によって、「皮膚の色」「人種」「国籍」「出身」に関する「差別的広告」「差別の支持、教唆」「人種的憎悪」などが禁止され、それに基づく人権救済機関への申し立てが可能となっている。
カナダでは、人権法によって、「人種」「肌の色」「出身地(国)・民族」「宗教」などに関する「差別的言辞」「憎悪の表明(ヘイトメッセージ)」「嫌がらせ」などが禁止され、人権救済機関での救済対象となっている。
産経が、「表現の自由」は最大限尊重されているという国々でも、他国の国民を差別することで愛国心などを煽る記事などは、申し立ての対象となるわけだ。
表現の自由の刃は差別される者に向けられるべきではなく、権力に向けられるべきではないでしょうか?
皆さんは、どう思いますか?
※1:http://sankei.jp.msn.com/politics/situation/080529/stt0805292304007-n1.htm
※2:http://www.yomiuri.co.jp/editorial/news/20080530-OYT1T00863.htm
※3:http://sankei.jp.msn.com/politics/situation/080531/stt0805310305000-n1.htm
※4:http://sankei.jp.msn.com/politics/situation/080310/stt0803102007004-n3.htm
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