来年実施される裁判員裁判で、取調の(全面)可視化(録画化)が採用されない限り、弁護をボイコットするという悲痛な決意を固めている弁護士会があることが関東弁護士会連合会の会報誌最新号に掲載されている。そのような固い決意をしているとされるのは、大分県弁護士会。同会報誌によれば、「捜査の可視化か完全可視化が認められない限り、スタッフ弁護士、大分県の弁護士会全部ボイコットする、とまで言っております」ということだ。
確かに、捜査(取調)の可視化がないまま、裁判員制度による短期審理が行われると、強引な取調によって虚偽の自白をされた場合にその自白が虚偽だということを争うことがとても困難になる。大分県弁護士会の決意は弁護士としての良心の発露といえよう。
大分県弁護士会のウェブサイトをみると、次のような「取調の全過程の録音・録画を求める決議」(※1)がされている。
【わが国では、これまで、被疑者の取調は、捜査官と被疑者のみしか存在しない密室で行われて来た。このため、違法・不当な取調べが後を絶たず、密室での自白の強要により、数々のえん罪事件が生み出されて来た。
近年においても、選挙違反をめぐる鹿児島の志布志事件、富山県下で無実の者が刑に服していたことが判明した富山事件、佐賀県下における連続殺人事件である北方事件などにおいて違法・不当な取調が行われて自白が強要されていたことが明らかとなっている。
このような事態を防ぐためには、全事件について、取調べの全過程の録音・録画の実施や弁護人の立会権を認めるべきである。世界的に見ても、欧米諸国のほとんどにおいて、全事件の取調の録音・録画や弁護人の立ち会いが制度化されており、韓国や台湾においても取調の録音・録画が実施されるに至っている。
また国際人権(自由権)規約委員会、国際法曹協会(IBA)、国連拷問禁止委員会といった機関は、日本においても取調を可視化すべき旨勧告している。
我が国においても、密室での取調を排除し、取調の全過程の可視化を図ることで、冤罪を防止し、自白偏重の前近代的な刑事裁判から脱却することが求められている。
ところで、わが国では、平成21年(2009年)5月までに裁判員裁判制度が実施されるが、現在のように、取調状況を検証することが不可能な制度のままで裁判員裁判制度を実施することは許されない。
このような制度のままでは、裁判員裁判においても、自白の任意性をめぐる争いが後を絶たず、その審理のために長期間を要し、裁判員に過酷な負担を強いることになる】
(中略)
【これに対し、全事件について取調の全過程の録音・録画が実現すれば、違法・不当な取調をすることはできなくなるうえ、自白の任意性や信用性についても無用な争いを防止できることは、既にこれを実現した各国において実証されている。
よって、ここに当会は、裁判員裁判制度の実施を目前に控え、国に対し、速やかに、全事件について取調の全過程の録音・録画を実施し、これを欠くときは、証拠能力を否定する法律を整備するよう求める】
ところが、何と、同会の決議は、完全可視化にとどまらない。
5月21日には、「裁判員裁判実施までに解決すべき課題に関する決議」(※2)をなしている。その内容は、政府、国会、裁判所、検察庁、日本司法支援センターに対し、裁判員裁判実施までに、
①取調全過程の録音・録画のほか、
②全証拠開示、
③保釈の原則化、
④夜間・休日接見を実現し、
⑤審理日程及び審理期間について再検証するとともに
⑥適切な国選弁護報酬の実現を求めるものだ。
確かに、富山人違い冤罪事件の構造などからしても、これだけの条件がなければ、無罪を訴えてもなかなか通らないことになる。逆に言えば、これだけの条件が整えば、冤罪事件を起こすような取調自体が激減することになるはずだ。
同決議では、たとえば証拠開示については、次のように述べている。
【裁判員裁判では、迅速で充実した審理が求められているが、十分な証拠開示が行われないまま、短期間で審理が終結されるとすれば、弁護人は、被告人に有利な証拠が存在してもこれを知ることができず、反証や弾劾の機会が奪われ、被告人の防御権が著しく侵害されるだけでなく、裁判員による公正な判断が損なわれることになる。
証拠開示が不十分な現状では、裁判員が、「その職責を十分に果たすこと」は不可能と言わざるをえず、裁判員裁判実施までに、全証拠開示が実現されることが必要である】
簡潔にして分かりやすい内容となっているので、ぜひ、全文を読んでほしい。
そのうえで、このまま上記の条件が実現されずに裁判員裁判が始まると、多くの方を冤罪に陥れる危険があること、そのような状態のままでは裁判員を務めることはできないことを法務省などにアピールしてほしい。
※1:http://cgi37.plala.or.jp/~oitakenb/syosai.cgi?2=120408814823165
※2:http://cgi37.plala.or.jp/~oitakenb/syosai.cgi?2=121141690017191
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★「憎しみはダークサイドへの道、苦しみと痛みへの道なのじゃ」(マスター・ヨーダ)
★「政策を決めるのはその国の指導者です。そして,国民は,つねにその指導者のいいなりになるように仕向けられます。方法は簡単です。一般的な国民に向かっては,われわれは攻撃されかかっているのだと伝え,戦意を煽ります。平和主義者に対しては,愛国心が欠けていると非難すればいいのです。このやりかたはどんな国でも有効です」(ヒトラーの側近ヘルマン・ゲーリング。ナチスドイツを裁いたニュルンベルグ裁判にて)
★「News for the People in Japanを広めることこそ日本の民主化実現への有効な手段だ(笑)」(ヤメ蚊)
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確かに、捜査(取調)の可視化がないまま、裁判員制度による短期審理が行われると、強引な取調によって虚偽の自白をされた場合にその自白が虚偽だということを争うことがとても困難になる。大分県弁護士会の決意は弁護士としての良心の発露といえよう。
大分県弁護士会のウェブサイトをみると、次のような「取調の全過程の録音・録画を求める決議」(※1)がされている。
【わが国では、これまで、被疑者の取調は、捜査官と被疑者のみしか存在しない密室で行われて来た。このため、違法・不当な取調べが後を絶たず、密室での自白の強要により、数々のえん罪事件が生み出されて来た。
近年においても、選挙違反をめぐる鹿児島の志布志事件、富山県下で無実の者が刑に服していたことが判明した富山事件、佐賀県下における連続殺人事件である北方事件などにおいて違法・不当な取調が行われて自白が強要されていたことが明らかとなっている。
このような事態を防ぐためには、全事件について、取調べの全過程の録音・録画の実施や弁護人の立会権を認めるべきである。世界的に見ても、欧米諸国のほとんどにおいて、全事件の取調の録音・録画や弁護人の立ち会いが制度化されており、韓国や台湾においても取調の録音・録画が実施されるに至っている。
また国際人権(自由権)規約委員会、国際法曹協会(IBA)、国連拷問禁止委員会といった機関は、日本においても取調を可視化すべき旨勧告している。
我が国においても、密室での取調を排除し、取調の全過程の可視化を図ることで、冤罪を防止し、自白偏重の前近代的な刑事裁判から脱却することが求められている。
ところで、わが国では、平成21年(2009年)5月までに裁判員裁判制度が実施されるが、現在のように、取調状況を検証することが不可能な制度のままで裁判員裁判制度を実施することは許されない。
このような制度のままでは、裁判員裁判においても、自白の任意性をめぐる争いが後を絶たず、その審理のために長期間を要し、裁判員に過酷な負担を強いることになる】
(中略)
【これに対し、全事件について取調の全過程の録音・録画が実現すれば、違法・不当な取調をすることはできなくなるうえ、自白の任意性や信用性についても無用な争いを防止できることは、既にこれを実現した各国において実証されている。
よって、ここに当会は、裁判員裁判制度の実施を目前に控え、国に対し、速やかに、全事件について取調の全過程の録音・録画を実施し、これを欠くときは、証拠能力を否定する法律を整備するよう求める】
ところが、何と、同会の決議は、完全可視化にとどまらない。
5月21日には、「裁判員裁判実施までに解決すべき課題に関する決議」(※2)をなしている。その内容は、政府、国会、裁判所、検察庁、日本司法支援センターに対し、裁判員裁判実施までに、
①取調全過程の録音・録画のほか、
②全証拠開示、
③保釈の原則化、
④夜間・休日接見を実現し、
⑤審理日程及び審理期間について再検証するとともに
⑥適切な国選弁護報酬の実現を求めるものだ。
確かに、富山人違い冤罪事件の構造などからしても、これだけの条件がなければ、無罪を訴えてもなかなか通らないことになる。逆に言えば、これだけの条件が整えば、冤罪事件を起こすような取調自体が激減することになるはずだ。
同決議では、たとえば証拠開示については、次のように述べている。
【裁判員裁判では、迅速で充実した審理が求められているが、十分な証拠開示が行われないまま、短期間で審理が終結されるとすれば、弁護人は、被告人に有利な証拠が存在してもこれを知ることができず、反証や弾劾の機会が奪われ、被告人の防御権が著しく侵害されるだけでなく、裁判員による公正な判断が損なわれることになる。
証拠開示が不十分な現状では、裁判員が、「その職責を十分に果たすこと」は不可能と言わざるをえず、裁判員裁判実施までに、全証拠開示が実現されることが必要である】
簡潔にして分かりやすい内容となっているので、ぜひ、全文を読んでほしい。
そのうえで、このまま上記の条件が実現されずに裁判員裁判が始まると、多くの方を冤罪に陥れる危険があること、そのような状態のままでは裁判員を務めることはできないことを法務省などにアピールしてほしい。
※1:http://cgi37.plala.or.jp/~oitakenb/syosai.cgi?2=120408814823165
※2:http://cgi37.plala.or.jp/~oitakenb/syosai.cgi?2=121141690017191
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★「政策を決めるのはその国の指導者です。そして,国民は,つねにその指導者のいいなりになるように仕向けられます。方法は簡単です。一般的な国民に向かっては,われわれは攻撃されかかっているのだと伝え,戦意を煽ります。平和主義者に対しては,愛国心が欠けていると非難すればいいのです。このやりかたはどんな国でも有効です」(ヒトラーの側近ヘルマン・ゲーリング。ナチスドイツを裁いたニュルンベルグ裁判にて)
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