グリム童話の「死に神のお使いたち」は若い男が死に神を助ける話で、死に神はお礼にこんな約束をする。「おまえの寿命が終わるときは前もって使いを出して教えよう」。だが、ある日のこと。死に神が突然にやって来て、男に告げた。「おまえの寿命は終わりだ」-▼約束の使いなんて来なかったと男が怒ると、死に神はこう言った。「使いはちゃんと出した。熱が出なかったか。目まいはどうだ。耳鳴りや痛風、歯の痛みも。全部おれの使いだ」▼それが寿命を警告する使いだとしても、人はなかなか気づかないのだろう。2011年の東日本大震災による福島第1原発事故。あれは原発の危険を伝える「お使い」であっただろうに。東北電力は女川原発(宮城県女川町、石巻市)2号機を13年7カ月ぶりに再稼働させた▼東日本大震災の被災地にある原発の再稼働はこれが初となる。安全を最優先するというが、心配性はどうも落ち着かない。万が一、大事故が起きれば。不安が拭いきれぬ▼電力の安定供給のためという事情は分からぬでもない。それでも13年前を忘れ、原発にすがる道を歩むことに、あの死に神が浮かんでしまう▼電力、経済、地域振興という事情の中で、どんな「お使い」が来てもわれわれは気がつかないらしい。いや、気づかないふりをしているだけかも。突然、「死に神」がやって来ないことを祈る。
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