プロ野球のキャンプ入りから選抜高校野球あたりまでをさしているだろうか。「球春」はいまや、いくつもの句を生み出す季語であるそうだ。心地よい球音に、美しい季節の訪れや浮いた心持ちが浮かぶ。そんな言葉だろう▼<球春のファウルボールは雲の中>小枝恵美子。俳人坪内稔典さんの『季語集』にある。明るい雲に向かって飛ぶ白球のすがすがしさを感じさせようか。残念ながら、この春ばかりは、暗く低い雲を想像する。シーズンを迎えた球技をはじめ、スポーツの大会が軒並み新型肺炎の拡大で、かつてないほどの影響を受けている▼プロ野球は残りのオープン戦が無観客となり、開幕したばかりであったサッカーのJリーグも試合が延期された。スポーツだけでなくコンサートや文化行事なども中止や延期が次々に決まっている▼政府は二週間、行事の延期などを要請している。しばらくは観客の不在が全国的に広がることになる▼見ている人がいると発揮する力に違いが出る「観客効果」というのがあるらしい。かつてサッカーの無観客試合を二度取材したことがあるが、観客効果ゼロの練習試合のような雰囲気に困惑する選手がいた。客席に喜びのない試合に重みや正統性を感じにくかったのも思い出す▼感染症を封じるためのつらい春である。心浮かれるはずが、しばらくは、「憂き春」「憂春」となりそうだ。
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