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今日の筆洗

2018年06月24日 | Weblog

 動物の言葉を自由に話せるドリトル先生の物語には幅広い世代のファンがいるだろう。覚えていらっしゃるか。先生に動物語の手ほどきをしたのは、オウムのポリネシアである▼「カカオイイー、フィーフィー」。意味を尋ねる先生に「おかゆはもう熱くなったか」とオウムが教える。先生は不思議がる。なぜ、今まで教えなかったか。「話したってむだでございましょう」。動物に言葉が話せるわけがないと、聞く耳さえ持たぬ人間に話しかけたところで仕方がない。オウムの答えは人間への皮肉がこもる▼動物と人間は想像以上に正確に意思疎通を図れる。それを身をもって示し、動物の声に人の「聞く耳」を向けさせた一頭の有名な雌ゴリラがこの世を去った。米ゴリラ財団のココ。四十六歳だった▼一千のしぐさを覚え、二千の英単語も理解したとは今さらながら驚かされる。しぐさで人と会話し、ときにふざけ合う。ユーモアのセンスもあったそうだ▼飼い猫の事故死を知ったココが「ひどい」「悲しい」と示す映像を見た人もいるだろう。人と変わらぬ心の動き。人もゴリラも同じ生きもの。ココはそう教えたかったのだろう▼人との会話を学んだココは幸せだったか。ゴリラは死ぬと快適な穴に行くとココが答えたことがある。その穴で、人間について「ひどい」「悲しい」と語ってはいないか。いささか心配になる。

手話ができる奇跡のゴリラ「ココ」! 自分の最期も理解していた・・・【感動】



今日の筆洗

2018年06月23日 | Weblog

 記憶は古いほうから順に消えていくわけではもちろんない。年を重ねて、子どもの頃に負った心の古傷が突然開くことがある。戦争の傷ならば、それは強く痛むだろう▼八十八歳の内原つる子さんは五十代で、足が燃えるように痛んだ。沖縄戦で米軍の機銃掃射の中、母とともに死を覚悟しながら逃げている。途中、遺体を踏んだ。その感触が心の中に残っていた。幼児を見かけながら助けられなかった後悔も。痛みは「天罰だ」と悩んだ▼沖縄戦の心の傷に原因があると診断されたのは後のことだ。そこから痛みは和らぐ。昨年出版された『沖縄からの提言 戦争とこころ』には、内原さんのような例がある。診察した精神科医、蟻塚(ありつか)亮二さんによると、高齢になってから、再び苦しみ、心身を病む人も多い。「戦争は過去のものではない」▼沖縄戦が終わって七十三年の慰霊の日だ。沖縄県民四人に一人が犠牲になり、生き残った人たちも多くが心身に傷を負った。戦争を直接知る人は少なくなっている。今も痛みを感じる人がいることも、わが国でどれほど意識されているか▼暗いニュースが心の傷が開くきっかけになるという。基地問題では、沖縄の負担が、軽くならない。米軍機を巡る事故も絶えない▼「『もう安心していいよ、おばあちゃん』と言える世の中にならないと癒やされない」。蟻塚さんの言葉をかみしめる。


今日の筆洗

2018年06月22日 | Weblog

 草木のない山や魚のいない水のようなものか。欠ければ精彩も消え、全体が別物に思えるものがある。一九四九年、法隆寺が火事に見舞われた際、焼損した金堂の壁画を東京で保存するという国の方針が聞こえてきた▼「持っていかれると法隆寺は法隆寺でなくなる」「魂を抜かれるようなものだ」。不安の声が上がった。「最後の宮大工」といわれた西岡常一さんが、立ち上がって当局に抗議する▼ひと騒動だ。<どうしても強行するなら、今いる五十人の大工が集まって、運び出すのを止める、とまでいった>(『宮大工棟梁(とうりょう)・西岡常一「口伝」の重み』)。結局、収蔵庫が作られ壁画は残った▼米国のいない国際機関は、存在意義を保てるか。こちらはそんな疑問が浮上する騒動である。トランプ大統領の米国が国連人権理事会離脱を表明した。自国の主張が通らないのが理由のようだ▼多国間の人権を話し合う最も重要な機関が、財政面を含め打撃を受ける。米国自体も、受ける影響はあるだろう。建国以来、魂の一部というべき人権の看板だ。なのに、国際的な役割に背を向ける。米国は米国たり得るのであろうか▼自国の価値観を時に強引に世界に広めてきた。自由貿易、文化、環境問題。その役からも降りてきた。わが国と米国を強固に結んできた共通の価値観が、変質しているのではないかという大きな疑問も生じる。


今日の筆洗

2018年06月21日 | Weblog

 ロシアはことわざの宝庫だという。森林の国らしく、森のくらしや動物に関することわざ、表現が特に豊かだ。「ヒツジがオオカミを食べることもある」「湿った薪も燃え上がる」。見た目を裏切る強さを示す言葉を『ロシア語名言・名句・ことわざ辞典』などから引いた▼その北の大国で、劣勢の予想を見事に裏切る戦いをサッカー日本代表がやってのけた。ワールドカップの初戦で、強豪のコロンビアから挙げた金星である。時間がたっても高揚感は消えない▼「オオカミが怖ければ森へ行くな」は恐れを戒める言葉だ。先制点につながった攻め。大迫、香川選手らが恐れず前に出てものにした。格上相手に主導権を取りに出た西野監督の判断もさえた▼監督交代や長い不振などで、悲観的な材料だらけだった。ベテラン重視の選手選考も、その一つだろう。ただ前回大会の不振だけでなく、逆境からの戦いを何度も経験してきたのがベテランの香川、本田、岡崎選手らだ▼十年前の北京五輪を彼らの若い日本は三戦全敗で終えた。日本で待っていたのは冷めた空気。うなだれる姿を思い出す。「経験を無駄にしない」と岡崎選手は話した▼「古ギツネはわなにかからない」。経験を貴ぶ言葉もロシアには多い。ベテランが活躍した試合でもあった。逆風もそこからの再起も見せてくれる。サッカーの魅力に感じ入るロシア大会だ。


今日の筆洗

2018年06月20日 | Weblog

 <酒やめてかはりになにかたのしめといふ医者がつらに鼻あぐらかけり>。歌人、若山牧水は酒がやめられなかった。朝二合、昼二合、夜四合。日に一升近くやってしまう。アルコール依存症である▼<酒やめむそれはともあれながき日のゆふぐれごろにならば何とせむ>。やめたい心はあっても、やめられない。苦しかっただろう。苦しいからなお酒か。四十三歳でこの世を去るが、主治医が不思議なことを書いている。死臭がしなかったという。<斯(かか)ル現象ハ内部ヨリノアルコホルノ浸潤ニ因(よ)ルモノカ>。痛々しく悲しい▼ある趣味も一線を越えれば依存症という紛れもない病であると世界保健機関(WHO)がこのほど認定した。テレビやオンラインなどのゲームである▼ゲームのやり過ぎで、日常生活をつつがなく、営めなくなる「ゲーム障害」。世界的に問題になっている▼ゲームをしたい衝動が制御できない。家族、仕事に大きな支障があってもゲームを優先する。本来は楽しむべきゲームに縛り付けられ身動きが取れなくなっている人がいる。本人たちもつらいに違いない。疾病認定によって治療法を早期に確立したい▼無理にゲームを奪っても効果はなかろう。気づいてもらいたいのはゲームより心躍る場面もきっとある日常の味か。牧水が見つけられなかった、<ゆふぐれごろにならば何とせむ>の何を探したい。


今日の筆洗

2018年06月19日 | Weblog

 英語の表現に「マンデー・モーニング・クオーターバック」というのがある。直訳すれば、「月曜日の朝のクオーターバック」となる▼クオーターバックとはアメリカンフットボールの司令塔役のポジション。この奇妙な言い方で「結果論ばかりを言う人」の意味になる。日曜日の試合を月曜日の朝になって反省し、あのとき、あそこへボールを投げていれば、もし、あの時、こう動いたとすれば…。日本語でよくいう「たられば」である▼もし壁が崩れなかったらとうめく月曜日の朝の地震である。大阪府北部を震度6弱の地震が襲った。大阪府内での観測史上最大の震度だそうだが、その震度にしては、被害は最小限ですんだとは決して口にすまい。現時点で四人が亡くなり、大勢の方がけがをしている。ライフラインにも深刻な打撃が出ている▼高槻市の女の子は学校プールの壁の下敷きになって亡くなっている。大阪市東淀川区で亡くなった八十歳の男性も民家の外壁の倒壊に巻き込まれた▼揺れを受けた壁が崩れる。過去の大地震で何度も見聞きしたことである。頑丈に補強しておけば、あるいは、もしもの際の注意を促しておけば奪われることのなかった命かもしれぬ▼「たられば」も後で悔いるだけなら虚(むな)しい結果論かもしれぬが、それを忘れず将来に備える材料にするのなら有益な教訓になる。壁の恐怖を忘れまい。