ほばーりんぐ・とと

ただの着物好きとんぼ、ウンチク・ズッコケ・着付けにコーデ、
あちこち飛んで勝手な思いを綴っています。

疲れず歩くって…

2014-03-22 19:05:28 | 着物・古布

 

写真は頂き物のゲタ二足。どちらも鼻緒の挿げ替え待ち。

左は撚り鼻緒の下にもう1本あって、履こうとすると、その二本の間に指が入ってしまう・・・。

右の鎌倉彫の方は、左の前坪がすでに半壊状態、履いたら切れます。

どちらも右近なので、大好きなのですが、なかなか挿げ替えできません。

 

 

先日ゲタのお話から、履き方歩き方…なんてお話になりました。

あの時の歩き方は、足の使い方…ということだったんですが、

歩行、という意味では、また別のことになります。

かなり昔の記事で書いているんですが、読み返すと「説明不足」…なので、もう一度。

 

いわゆる「なんば歩き」ということです。

聞いたことがあるのは私くらいから上?でしょうか。

「右手と右足が一緒に出る歩き方」です。

この「右手と右足が一緒」というのは、誤解を生みやすい言い方で、

どうしたって思い浮かぶのは「幼稚園の子が間違えてオイッチニとやっている姿」ですね。

しっかり右足あげてしっかり右手振って…のあれ。なんば歩きは「右足が出るとき、右の腰がでる」です。

いえ、実は歩いてみると「右足が出るとき右の腰が出る」のは普通のこと、

「なんば」は、「ひねり」が加わらない歩き方、ということなんです。

これでもまだわかりにくいですね。

 

私たちが今普通に歩くと、右足が前に出る時は左手が前に出る…ですね。

これは「斜対歩」というそうです。一歩目から二歩目に移るとき、腰がひねれた状態になることです。

これってなぜ?…ですが、人間がまだ4足歩行のお猿さんだった頃の名残…だそうです。

お猿さんが、「手」とも見える長い前足をついて4足で歩くとき、右後足が出るときは左前足…です。

つまりこれの名残。

それまでラクな四つん這いだったのが、重みが両足にかかる二足歩行で直立したとき、

それで歩くのにバランスを保つため、地面についてもいない手が左右に動くわけです。

 

反対に「右手と右足が同時に出るの」は「側対歩」というそうですが、これって動物によって…です。

動物の歩き方なんて、あまり気にしたことないんですが「側対歩の動物」で検索すると、

ラクダ、ゾウ、キリン…などとでてきます。

馬とかチーターとか、早く走れる動物って、最速になると前足二本同時に出して、

地面を蹴り、同時に後ろ足二本がそろっておなかの下に入って蹴る…の連続ですね。

あの走り方ができない動物は、右右左左…で急ぎます。ゾウが走る画像、見たことがあると思いますが。

これって体がねじれないので、体重移動が楽で効率がいいんですね。

 

読んでるだけだとよくわからない…では実験してみましょう。

まず立って、足の間は少し開きます。四つ這いまでいかなくていいですから、

ちょっと上体を倒して(深めのお辞儀という感じ)、両腕をまっすぐ下げます。

少しお辞儀したかっこにするのは、腰から上の動きをよく感じるためです。

この状態で、実際には歩かなくていいですから、歩くマネをしてみてください。

片足ずつ、つま先はつけたまま、かかとを上げてヒザを曲げる…でいいです。

イッチニ、イッチニ…次にこれに合わせて、下げた腕を、いつも歩いているときのように振ってください。

右足のかかとがあがるときは、左手が前…です。いつもの動きですから簡単でしょ。

これで足を実際前に前にと送れば、歩けるわけです。これが「斜対歩」。

一度止まってください。もう一度、足だけ歩くマネ、イッチニ、イッチニ…・

今度は意識して、右のかかとを上げるとき、右手を前に振ります。できましたか。

ゆっくりでいいですから「右手と右足」「左手と左足」そろうように。これが「側対歩」。

 

どこが違うかというと、上体の「揺れ」ですね。斜対歩、つまり右足と左手、だと、上体があまり揺れません。

側対歩、右手と右足だと、上体が左右に揺れますね。はっきり感じると思います。

つまり、手足を逆に動かすということは「腰」をひねって、上体にくるショックを吸収しているということ。

「腰」をひねることで、上体の安定を保っているわけです。

正確に言うと、腰から上をひねる、です。腰をひねると脇腹も背筋なども

みな片側が伸び、片側は縮みますね。

つまり、人間は本能的に「バランス」をとって歩くわけで、もともと四足の時のバランスのとり方で、

左右に腰を振る…四つ這いの時は、そうすることで脊椎にかかる力をうまく分散したり、

或いは側対歩の動物は、それで体重移動することで足にかかる負担をかえたりしているわけです。

二本足で立ってしまった人間は、骨格はほかの哺乳類と基本的に同じなのに、

かかる力を分散し、バランスをとるために腰をひねる、という歩き方になったんですね。

 

かつて日本人は、なんば歩きで暮らしていた…と言われています。江戸時代まで…。

これは諸説あるのですが、私がなるほどおもしろいねぇと思った説は、

まず帯を腰に締めるという暮らしでは、斜対歩、つまり現在の歩き方では

腰が常時ひねられて上体がねじれ、帯が緩み、着物が着崩れる…。

また、基本的に右手と右足は連動して動くのが自然。

たとえば農作業で鍬や鋤を使うとき、右足が前なら、手も右が前。

これは雪かきのスコップで経験済みです。

利き手が右なら、スコップの先に近い操作するほうは右手。

雪にスコップを突き刺してぐっと押すときは、右足が出ますよね。右と右です。

そして盆踊りなども右足出れば右手が出る・・・はい踊ってみましょう、炭坑節でも東京音頭でも。

言われてみればそうです。また武士は腰に刀を差していると、腰をひねって歩けない…。

そんなこんなで、要するに「日本人の暮らし」というのは、なんば歩きが適していたのでは、と

そう思います。

 

「なんぱ歩き」は「側対歩」。

だからといって、実際には四足の動物のように手(前足)をついて歩くことはないわけですから、

右足が前に出たからと言って、右肩を前に出しませんし、右手を振ることはありません。

だから幼稚園のオイッチニ、とは違うわけです。

 

どうやって歩くのか、これがねぇ、説明するのは難しいのですが…。

とりあえず、手を振らずにそして特に「肩」を動かさずに、体側につけたまま歩いてみてください。

わかりにくければ、後ろで手を組んでやってください。肩もうごきませんから。

別に、右足出したときに右手ださなくても歩けますね。ちょっと歩きにくい気がしますが。

つまり「腰から上をひねらない」ということなんですね。脇腹も背筋も、動かないままです。

考えてみますと、着物を着たときって、洋装のようにカッカッと元気よく歩くわけではありません。

着物の形状や、中に着ているものからして、当然歩幅は洋装の時よりせばまりますし、

元気よく手を振っては歩きません。だから、なんば歩きも十分できたと思います。

 

元々よく「着物は健康にいい」とか「帯は腰にいい」といいます。

実際、現代の医学でも腰を痛めればコルセットや腰ベルトをします。

帯は、歴史の中での幅の変化はありますが、要するに骨盤をしっかり締めるんですよね。

久しぶりに着物を着ると、最初は腰も背中もなんか痛いのですが、

そのうちどうもなくなり、腰の痛みも出ません。

この「腰を締める」、実際に骨盤を締めているのは腰ひもですが、その上から幅の広いもので

おさえるわけですから、コルセットと同じ効果で、猫背にもなりません。

腰はひねられずに安定し、背筋は伸び、足はスムーズに出る、

手は振らなくても歩ける…のではないかと思っています。

 

足の健康番組などで、足の裏のどこに体重がかかっているかを調べる機械が出てきますね。

色がかわって、どこに重心がかかっているかわかるアレ。

理想は、5本指とかかとに均等に圧がかかって足裏全体で支えていること。

ところが現代人はやたらと足の外側にばかり圧のかかっている人が多くいるそうです。

つまり親指に力が入ってない。またかかとにばかりかかっていたり、逆に指先だけかかっていたり…。

 

ゲタや草履は、前坪を足の親指と第二指ではさんで履きます。

そこに力が入るわけで、当然足の指全体が押し付けられます。

また足を下したときは、靴のように包むものがありませんから、かかともしっかりつきます。

げたもまた健康的な履物なのですね。

ゲタは前歯のほうがヘリが早いのが普通です。重心を前にして歩きますから。

もし同じだったり後ろの歯が減ったりするのは、重心の移動がうまくできていない…どころか、

病気が予想されるとまでいわれています。

 

いろいろまとまりなく書きましたが、洋装の暮らしが当たり前になってから慣れた「斜対歩」は、

腰に負担がかかる歩き方、ほかの動物に腰痛はない…なんて言われます。

日本人は、本当の理由はわかりませんが「側対歩」という、実は歩きにくく見えるけれど、

体にいい歩き方をし、体にいい履物をはいてきたんですねぇ。

私は、子供のころからゲタを履いてましたので、普段洋装で靴でも、着物でゲタや草履を履けば、

それ用の履き方歩き方になるのですが、靴で育った人には、新しく体で覚える履き方歩き方です。

まずは着物を着たらできるだけ手を振らないで歩いてみる、というのはいかがでしょうか。

片手はバッグを持って、それを振らない、あいたほうの手はたとえば帯揚げの真ん中あたりに

ちょっと添える形にする…これだけで、腰はひねれませんから。

 

なんかまとまりのないお話になりました。

とにかく、和装って、形や着方だけでなく、歩き方も違うものとしてのこってきたものなのだということです。


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8 コメント

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ありがとうございます! (露草)
2014-03-22 20:46:41
とてもよくわかり、理屈も納得できました。「うんうん!」と頷きながら読みました。
「なんば歩き」元から知ってはいませんでしたが、何度かテレビで古武道?の先生だかが紹介していたのを見たことがあります。確か、武士が走る時の画像を見るとよくわかりました。少し腰を落として、膝を軽く曲げていましたね。

私はけっこうきものを着るのに、歩き方はまだ洋服の時と同じようになってるみたいで、裾がはだけやすいんです(^^; 明日から少し意識して歩いてみます。


数日前からなんとなくお腹の調子がよくないんです。こういう時もきものに限りますね!

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Unknown ()
2014-03-22 23:48:37
江戸から明治にかけてのテレビドラマだったか
丁髷姿に鉄砲担いでの行進場面
右足・右手 同時に出す人は 違う! と
怒鳴られていた様な記憶が・・・

着物を着ても 階段を走り降りるは 
電車には飛び乗るは
そんな私ですから 写真に撮られる姿は
足をしっかり開いての 仁王立ち
まったく綺麗ではありません
これからは 楚々とお淑やかに歩こうと
遅まきながら 極力努めたいと思います・・・
が・・・
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Unknown (陽花)
2014-03-23 00:14:14
結婚した頃は日常に下駄を履いていましたが、
随分長らく下駄は履いていません。
普段に履きならしておかないと無理かもというぐらい
履いてないですね。
下駄というと母がこま鼠の様にカタカタ音を
鳴らしながら忙しそうに動き回っている姿を
思い出します。
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Unknown (みけ)
2014-03-23 14:39:51
洋服より半幅でも帯の方が腰が楽ですよね。
自分の感覚で締められますし。

雨天時にゴムをはっていない下駄は今の時代、道路標示(地面に書かれている方)やマンホールのふた、デパートの床で滑るときがありますね~
歩いて行けるご近所はゴムのはった下駄で出掛けますが電車に乗るときは草履を履くようになりました。

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Unknown (とんぼ)
2014-03-23 19:42:12
露草様

今でも武道家が、なんば歩きの推奨など、
しています。
武士は、刀もさしているし。早く歩いたり走ったりが
ありますから、ヒザに手を当ててすすっと進んだり、
腰を落として走ったりしたんでしょうね。

私も昨夜ちょっとおなかにきました。
すぐ治まりましたが、朝晩はまだ冷えるし、
気をつけなくちゃですね。お大事になさってください。
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Unknown (とんぼ)
2014-03-23 19:44:28
惠様

そもそも「斜対歩」が最初に導入されたのが、
「軍隊」からでしたから。
当時の人は歩きにくかったでしょうねぇ。
腰痛持ちもそのころから?かもです。

洋装に慣れると、着物のときもついその調子で…。
それで足が開かなくて、段を上り損ねたりしてますー。
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Unknown (とんぼ)
2014-03-23 19:46:36
陽花様

ゲタと草履ってまた少し違いますから、
急に履くと、ちょっと「アッ違う」なんて思ったりします。

カラコロやカタカタの音、割烹着の後姿、
別珍の薄くなったたび…母親の姿、
私も思い出しました。
返信する
Unknown (とんぼ)
2014-03-23 19:49:27
みけ様

伊のあたりがしっかりすると、気持ちいいですね。
帯を締めると、日頃の姿勢のわるさを痛感します。

そろそろ限界の今のゲタは、ゴムなしなんですが、
やっぱり気を付けないと、金属のあるところとか、
つるっといきますね。
我が家は車庫の段けしが、金属なので、
このゲタはくと、大股でまたいで通ります。

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