ほばーりんぐ・とと

ただの着物好きとんぼ、ウンチク・ズッコケ・着付けにコーデ、
あちこち飛んで勝手な思いを綴っています。

今日はショートですみません

2006-08-05 15:08:25 | 着物・古布

古い厚手木綿です。縦半分の片側だけ汚れていて、片側はきれいなまま。
長さは手ぬぐいほど。縦に折り線がついていて、その通りに折ると
細長くまっすぐになります。さてこれは何でしょう。
正解は「着物の衿」です。着物といっても普通の着物ではなく、
いわばユニフォーム・・と思われます。
実は、これ「播州赤穂、浅野家の親戚」というおうちからでたもので、
「江戸時代の使用人の着物の衿」だそうなんです。
つまり侍ではなく「武家の使用人」、刀を持たぬ身分ですから、
「中間、徒歩(かち)、小者」と呼ばれる人たちですね。
このあたりの身分については、それを雇う屋敷の貧富によって、
シゴト内容も変わってきます。裕福な大名のようなところでは全て分業、
中間もヒマで、賭け事などにのめりこむ「悪者」も多かったようですが、
さほど裕福ではない家では、一人の中間が雑用をいろいろこなす・・、
長く仕えて、家族のようなあんばい・・ということもあったようです。

これらの小者たちが着る着物は、シゴトによっても違いましたが、
たいがいは衿もしくは衿と袖口にこういう別布をあしらった着物、
それをはしょって足をむき出し・・と言う形だったようです。
そういう衣装から浮かぶのは、いわゆる「奴さん」ですが、
「奴」というのもいろいろありまして、
武家に仕える小者さんたちを言う「奴」、これは耳慣れた歌がありますね。

♪やっこさぁん どちらぁゆぅく~
 旦那お迎えに さても寒いのに供揃い・・・

この歌の中でも「お供は辛いね」と歌ってます。
寒い中でも「奴さんは 高端折」ななわけで・・。  
今各地で行われているお祭りや観光用の「大名行列」で、
先頭を切るのは「毛槍」を持った「ひげ奴」、あの毛槍を回したり、
二人向き合って投げたりするのは「江戸入り」のときのデモンストレーション。
たいがいは紺地の丈短めの着物で、衿が白と紺の手綱もよう・・。
元々はその大名家のお抱えだったのですが、参勤交代がきつくなり、
経費節減のために「小行列」で江戸近くまできてから、
江戸入り用臨時奉公人としてアルバイト募集・・なんてことになってきまして、
そういう時は「毛槍」を扱える奴さんを雇ったのだそうです。
「募集要項 毛槍を扱える者 若干名 制服支給 委細面談」ってなとこ?
いえ「支給」しないところもありました。もともとこういう奉公人は、
代々仕えるものとそうでないもの、渡り中間などと呼ばれるものもおり、
どんなお屋敷に勤めてもいいように、着物の紋は四角を四つ並べたもの、
ここから「豆腐を四角く切ったもの」を「奴豆腐」と言うようになりました。

こういう「お仕えする奴」のほかに、「カブキ者」としての奴がいました。
カブキ者、つまり目立ちたがりで「男伊達」を気取るものたちですが、
江戸時代のこっちの奴はあまり評判のよくないものが多かったようです。
たとえば旗本の次男三男という、いわゆる「部屋住み」と呼ばれるものたちは、
長男に何かない限り、一生飼い殺しでした。あとは「養子」にいくか、
学問などして身を立てるか・・・。
自立したくても「パラサイト」を強要されたわけで、
気の毒といえば気の毒ですが、まともに暮らしてよい養子縁組に当たり、
実家よりも格式が上のところで「マスオさん暮らし」をすることもありました。
それのできないものが集団化したものが「旗本奴」などと呼ばれました。
旗本ですから、盗賊にでもならない限り何をやってもお咎めナシ。
飲食代の踏み倒しなど当たり前だったようです。とんでもない話ですね。
これに対抗して「男伊達」を張ったのが「町奴」、要は「侠客」です。
この対立で有名なのが「番隨院長兵衛」のお話です。

とまぁこんな具合に「武家の奉公人」「奴」といろいろいたわけですが、
この衿をつけていた奉公人は、どんな人だったのでしょうね。
外に出ていたほうは色あせてもいないのに、衿の折山がかなり汚れています。
一日で真っ黒になるほど、一生懸命働いたのかもしれません。
けばけばとした手触りの厚手木綿、このままゆっくり休んでもらいましょう。









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4 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
格子 (百福)
2006-08-05 23:29:54
中形ですか?細かい筋に十字がお洒落ですね~。

なんていう格子なんでしょう。

返信する
Unknown (陽花)
2006-08-06 00:32:02
江戸時代は折角男子に生まれていても

次男、三男ではつらい時代だったのですね。

それに、奴豆腐のいわれが奴さんの着物の

紋からだとは・・・
返信する
奴さん (まりも)
2006-08-06 01:06:13
はじめておじゃまします。

ステキなもの見せていただいてうれしいです。

奴さんの唄、好きでよく唄うのですが、奴にも色々あるのですね。豆腐をやっこに切って、というのを八個に切った若い人がいるそうで、教えてあげたいですね。
返信する
Unknown (とんぼ)
2006-08-06 01:30:50
百福様

柄の大きさからいくと「中型」といえると思いますが

裏まできちんと同色に染まっておりません。

しごき染めかと思います。

よく見ると、かすれていたり、染ムラがあったり。

それほど上質の染めではないと思われます。

格子の名前もなんなんでしょうねぇ。

普及品であったのか「浅野家」独特であったのか

そこまで聞いてないのでわからないのですが、

見たときに柄も珍しいし、グリーンという色が

珍しいと思いました。あるとこにゃあるもんです。



陽花様

そういう世襲にしても、身分制度などにしても、

生まれたときから決められて・・・。

いい時代に生まれてよかったです。



まりも様

ようこそおいでくださいました。

やっこが八個は、なさけないですねぇ。

でも、いろいろな言葉が「死語」になってゆく・・。

粋な言葉は残したいものです。
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