もう着物として着る時期は終わりましたが、今日は麻のお話しです。
素材の最初に書きましたとおり、麻は広範囲の種類をまとめて「麻」とよんでいます。
日本の「麻」は、大麻が「薬物」にひっかかるということで、現在は栽培に規制があり、
現在日本で「上質の麻」とされているのは「苧麻」、その他は輸入された麻です。
今日は、苧麻と大麻についてお話します。
「歴史」
麻は最古の繊維と言われていまして、始まりはアジアの中央あたりと言われています・
エジプトのミイラが麻布で包まれているのは、よく知られていますね。
また、日本でも自生していましたから、これはよその国から伝来ということではなく
新石器時代アタリに、すでに使われた形跡があるそうです。
布に織られて使われたのは弥生時代の遺跡から出土しているといいますから、
本当に日本人にとって、なじみの深い、重宝な繊維だったのですね。
時代が進み、この元々の麻のほかに、苧麻や亜麻など、麻系のものが入ってきたため
「大元の麻」ということで「大麻」と分けたといわれています。
「現在の麻」
現在、国内で「麻素材」とされているのはほとんどが「苧麻と亜麻」で、
和服用の「上布」と呼ばれているものは「苧麻」が使われています。
ちょっとややこしいのですが「日本で昔から作られてきた苧麻」が、
東南アジアでは「ラミー」とよばれているわけで、
これが近代になって大量に輸入されるようになり、品種改良などもされたわけです。
今、国内産苧麻イコール「上布用高級麻」なんですが、
実はラミーも同じ「苧麻」ですから、これを使っても「上布」には変わりないわけです。
そのあたりのことで「輸入物と混ぜても上布といっていいのか」というような問題も…。
織物によっては、その織物独自の「定義」を決めて、
それをクリアしているものにだけ「証書」をつけている…ということがありますから、
もし単純に「苧麻であること」が定義なら、どこの苧麻でもいい…になるわけです。
これの是非は、ここでは書きませんが、とりあえず今の国内では、
衣料用に使われているのはほとんど「苧麻(ラミー)」と「亜麻(リネン)」、
そのほか目的によって、例えばロープなどにはマニラ麻など、使い分けられています。
ちなみに「国産大麻」は規制がありますので、
素材表示は「指定外繊維」…おかしな話と思いますが…。
また最近は大麻という表示だと混乱を招くので
外国での名称「ヘンプ」という呼び方を使うことが多くなっています。
今国内で作られている「大麻」は麻素材としては衣料より「それ以外」、
例えば「麻ひも」や「麻糸」などに多く使われています。
荷造り用の紐、たたみ糸、また神事にも欠かせないものですから、そういうところにも使われます。
相撲の横綱が締める化粧回し、あのおなかの部分に太い注連縄のようなものがありますが、
あれは麻の束をさらしで巻いたものをお相撲さん総がかりでよりあわせて作ります。
「苧麻・大麻を糸に」
最初の「素材」でお話ししましたように、植物の茎や枝、幹などから繊維をとるためには、
余分な枝葉を落とし、茎の芯と外皮を分け、外皮の更に外側をとりのぞく、
これはほとんど同じです。その途中の細かい作業にいろいろと違いがあるわけです。
<苧麻>
苧麻は「からむし」「あおそ」と呼ばれます。
麻系ですから生育はよく、まっすぐに2m前後に育ちます。
これを刈り取り、葉を落として茎だけにしたものを何本かの束にしてすぐに水につけます。
乾燥を嫌いますので、水につけることで乾燥を防ぎ、柔らかくします。
これを引き上げて途中を折り、そこを手がかりに、茎の芯部分と皮部分にわけて、
二枚になるように皮を剥ぎ取ります。(バナナでいうと、ニ方向に皮をむく感じ)
これを「麻剥ぎ」「皮剥ぎ」と言います。
この外皮の部分の更に外側など余分をそぎ落とすのが「苧引き(おびき)」。
これは「苧引き盤・苧引き板、苧引き具」など、専用の台と板を使い、水でぬらしながら、
剥いだ皮部分の、外側の皮、中側の青い部分をこそぎ落とすわけです。
まぁ経験もない私がまことしやかに話しておりますが、
映像で見ても、これが「カンタンな作業でない」ことは一目で分かります。
まさに経験がモノをいう世界ですね。
さて、こそぎとって繊維だけになったものが「原麻(げんま)」、
苧麻の場合は「あおそ」とよばれるだけあってわずかーに緑色をしています。
これを束にして乾かします。
ここから糸にすることを「苧績み(おうみ)」と言います。
まず乾燥を避けるために湯や水に入れて湿らせながら、
原麻の一本をとって、指とツメを使って裂いていきます。
絹や綿から引く木綿と違って麻は茎の長さしかありませんから、
短い繊維を継いで長い糸にしていきます。
説明が難しいのですが、まず細い糸にして、糸の先を更に二本に裂きます。
次の糸も同じように二本に裂いて、これを組み合わせるようにして撚り合わせます。
これは私も詳細が分からないのですが、例えば経(たていと)と緯(よこいと)では、
別の継ぎ方をする…など、使い分けられているそうです。
以前NHKで、越後上布を織るための「苧績み」をみましたが、
先を割って組み合わせた糸を寄り合わせるとき、
片方のニ本のうち一本を、折り返す…という継ぎかたでした。
いずれにしても、元々つながっていないものをつなげるわけですから、
一本になったとき、つなぎ目がぼこぼこになりそうなものですが、
それがほとんど分からない…というのがすごいところです。
そうやってつないだ糸を「おぼけ」と呼ばれる小さい桶に、からまないよう、
らせんを描くようにして重ねて入れていきます。
わずか2メートルほどのものを根気よくついで行くわけですが、
なにしろ反物でもなんでも、たいへん長いですし、反物には幅というものがありますから、
例えば一本の反物を織るのに、経は800本とか1000本とかいるわけです。
そのため、一人の苧績みで反物一反分の糸を作り出すのは「月単位」の時間がかかります。
こうしてできた糸に、撚りをかけて「麻糸」の完成となります。
<大麻>
作り方は同じですが、最初の部分が少し違います。
大麻の場合は、枝葉を落として束にしたものを「熱湯」につけます。「麻煮」と言います。
これは、麻の場合は発酵させて糸をとるため、殺菌や虫などの駆除のためです。
これも以前映像で見ましたが、煮ると言っても時間としてはほんの数分です。
煮具合のタイミングもあります。数人がかりで次々と束を湯につけ、
一番いいところで引き上げては運ぶ…やはり熟練の技です。
煮あげたものは天日干しして、完全に乾燥した状態で保存され、
そのまま一ヶ月ほど寝かせたものを、発酵させます。
まず「麻舟(おぶね)」と言う専用の器を使い、一日二回水に浸し
そのままカバーをかける、これは昔は藁とか菰を使ったようです。
これで数日おくと発酵して粘性がでてくるそうで、ここから先は苧麻と同じ、
芯と外皮を分ける作業に入ります。麻糸は、こうしてやっぱり大変な手間と時間をかけて作られます。
素材のお話しは「絹、木綿、麻」で、終わりにしようと思います。
次回からは、糸から布へ…まだまだ先は長いです。
今回は、参考文献は様々な「古い雑誌」ということになります。
また、参考HPは以下の通り。
麻については、いろいろ体験記や専門家のページなど多くありますから、
ご興味がありましたら、一度ご覧ください。
*参考HP*
「和のこころ なごみ空間 きものポータルからくさ」の「越後上布」
「古代織りの部屋 ゆう」の「からむしの糸づくり」
トップ写真は手持ちの「原麻」、長さと色からいって
「苧麻」ではなく「大麻」のほうだと思います。
おまけ写真は、麻の小袋、お菓子が入っていましたが、
デジカメのバッテリーにちょうどいい大きさ。小さい刺繍は「鹿さん」です。
素材の最初に書きましたとおり、麻は広範囲の種類をまとめて「麻」とよんでいます。
日本の「麻」は、大麻が「薬物」にひっかかるということで、現在は栽培に規制があり、
現在日本で「上質の麻」とされているのは「苧麻」、その他は輸入された麻です。
今日は、苧麻と大麻についてお話します。
「歴史」
麻は最古の繊維と言われていまして、始まりはアジアの中央あたりと言われています・
エジプトのミイラが麻布で包まれているのは、よく知られていますね。
また、日本でも自生していましたから、これはよその国から伝来ということではなく
新石器時代アタリに、すでに使われた形跡があるそうです。
布に織られて使われたのは弥生時代の遺跡から出土しているといいますから、
本当に日本人にとって、なじみの深い、重宝な繊維だったのですね。
時代が進み、この元々の麻のほかに、苧麻や亜麻など、麻系のものが入ってきたため
「大元の麻」ということで「大麻」と分けたといわれています。
「現在の麻」
現在、国内で「麻素材」とされているのはほとんどが「苧麻と亜麻」で、
和服用の「上布」と呼ばれているものは「苧麻」が使われています。
ちょっとややこしいのですが「日本で昔から作られてきた苧麻」が、
東南アジアでは「ラミー」とよばれているわけで、
これが近代になって大量に輸入されるようになり、品種改良などもされたわけです。
今、国内産苧麻イコール「上布用高級麻」なんですが、
実はラミーも同じ「苧麻」ですから、これを使っても「上布」には変わりないわけです。
そのあたりのことで「輸入物と混ぜても上布といっていいのか」というような問題も…。
織物によっては、その織物独自の「定義」を決めて、
それをクリアしているものにだけ「証書」をつけている…ということがありますから、
もし単純に「苧麻であること」が定義なら、どこの苧麻でもいい…になるわけです。
これの是非は、ここでは書きませんが、とりあえず今の国内では、
衣料用に使われているのはほとんど「苧麻(ラミー)」と「亜麻(リネン)」、
そのほか目的によって、例えばロープなどにはマニラ麻など、使い分けられています。
ちなみに「国産大麻」は規制がありますので、
素材表示は「指定外繊維」…おかしな話と思いますが…。
また最近は大麻という表示だと混乱を招くので
外国での名称「ヘンプ」という呼び方を使うことが多くなっています。
今国内で作られている「大麻」は麻素材としては衣料より「それ以外」、
例えば「麻ひも」や「麻糸」などに多く使われています。
荷造り用の紐、たたみ糸、また神事にも欠かせないものですから、そういうところにも使われます。
相撲の横綱が締める化粧回し、あのおなかの部分に太い注連縄のようなものがありますが、
あれは麻の束をさらしで巻いたものをお相撲さん総がかりでよりあわせて作ります。
「苧麻・大麻を糸に」
最初の「素材」でお話ししましたように、植物の茎や枝、幹などから繊維をとるためには、
余分な枝葉を落とし、茎の芯と外皮を分け、外皮の更に外側をとりのぞく、
これはほとんど同じです。その途中の細かい作業にいろいろと違いがあるわけです。
<苧麻>
苧麻は「からむし」「あおそ」と呼ばれます。
麻系ですから生育はよく、まっすぐに2m前後に育ちます。
これを刈り取り、葉を落として茎だけにしたものを何本かの束にしてすぐに水につけます。
乾燥を嫌いますので、水につけることで乾燥を防ぎ、柔らかくします。
これを引き上げて途中を折り、そこを手がかりに、茎の芯部分と皮部分にわけて、
二枚になるように皮を剥ぎ取ります。(バナナでいうと、ニ方向に皮をむく感じ)
これを「麻剥ぎ」「皮剥ぎ」と言います。
この外皮の部分の更に外側など余分をそぎ落とすのが「苧引き(おびき)」。
これは「苧引き盤・苧引き板、苧引き具」など、専用の台と板を使い、水でぬらしながら、
剥いだ皮部分の、外側の皮、中側の青い部分をこそぎ落とすわけです。
まぁ経験もない私がまことしやかに話しておりますが、
映像で見ても、これが「カンタンな作業でない」ことは一目で分かります。
まさに経験がモノをいう世界ですね。
さて、こそぎとって繊維だけになったものが「原麻(げんま)」、
苧麻の場合は「あおそ」とよばれるだけあってわずかーに緑色をしています。
これを束にして乾かします。
ここから糸にすることを「苧績み(おうみ)」と言います。
まず乾燥を避けるために湯や水に入れて湿らせながら、
原麻の一本をとって、指とツメを使って裂いていきます。
絹や綿から引く木綿と違って麻は茎の長さしかありませんから、
短い繊維を継いで長い糸にしていきます。
説明が難しいのですが、まず細い糸にして、糸の先を更に二本に裂きます。
次の糸も同じように二本に裂いて、これを組み合わせるようにして撚り合わせます。
これは私も詳細が分からないのですが、例えば経(たていと)と緯(よこいと)では、
別の継ぎ方をする…など、使い分けられているそうです。
以前NHKで、越後上布を織るための「苧績み」をみましたが、
先を割って組み合わせた糸を寄り合わせるとき、
片方のニ本のうち一本を、折り返す…という継ぎかたでした。
いずれにしても、元々つながっていないものをつなげるわけですから、
一本になったとき、つなぎ目がぼこぼこになりそうなものですが、
それがほとんど分からない…というのがすごいところです。
そうやってつないだ糸を「おぼけ」と呼ばれる小さい桶に、からまないよう、
らせんを描くようにして重ねて入れていきます。
わずか2メートルほどのものを根気よくついで行くわけですが、
なにしろ反物でもなんでも、たいへん長いですし、反物には幅というものがありますから、
例えば一本の反物を織るのに、経は800本とか1000本とかいるわけです。
そのため、一人の苧績みで反物一反分の糸を作り出すのは「月単位」の時間がかかります。
こうしてできた糸に、撚りをかけて「麻糸」の完成となります。
<大麻>
作り方は同じですが、最初の部分が少し違います。
大麻の場合は、枝葉を落として束にしたものを「熱湯」につけます。「麻煮」と言います。
これは、麻の場合は発酵させて糸をとるため、殺菌や虫などの駆除のためです。
これも以前映像で見ましたが、煮ると言っても時間としてはほんの数分です。
煮具合のタイミングもあります。数人がかりで次々と束を湯につけ、
一番いいところで引き上げては運ぶ…やはり熟練の技です。
煮あげたものは天日干しして、完全に乾燥した状態で保存され、
そのまま一ヶ月ほど寝かせたものを、発酵させます。
まず「麻舟(おぶね)」と言う専用の器を使い、一日二回水に浸し
そのままカバーをかける、これは昔は藁とか菰を使ったようです。
これで数日おくと発酵して粘性がでてくるそうで、ここから先は苧麻と同じ、
芯と外皮を分ける作業に入ります。麻糸は、こうしてやっぱり大変な手間と時間をかけて作られます。
素材のお話しは「絹、木綿、麻」で、終わりにしようと思います。
次回からは、糸から布へ…まだまだ先は長いです。
今回は、参考文献は様々な「古い雑誌」ということになります。
また、参考HPは以下の通り。
麻については、いろいろ体験記や専門家のページなど多くありますから、
ご興味がありましたら、一度ご覧ください。
*参考HP*
「和のこころ なごみ空間 きものポータルからくさ」の「越後上布」
「古代織りの部屋 ゆう」の「からむしの糸づくり」
トップ写真は手持ちの「原麻」、長さと色からいって
「苧麻」ではなく「大麻」のほうだと思います。
おまけ写真は、麻の小袋、お菓子が入っていましたが、
デジカメのバッテリーにちょうどいい大きさ。小さい刺繍は「鹿さん」です。
どれも糸にするまでに費やする時間は、
スイッチポンで何でも簡単に出来る今の
時代、年月を掛けて気長に・・・という
事がほとんど無くなりましたね。
それにしても、糸にして織物にするまでの
時間を想像するだけで気が遠くなります。
増して手織りの着物だったら、かつて普段着だったものだってすごいお値段で。
そういうブランド品がかつての献上品になるような絹織物と同じと考えると、もしかしたら着物に関しては昔も今も変わってないのかも。。。
もちろん量産品を安く買えるという点は大きく違いますけど。
そんなブランド品は一生に数枚で、あとは自分で縫ったり、安い古着を買ったり、、、、
自分は間違いなくかつての庶民のランクなんだなって思いました。
ほんとになんでもスイッチポンですね。
今実は「ポット」がちっと不調…。
いちいちヤカンでお湯を沸かすことがなくなってますから、
壊れたら困るなぁ…。
ほんとにゼータクになってますねぇ。
着る人が減って、安くしないと売れないから、
みんな海外へ製造拠点をうつしてしまい、
国内の職人さんの仕事がなくなって…。
職人さんが減ったので、いざ作ろうと
手間がかかったものは高くなっちゃったんです。
庶民ランクが化繊か古着…ってのは、
国内の職人をだいじにしなくなったツケなんですねぇ。
それにしても作家モノの何百万なんてのは、
どっちにしてもミンクのコートくらい、
遠い世界のことですね。