ほばーりんぐ・とと

ただの着物好きとんぼ、ウンチク・ズッコケ・着付けにコーデ、
あちこち飛んで勝手な思いを綴っています。

やーっと着物

2008-01-08 17:32:35 | 着物・古布
三が日にアップしようと書き始めていたのですが、
お休みいただいてまして…。
さぁ「着物記事」始動です、のんびりとぉ…ですが。

男物じゅばん、よごれやシミなどあって着用にはお手入れ必要です。
とーぜん「柄」で入手したわけですが、一応題名は「江戸八景 角田川 落雁」
「角田」は「墨田」ですね。○○何景、というのは浮世絵にはよくあります。
この「江戸八景」も広重なんが有名で、春信の場合はどちらかというと
「風流座敷八景」という春画のほうが有名ではないかと思うのですが、
もちろんご本人、ふつーの「江戸八景」も描いてます。
私、春信の江戸八景は、いえ、ほかの画家さんのもですが、全部は知りません。
ですからこういう絵がほんとにあるのかどうかはわかりません。
以前の記事でも書きましたが、着物の羽裏やジュバンに使われる浮世絵は、
原画があっても、バランスやその人の感性、あーんど「腕前」によって、
けっこうポイント以外、変えられる場合が往々にしてあります。
これもそうなのかなーと思いながら見ているのですが…
それとカオは全く春信さんではありません、当然ですが。
髪型の描き方は、春信さん独特の「せきれいづと」の髪型です。
色を少し濃い目に出してみました。着物の柄が「麻の葉」なのが見えますかしら。
ついでにシミもよく見えてますなぁ。
せきれいづとというのは、つと(関西では「たぼ」)が、
後ろにびょおーんと伸びて、反り返らせてある髪形、
こういうときは「鬢(びん・カオの両脇の髪)」がそんなに出ていません。
前結び帯だったり袖が短いなど、元禄の風俗が色濃いですね。
春信さんが1700年代、つまり享保の頃の人ですから、
そろそろこういうスタイルがノスタルジックになってきていたのでは、
と、これは勝手な想像です。


         


実物の浮世絵とあっているかどうかはともかくとして、
全体のデザインは、なかなか素敵だと思います。
この時代に女性が船釣りをしたものかどうかはわかりませんが、
昔の江戸は水運が発達していて、ヴェニスのように細かい水路がたくさんあり、
いまほど橋があちこちにかかっていたわけではありませんから、
今で言うところの水上タクシーの「猪牙(ちょき)」と呼ばれる小船が、
庶民の足として、よく使われていました。
当時の女性は水練、つまり水泳は、浜育ちでもないとできなくて当たり前、
でしたが、日常的に小さい船に乗るのは慣れていたでしょうから、
こんな風に船釣りを楽しむこともあったのでしょうね。
但し、素人の女性はお遊びでこういうことをする余裕はありませんでした。
遊女や裕福な女性のお遊びだったと思われます。

絵の外には「釣竿・浮き・釣り糸・たぶんエサ入れ」が写実的に描かれています。


     


これは「和竿」、今でも江戸の技として作られていますが、お高い…。
元々竹の産地、京都で作り始められたようですが、その後江戸に伝わり、
継ぎ竿といわれる、入れ子式にしまえる竿が広まりました。
ジサマが釣り好きでしたので、聞いたことがありますが、
泰地屋東作、というヒトがいわば江戸和竿の祖、とでも言うべき人で、
今でも「東作」の流れを汲むといいますか、たどっていくと東作、
という職人さんがたくさんいるそうです。

浮きで近代有名なのは「馬井助」、これは私も小さいころから
聞いてましたので知っていました。
初代は京都の床屋さん、「粋人」だったそうで仕事をしながら、
あくまで趣味で浮きを作っていたのだそうです。
二代目は手先の器用さを受け継いで、神棚作りの職人をやったりしたそうですが、
初代がなくなってから二代目を名乗り、その技を継ぎ更に磨きをかけて、
こちらは「本業」にしたのだそうです。
こちらは現代に近いお話しですから、昭和のヒトです。
ジサマもたしか馬井助の浮きはいくつか持っていますが、
どれも漆塗りに蒔絵とか、そりゃあもぉきれいなものです。
こんなの浮きに使って、もし流れちゃったらと心配になるくらい美しい塗りです。
今でもオークションなどに出てきますが、けっこうなお値段ですね。
久しぶりにジサマに見せてもらおうかな…。

最後は糸、さて、日本では釣り糸に何を使っていたと思いますか?
まぁ古くは麻やほかの繊維だったと思いますが、江戸時代以降は実はテグス。
テグスというと今は化繊糸を思い浮かべますが、
本物のテグスというのは「ヤママユガ」の幼虫の体内からから採取した、
いわば絹糸のしんせきです。江戸時代に四国の漁師が使っているのを、
大阪の商人が目をつけて世に広めた…というような話しだったと思います。
日本は海に囲まれていますから、漁業が盛んなのはアタリマエですが、
渓流釣り、川釣りが盛んになったのは、このテグスがあったからだそうです。

今、ナイロンの釣り糸で動物が大変な被害にあっていますね。
私がジサマやオットの釣りにつきあってあちこち行っていたのは、
もう20~30年以上も前のことですが、すでにあちこちで、
ほったらかされた釣り糸をたくさん見ました。
時には釣り針がついたままで捨てられているので、
ついでに拾って帰ろうとひょいとつかんでケガをしたこともあります。
自分が遊んだ後の始末もつけられないなんて、釣りする資格ないですね。

さて、最後に、このじゅばんの左肩から右肩が黒く染められているのは、
実は「橋」、左のそで下から脇腹にかけて「橋げた」が描かれています。


     


こういう大胆さ、好きですねえ。
右袖の方は、遠景で富士山や岸辺の松林、船などが…。


     


これを着ていた人は、釣りや舟遊びが趣味の粋人だったのでしょうか。
「鬼平」さんのように、着流しでふらりと竿なんぞ担いで、
釣りに出かけていたのかもしれませんねぇ。

結婚したころ、近くが江戸川でしたので、たまにつきあいましたが、
そこから引っ越して以来、釣りはやってません。
でも、あの魚が食いついたときの「ヒキ」は、いいもんです。
子供のころはジサマと磯釣りが多かったのですが、ちょっと高い岩場から、
後ろに竿を倒して、えいやっと投げる…三回に一回は、後ろの木を釣ったり
隣のジサマを釣ったりしては「もっと何にもないとこで投げろ」と…。
しまいに自分釣ってましたからねぇ…。釣師の素質アリマヘン。

最初に書きましたとおり、しみがあちこちにあります。
さて、これをきれいにして…なるかなぁ…
もう少し厚みがあれば道中着にでもしたいところですねぇ。

コメント (6)    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 松もとれますね。 | トップ | 着物・残念シリーズ? »
最新の画像もっと見る

6 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
Unknown (陽花)
2008-01-08 19:37:00
この浮世絵の素敵な柄が胴中着になったら
ほんとうにお洒落ですね~
シミが綺麗に取れるといいのにね。
それにしても、とんぼ様は何にでもお詳しいし
記憶力もいいですねぇ。
返信する
Unknown (zizi)
2008-01-08 21:45:38
遅ればせながら今年もよろしくお願いします。

早速素敵な羽裏。
よどみなくお話しが進んで ^^
橋の全体を描かないで 想像させる・・・粋です。

今年は物を増やさず、とんぼ様のように知識を増やしたいです。
返信する
おはようございます^^ (えみこ)
2008-01-09 07:06:51
春信さんは好きな絵師さんです。
オトナな女性が描かれる事がほとんどですが
春信さんは少女を描いている希有な方です。
猪牙船は速いのですが安定性に欠け、また吉原に通う殿方が
よく使う事から
吉原によく通う=猪牙ダコが尻にできる=遊び好きなオトコと比喩されて
ケンカの悪口なんかに使われます。
『尻に猪牙ダコもねぇくせに粋がるんじゃねぇ』とか^^
ね、千様。
ので、女性が立ち上がって釣りなんて不可能ですから
おそらく吉原遊女の張り見世にひっかけているのではと思います。
殿方の襦袢でもあることから、きっと粋な人が吉原で遊ぶときの
勝負下着であったのではないでしょうか。
前で結ぶ帯は遊女もしますから^^猪牙に乗って釣りの支度をして
行くのはどこへ?(笠で顔をかくせますから)
何を釣りに行くのか釣られるのやら…。


返信する
好調なようですね (ヒロをぢ)
2008-01-09 08:42:29
 どうやら順調に復帰されたようで、楽しませていただいてます。
 相変わらず着物のことは分かりませんが、柄のことから色々な話に飛びまくるとんぼ節、絶好調!
 日本の釣りは、江戸時代の初期に武士の道楽として始まったそうで、後期には女性の間でも広まったそうですが、初期~中期に女性が嗜むということは殆ど無かったようです。また、船釣りは普通水上にじっと浮かんだまま糸を垂れるので、足が速いことが重宝された猪牙船の上に立って釣りをするというのは難しかったでしょうね。絵はイメージで描かれたものなのでしょう。
 昔は結婚した後の旦那の変わりようを『釣った魚に餌をやらない』などと申しましたが、昨今は女房に頭の上がらない私のような亭主が半ば食わせていただくというのが定番のようです。自然のことを考えると『キャッチ・アンド・リリース』と行きたいところかもしれないのですが・・・。
返信する
Unknown (六十路独り言)
2008-01-09 10:14:42
素敵な襦袢。
江戸の情緒をまとめて味わうことが出来ますね。
このような日本人の美意識、廃れさせたくないと思います。
浮世絵の座っている女性のしどけない足下に惹かれるといったら、男みたいといわれそうですね。
夫は、釣りが好きです。
先日、テレビで釣りの番組を見ていたとき、昔の人はどんな釣り糸を使っていたのだろうかと話題になりました。
今日も出かけていますが、戻ったらてぐすの本体、教えてやりましょう。
天蚕糸,漢字で出たらうーん、なるほどです。
返信する
Unknown (とんぼ)
2008-01-09 15:20:16
陽花様
シミの数数えててあきらめました。
多いんですよぉ…。だから安かったですけどね。
何とかしたいと、前のめりになりそーです。


zizi様
昔って大胆ですよね。
今こういうのを探すのはたいへんです。
自分で描けたらなぁと思いますわぁ。


えみこ様
私の言葉がたりませんでしたね、
ほんとにすみません。
元々猪牙のような安定の悪い船では、
乗り降りと船頭以外はたっちゃだめ、
ついでに釣りも小船ではたつと危険なのと、
魚がヒトの影で気づきますから、
たって釣るのはヘボなんですよ。
これはもちろん「絵」として美しいように描いた物、
女性も釣りをしたかどうかということは、
当時の貧富の差からいって、花見だ雪見だと
遊べる余裕のある家の女性がやっていたかどうか
っていうことのつもりでした。
それと、前帯は遊女は時代が進んでも
していましたから、このヒトが遊女かどうかではなく
全体の風俗から、元禄末期のころを好んで
描いている…という意味だったんです。
春信さんは、いつもこういう髪型や着付けで、
華奢な女性を描きますよね。手や足も細くって。

わかりにくい書き方で、ほんとにすみませんでした。


ヒロをぢ様
えみこ様へのお返事にも書きましたが、
ひとつの遊びとして、爛熟した空気の中で
女もたしなんだかな、という意味なんです。
「キッャチアンドリリース」ですか、はっはっは。
我が家なんぞは、えさ喰ってやるからもっといで!
いえいえ、釣ったからもーやらないといわれても
もっとおいしいエサを、
ひそかにためこんでおりますがな。へへへ。


六十路独り言様
ほんとに江戸情緒って、いいですね。
太平楽であったればこそなんでしょうが
文化というものが育つ形というものを
目の当たりにする気がします。
釣り糸、私もナイロン製しか
使ったことないんですが、今でもホンモノ
売ってるそうです。
それにしても絹ってのはすごいものですね。
返信する

コメントを投稿

着物・古布」カテゴリの最新記事