「本」の柄は「冊子柄」、または「読本柄」などと呼ばれます。
「冊子」の方は、本が開いた状態のデザインで、中のページはだいたい花で埋まっていたり、
季節の情景だったりして、本といってもそのカタチがモチーフとして使われるもので「絵」がメインです。
「読本」となると、中にホントに字が書かれているもの、が多いです。
だいたいは「謡」とか「芝居の物語」などが多いのですが、こちらは…
「万代節用字林寶蔵」・・・「節用」というのは「漢字の読み方」ですから、用語辞典ってことですが、
ちょっと調べましたら、室町のころにできたとか。その後、ひらがなで引くとか漢字で引くとか
いろいろ考え出されて、その中のひとつが、現代の国語辞典につながるのだそうです。
こちらは下のグレーっぽい表紙の方は「百人一首」の手引書のようなものでしょうか。
開かれているほうは、あまりにも字がウマすぎて、ナニがかいてあるのかサーッパリわかりません。
上の枠の中に「九十五代後醍醐天皇」など、天皇の名前と、皇位に何年…というようなことが
書いてあります。皇族に関する資料みたいなものでしょうか。
私はリアルな絵が好きなので、こんな風に、いかにも古い本がポンと置かれているようなのには
ググッと惹かれてしまうのです。本の傷み具合や、めくりグセなど、細かいでしょう。
ぼろぼろっとしているところもリアルですよね。
ではここで「本」のお話…
本ができるにはまず「字」…字は元々「口伝」が頼りない(間違いが起きる)ために、それを残し伝えるのに、
まずは記号のようなものから始まり、たとえば硬いものに線や形を刻んで意味を表すとか、
縄や紐を、決まった法則で結ぶことで意味を表すとか…そういう中から「字」というものが生まれたわけです。
象形文字などの始まりです。やがてその「字数」が増えてきて、それを書き残すためのものを
いろいろ考え出したわけです。たとえば石、木や竹、亀の甲羅、大きな貝殻や骨…かたっぱしからですね。
その中で「木の皮」「動物の皮」が、やわらかく書きやすいとなってきたわけです。
紙の元といわれているのは有名なエジプトのパピルスですが、あれは葦の茎を重ねて乾かしたもので
日本の和紙のように、繊維を砕いて「漉いて」いません。長いまま縦横に重ねて乾かしたものです。
だから破れやすかったんですね。それでもすごい発明だとおもいますが。
羊皮紙は、技術が進むと薄く丈夫なものができましたが、作るのと量産がむずかしかったわけです。
太鼓の皮の薄いのって言ったら感じはわかりますよね。海賊の地図なんてのも、この羊皮紙だったんでしょうね。
植物の繊維を漉いて作った紙の最初は中国といわれています。
昔の中国の「紙がわり」は、竹や木を薄く切ったもの、つまり書簡と呼ばれるもの。
日本でも木簡などが残されていますが、中国でも日本でも、材料には困らないものの「かさばる」ものでした。
そこで竹や木に代わるものとして開発されたのが、木の繊維を漉いて作る紙だったわけです。
日本にはまず紙が伝わり、やがて製法が伝わり、材料がたんとあった日本では、
良質の和紙が作られるようになっていったわけです。
どんな場合でも最初は「高級品」で、貴族やある程度の地位のある人のもの。
また一般人の識字率が低かったですから、本というより「絵巻物」や「曼荼羅」のような、
絵画を見せて話をする、という方がよく通じたわけです。
その後、漢字とひらがなによって、いろいろなお触れだのお達しだの、読める必要が出てきましたが、
それとても、たとえば集団を束ねる立場の人が読めれば、それを口伝で伝えるわけで、
日本での一般人の識字率はそれほど高くなく、それが格段に上がったのはやはり江戸時代です。
さて「字」が広まり、紙のおかげで、書いたものが手軽に持ち運べるようなものになってくるにしたがって、
「本」というものが生まれたわけです。元々はやはり「仏教」から入りましたから「経典」が始まり、
やがて、字が増えてきて、今の時代で言う「小説・物語」や「専門書」にあたるものなどが出てきました。
このあたりのお話は書くとながーくなりますので思いっきりはしょりますが、
印刷技術はまだありませんでしたから、本はとりあえず原本のみ、あとはひたすら書き写す…でした。
源氏物語も、女房たちが手習いもかねて書き写すことで広まりました。
また「お話の本」自体は、大人向けから子供向けまでさまざまあったのですが、読む人が限られますね。
広まったということでいうなら、やはり江戸時代。まず「絵草紙」、「草双紙」といわれるもので、
始まりは子供向けの絵本。あのかちかち山とか桃太郎とか。
これは今の絵本にあたるもので、表紙が赤かったので「赤本・赤表紙」と呼ばれました。
そののち「青本、黒本」と呼ばれるいわゆる大人向けの、絵もあるけど字も多い物語が人気となりました。
いわゆる「貸本や」という商売もあり、草紙を持って家々を回りました。
「読み本」だけでなく、専門書や辞典、生活便利帳なんてタイプの本もいろいろ出まして、
それぞれにそれを必要とする人たちに重宝がられました。
過去に出した「読み本」の柄としては、一番のお気に入りはこちら。
お化粧、髪型の本らしいです。
そしてこちらは昔の紳士録「文化武鑑」
外からはまず見えないじゅばんに、こんな柄、この心意気がいいですねぇ。
今日ご紹介のものは、平絹がもううすーくなってしまって、下のほうは擦り切れています。
更には、肩の部分だけ違うものがついています。それがこちらは能面と「冊子」…。
せめて本柄で揃えたアタリ、心憎いですね。
袖は、また全く違う、しぼざらざらのちりめんです。お気に入りのものばかり、つなぎ合わせて作ったのでしょう。
こういうエコは粋ですねぇ。
またしてもこういうものが出てくると手が止まる…で、結局たいして片付けの進まないうちに、
夏のように暑かった一日はおわってしまいましたとさ…です。
必要になると、色んな知恵を出して創意
工夫出来るんですからスゴイですよね。
字も紙も先人の知恵があって今があるの
ですから・・・
何度も読んで、くたびれた感じがよく
分かる絵ですね。
冊子柄は活字中毒としては一枚(一本)は欲しいと思い続けてン十年。
見かけるものは書かれているように花をあしらった物が多いんですよねぇ。
精々、邦楽の歌本くらい。
こんなにリアルで素晴らしい冊子柄は見たことがありませんでした。
デザイン的にもとても優れていて、昔日本人の感覚の凄さに感嘆しました。
いつも良い物を見せていただき、本当にありがとうございます。
荒俣宏さんのインタビューで、こういった古書を愛でるひとを
愛書家(ビブリオファイル)として、
もともと階級の高いお貴族様向けに
贅をこらして競った造本=書き写しとかで、職人さんがそれで死んでも報酬さえでないサドな作業だったそうで(^▽^;)
これだけくたびれた御本となると、読本(貸本)だったのかなぁ。
贅をこらしたのと別のドラマを感じます。●売新聞のCMで
江戸時代の瓦版を老若男女子守りの女中さんまで読んでいる
場面があって、識字率の高さを思いました。紙も生地も大事にされた時代
むかしの方の方が色々な意味で洗練されていたし集中力もあった気がします。
次から次へとめずらしいものを、ありがとうございます。
ほんとに、人間は、たくさんのものを作り出してきたんですねぇ。
今は、新しいものといっても「便利」が優先で、ただもうスイッチポンばかりです。
そうではなくて、手間を掛けるもの、も残していって欲しいと思うんですけどねぇ。
この本、もし実物だったら、手にしただけで、綴じ糸がプツッと切れそうですね。
このテの「冊子・読本」は、男物じゅばんに多いですね。
こういうリアルなのを見るとワクワクします。
使い込まれてぼろった本までも、こんなにすごい柄にしてしまう…。
日本人の完成ってすごいですよね。
辞書系の本ですから、手垢がつくほど使ったのでしょうねぇ。
昔の人って、恵まれない分、いい意味での欲があったのではないかとそんなことを思います。
字が読めるようになりたいとか、いろんなことを知りたいとか…。
だまってても教育も受けられ、モノがあふれる現代は
「求める心」が、育ちにくいのかもしれませんね。