ほばーりんぐ・とと

ただの着物好きとんぼ、ウンチク・ズッコケ・着付けにコーデ、
あちこち飛んで勝手な思いを綴っています。

新聞の勧誘じゃありませんからー

2005-12-03 00:29:01 | 着物・古布

昨日のブログでお話しした「ちょっと珍しい柄のモスリン」です。
ご覧のように「朝日新聞」の見出しの柄。下に「号外」という(旧字で)
文字も見えます。右から左へ読む、昔の書き方です。
相当古いもので、傷みも激しくツギアテもあったり、それも承知の上で
「参考資料用」として落札しました。届いてみたものの、なんなんでしょ・・。
形は「半てん?」「ひっぱり(女性が普段家事仕事に着る上っ張り)?」
2枚目の画像が、胸元を映したものです。



よく見ると「朝日新聞」のあとに「熱河大討伐・・」の文字、
他の部分も、日章旗を持って突き進む陸軍の絵とか飛行機とか・・。
この下の写真です。



とりあえず古い戦争のこと・・とは見当がついたのですが、
新聞の柄にも日付は入ってないし、明治以降の近代史は、
私のもっとも苦手なところ・・・。
で、最後の手段で「朝日新聞」に問い合わせました。
まず「こういうものを手に入れた」ということを書き、
柄にある「熱河大討伐」というのは本当にあった記事か、
あったとすればいつごろのことか・・というようなことを書いてメールしました。
しばらくして、たいへん丁寧なお返事を頂きました。
以下、そのお返事から得た知識です。

まず、これは「半てん」であること、作られたのは恐らく昭和8年だと
思われること。その理由として、

1 「熱河大討伐・・」という記事は実際にある記事で、
  昭和8年1月に中国の遼寧省で、関東軍が実施した作戦であること。
2 飛行機は「戦闘機」ではなく新聞社機で、朝日新聞が
  昭和7年10月に購入し、昭和17年まで使用したこと。
  写真の「JBAYA」という名前と絵から判明。

ということでした。私は「戦闘機」だと思っていたのですが
ジャイロプレーンという飛行機だそうです。
メールのあと、わざわざ飛行機の写真を送ってくださいました。
昭和7年とか8年とかですと、要するに「満州事変から日中戦争」という
そのあたりだと思います。これで図柄の意味や半てんであることはわかりました。
でも、いくらなんでもこういう柄を(モスだからと言って??)
普通に作るものだろうか・・と思っていたのです。
それに半てんと言われましたが、形は作務衣の上着スタイルですから・・。
で、これも説明があり、疑問は氷解しました。

当時、新聞は一番のメディアだったんですね。それで何かあると各新聞社は
号外合戦を遣り合っていたのだそうです。戦意高揚の意味もあったでしょう・・
とのことでした。この号外合戦のため、売り子はそれぞれの会社で作られた
半てんやハッピを着て、町中で号外販売合戦をした・・というわけ。
言ってみれば、外部販売部門の「ユニフォーム」ということですね。
これは、その中の一枚ということになります。
朝日新聞には、この半てんの写真をお送りしたところ、
先方の資料室にも現物は残っておらず、珍しいものを見せてもらって・・と
お礼のメールをいただきました。

この半てんの生まれた理由がわかってみれば、袖付け部分とか、
衿の押さえなどの作りがザツなのも理解できます。
要するに「社」の名前と「号外売り」だということがわかればよかったわけで
身体にひっかかればよかったのですね。
誰がどういう理由で残したのかはわかりませんが、
こののち、日本は大きな戦争へと、進んでいきます。
モノのない時代を迎え、この半てんは宣伝の道具ではなく、
本来の防寒具として役に立ったのかもしれません。

古い着物が届くと、いつも疲れたように身を横たえて・・と感じます。
でも表情というものがあるとすればなぜかみな「穏やか」のように思います。
この半てんも、激動の時を、誰かの体を包んで生き抜き、
そののちどんな年月を過ごしたのか。
ほんのちょっぴりだけどキミのこと、わかったよ、お疲れさん・・。
どこかの蔵の中で、衣装箱の中で、長く眠っていたのを
誰かに起こされて、はるばる私のところまで最後の旅をしてきました。
「大丈夫、カンタンに捨てたりしないから、ゆっくりおやすみ」と
防虫剤と一緒に保管しています。

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4 コメント

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何時もの事ながら (着物好き)
2005-12-03 07:23:05
居ながらにして色々教えて頂く事の多かりき****(すぐ右から左ですみませんが)奥深く広がりのあるうん蓄に感心するばかり。毎日楽しいお勉強させてもらっています。好きなものがどんどん増えるのも大変ですよね。お蔭様でとても毎日癒されています。ご時世というのは後になると、おもしろい足跡をのこすものですね~。
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ありがとうごさいます (とんぼ)
2005-12-03 10:50:02
雑学の寄せ集めを喜んでいただいて、

本当にありがとうございます。



「好きなものがどんどん増える・・」

そーーなんですーーっ!!

グスッ・・しまうところがない・・。

ほんとはどんどん作品を作っていけばいいんですが、

あんまり珍しいものだと、切ってしまうのが惜しくて

溜め込んでます。シゴトになりませんで・・。

「作品です」ってアップしたいんですけど、

ムズカシイ・・・。

返信する
古きよき物 (京都のT子)
2005-12-03 20:33:44
とんぼ様始めまして、深大寺さんとこから、来ました、あそこへは、時々、書き込みさしてもうてます。

着物かて、昔は粋なおしゃれな物がぎょうさんおしたなぁそりゃ、今みたいに、たまに着るのやのうて、毎日、着てはりましたさかい・・・・。

私もつい最近、ブログやり始めましたんやわ、なんせ、この年?やし、なかなかどすわ

主に西陣のおしゃれな帯や着物を取り上げてます、良かったら、又、お越しやっとくりゃす。

鎧、兜の、お話もありましたが、兜に「とんぼ」を付けてはったん、どの武将やったか?思い出せません、縁起のいい必勝のマークらしおすえ、それに鎧の柄の帯はほんま、たんと、おすえ、又それも、取り上げますわなぁ

返信する
実は隠れファンですー! (とんぼ)
2005-12-03 21:34:09
京都のT子様

はじめまして、あっえっと・・「ようおこしやして」

でよかったでしたっけ?

以前深大寺様の掲示板から、おじゃまさせて

いただきました。以来「隠れファン」です。

私は母が京都のイナカの生まれなので、京は

私にとっては第2のふるさと・・と思っています。

ちょっと自由な時間が作りづらい暮らしですが、

年に2回くらい「こーぼさん」か「てんさん」に

行くのが楽しみなんです。

ちょっとしたお店でも、関東にはない「粋」なもの

たくさんありますし。

私の方もおじゃまさせていただきます。

よろしくお願いします。

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