縮緬の単の着物です。大きく写真とれなくてすみません。前身頃の部分です。
紫の縞模様に「虫籠」を配し、その籠の中を秋の花で埋めています。
籠の周りには露芝を飛ばし、いかにも涼しげ・・。
わずかなヨゴレが一箇所ありますが、見えないところですし、
穴アキ、色あせなど、保存が悪いなどの難はなく、状態良好、
着用もアンティーク好きならOKです。
で「タイトル」の「難アリ」ということなのですが・・・。
実は、この着物、よく見るとけっこう「ありゃりゃ」があるんです。
こんなふうに・・・
上の写真は、縞模様のところ、染めそこねてますね。
右上の薄紫の点々みたいなかすれは、染料が乾かないうちにすっちゃったもの。
下の写真は、薄紫(虫籠の足の部分です)の色が外にこすれ出ちゃってます。
ほんとのヨゴレはこちら、どうも油系のヨゴレのようです。
この着物には、ほんとの汚れはちょっとだけなんですが、写真のような
染めの不完全なところ、乾かないうちにこすったところ、
色流れなど、探すとけっこうあるんです。
それでもちゃんと仕立てられ、着られているわけです。
今、私たちは、たとえばモノを買うときに「完品」を求めます。
まして着物なら尚のこと、ちょっと染ムラがあったりしたら、
買わないと思います。また、売るほうも「検品」でチェックして、
そういうものはお店にださないだろうし、あったとしたら、
まとめておいてバーゲンなどで「難あり」商品として、格安で売るなど、
正規の商品としては扱わないと思います。
でも、昔はどうだったのでしょう。そのころの暮らしを知りませんので、
あくまで、今残っているものからの推測ですが、
実はこういった「難アリ」の着物、けっこうみかけます。
なかなかのものなのに、あちこちに染めのズレがあったり、染めキズがあったり。
思うに、今は「着物イコール高級品」というイメージがありますが、
着物だけで暮らしていた頃、また、ほとんど着物だった頃は、
売り物も「ピンキリ」を一緒においてあったのではないでしょうか。
よく「家紬」、と呼ばれるものがオークションででることがあります。
かつては、養蚕農家が、お上に納められないくず繭をとっておいて、
自家用に使ったものをいいますが、後年はそういった規格外の繭で作った
安いものを言うようになったと思われます。そういうものは「染め紬」として
さまざま利用されましたが、元々が言ってみれば「難アリ品」ですから、
染めも丁寧ではなく、一様に染めのズレがあったり、染色液がこぼれて
シミになっていたり、模様の色が輪郭からはみ出していたり・・と
かなり荒いシゴトのものが多いです。
この着物は当然、家紬ではありませんが、同じ「正絹の染めの反物」として、
完品ではないものとして売られていたのではないでしょうか。
元々、呉服屋と言うのは着物を売る店ではなく「反物」を売る店でした。
仕立てるかどうかはお客による・・・昔はダレもが自分で縫いましたから。
お金に余裕のある人は、呉服屋さんでそのまま仕立ても頼むとか、
或いは知り合いの仕立て屋(昔はお針上手な人は内職にしていました)に
頼むなどして仕立ててもらう。でも、一般庶民は自分で縫ったわけです。
全般的に、今ほど暮らしの水準が高くなかった昔は、
反物を売るにしても、いいものも、少しキズのあるものも、
同じ店頭に出していたのではないでしょうか。当然「こちらはお安いですよ」
というわけです。自分で縫えれば反物を広げてみて
「ここなら繰越の中に縫いこめる」とか「袖つけの中に隠せる」とか・・。
そういった工夫のつくものなら、それでもよかったわけですから、
お買い得なそういうものを選んでも問題なかったと思います。
この着物も、いろいろ「難」アリとかきましたけれど、
これだけの濃い縞柄で、しかも大きくてやたら華やかな柄が飛んでいる・・
きちゃえば目立たない・・だったのではないでしょうか。
実際「難あります」と明記されていましたが、届いてひろげても「どこに?」と
最初はわかりませんでした。また、ちゃんとムラ部分を袖の内側の下のほうなど、
めだたないところに配するなど工夫してあります。
私が子供の頃は、まだ「大型スーパー」なんてありませんでした。
肉は肉やさん、魚は魚屋さん・・そういう中で、洋品店と呉服屋さんがあり、
その呉服屋さんもシャレた店構えで「いいもの」を売っている呉服屋さんと
店の前に綿入れ半てんや引っ張りなどを、ハンガーにかけているような、
庶民的な呉服屋さんがありました。そういうお店では、奥に入ると、
ウールや木綿の反物が沢山置いてあり、また絹物もありましたが、
だいたい「赤札」がついて、とても格安でした。
洋装主流になってさえそうだったのですから、もっと昔は、
そんなふうに「お安いもの」をたくさん置く店もあり、
そういうところでは、今なら「検品」ではずされるようなものでも、
価格の安いものとして、も売られていたのではないかと思います。
全部推測なのですが・・・。
ともあれ、昔の人は、こういう着物もちゃんと着物として扱っています。
少しシミがついたから、汚れたから、もう着ない・・と言うのはもったいない。
そんなふうに思います。
では、みごとに汚れちゃってる着物の解きを・・・。
これはとぉ~っても華やかな訪問着、前身頃の部分です。
綺麗に見えるでしょう?
こちらが後ろ身頃、背中の部分です。背中・後ろでこのたっぷりの柄です。
綺麗に見えるのですが、実は白いところ、ほとんどがこの下のようなシミです。
上の写真、右側の濃いピンクが背縫いから左へ「遠征」してるところの少し上、
花がかたまっているあたりに、なんとなく薄茶っぽく見えているモヤモヤが、
ぜーーんぶシミ・ヨゴレです。あ~~~もったいなぁ~~。
これは保存がちゃんとされていなかったゆえのシミですね。
条件の悪いところにしまわれっぱなしだったのでしょう。
ホシがとんでないのが救いです。
着物としては「汚い」ものでした。だからお値段も超格安・・。
こうなるともうカットするよりありませんから、
きれいなところを切り取って、バッグでもクッションでも袱紗でも・・
もう一度おしごとしてもらえるようにしたいと思っています。
とまぁこんなところで・・あなたはちょっとした「難点」
どこまで許容できるでしょうか。ちょっとだけだったら、
すぐにダメって言わないで、よぉ~く見てあげてください。
人間と同じで、ちょっとペケなとこがあっても、
いいトコもいっぱいあるもんですから。
「難アリ」は「福アリ」だと思ってまーす。
この単は、ちょっと細身です。この数十年で、日本人の体格よくなっちゃいましたからねぇ。私なんてちびですが、男物の羽織でピッタリなんてのありますね。
いずれいろいろな着物、寸法つき、全身写真?でギャラリーのほうにだしますね。
私は「少々難あり」大好き派です。洋服でもアパレルメーカーのファミリーセールなどに行くと、検品ではじかれるけど、ちゃんと着て歩ける服が格安で売っております。たまに「どこがちがうの?」と思うくらい状態もよく、ちゃんと売っているものの3割くらいのお値段で買えたりして超お得気分になります。
単の縮緬も私の許容範囲に見えます。実物をみないとなんとも言えませんが、好みの色と柄なので欲しいです。でもサイズが問題かもしれないですね(泣)。
商店街そのものがかわってしまったところ、たくさんありますものね。それにしても、いいものを手に入れられて、よかったですね。亀甲柄のズレ・・機械に毒された?現代人の思い込み・・ですね。実際、染めのはみ出し・・なんてのも手でやっているからなんですよね。まったくミスのないものがいいものだ・・と思ってしまう、現代の落とし穴ってとこでしょうか。
陽花様
ほんとに白ってすぐ汚れるし、目立つし・・もったいないです。着るつもりなら、それこそ「染め替え」でしょうね、これ・・。
百福様
以前黒の花嫁振袖に一箇所シミがあって、プロに落ちるかどうかきいたところ先に「いくらまでだせますか?」って聞かれたんです。それにあわせて落とすから・・って。全部綺麗に落とすことはできないけれど、わからないくらいまで薄くできる、ただし10万越えます・・って。シミひとつに10万・・。でもそういうものなんだと知りました。この着物のシミ、白いところは全部ですから、全部落としたら、きっと訪問着が一枚買えますね。ほんとーに、もったいないです。
穴熊の女房様
古着とハギレに埋もれるシアワセは、ホコリっぽいシアワセでもありますが(笑)元気のいい布、穏やかな布、おきゃんな布、粋な布・・ほんとに個性があって面白いです。HPでは、少しですがハギレも売りますので、よろしかったら覗いてください。(はよHPつくらな・・)
うまこ様
ほんとにいいところにお住まいですね。私の住む町では、30年くらい前に大きなスーパーができて、何軒ものお店が店じまいしてしまいました。その中には「呉服屋さん」もありました。今、その大手スーパーが四苦八苦してます。皮肉なもんですね。
皆様の完全主義のおかげさまで格安着物ライフを満喫できるというわけです。
本当にありがたいことです。
もっともこういう品は生ものと同じで、
行けばのぞみの物があるという訳ではないのですが。
ダン之旦那の言われる洋品店になりかかっている太物屋さんも、
靴屋さんになりかかっている下駄屋さんもここにはありますよ。
その着物に 語りかけて 行き先を決めてあげる。
着物にとってもうれしい時間。
私処分の 端くれでも 欲しい気持ち。
古着へのウンチク 楽しみに 見ています。
仕立ててしまえばまったくわからないような、あるいは、人によっては気にならない程度の織り難や染め難があるものが、納められないと、小物になったりするのはとても惜しいことですね。できれば着てあげたいです。
豪華で美しい着物だったのでしょうね。
ほんと~に、もったいない!
でも薄い色はどうしても汚れが目立ち
ますよね。
先日、古着で大島のアンサンブルを買ったのです。亀甲目が若干ズレているのが気に入らないと、某着付けの先生に申し上げたら「それは手織りである証拠でしょ!」と諭されました。そうか、機械織だから完璧に亀甲目が揃った安い大島(大島もどき)があるのかと感じた次第。