ほばーりんぐ・とと

ただの着物好きとんぼ、ウンチク・ズッコケ・着付けにコーデ、
あちこち飛んで勝手な思いを綴っています。

着物を知るということ…

2006-11-26 18:33:11 | 着物・古布

写真の反物は、左の二点は「古着を解いたもの」右は「染め見本」です。
説明は後半で…。

突然ですが、最近、よそのブログにお邪魔して、
「悪徳呉服展示商法」のことを目にしまして…。
「呉服の展示会商法」「老人向けの催眠商法」「若い人向けのデート商法」
ほんとに人間というものは、欲の皮が突っ張るとロクでもないことを
考えつくものです。消費者は「賢く」ならなきゃいけません。
呉服に関していうならば、悪徳でない展示会だって、いっぱいあるわけです。
本来そちらの方が多い…ローンだって無理なく払える、それなのに
「なんでこんなの買っちゃったんだろ」とか「買ったけど結局着ない」とか、
それは、着物を知らないからっていうことも理由のひとつにあると思うのです。
親切なところなら、ちゃんと「今何が必要か」「予算」「商品について」
こちらが話せば、聞いてくれて教えてくれます。

さて、着物を知るといっても、漠然としすぎてますね。
というわけで、一つ染めのお話を致しましょう。
最近はやりの「デジタル友禅」をご存知ですか?
ホンモノ志向の方には賛否両論ですが、大事なのは、
「デジタル友禅」というものが、どういう「染め」の位置づけなのか、
手描き友禅とか型染め友禅と比べてどこが違うのか、
なんで安価なのか…そういうことをきちんと知っていれば、
それをどう使うかは「買う側の自由」です。

たとえば、ポリの振袖を買ったとします。
よろこんで着ていったら「あら、これポリじゃない」と言われてしまった。
ポリだということも知らなくて、着物はみんな正絹だと思っていて…、
これじゃせっかくの着物もがっかりですね。
でも最初から「振袖なんて何回も着ない、振袖はポリにして、
その分お嫁入りの道具にお金かける、留袖や訪問着にいいもの買う」と
きちんと決めておけば、つまり目的があって、自分が納得していれば、
人に何を言われても気にすることはありません。説明だってできます。
それでもまだ「ポリなんて」という人がいたら、
その人が「他人の価値観を認められない」というだけのことです。

そういう意味で「デジタル友禅」だって、うまく使えばいいと思います。
知って使うのと知らずに使うのは「着物を着る」か「着物に着られるか」です。
着物は着るものです。相手をきちんと知って付き合うほうが楽しいのは
人との関係と同じだと、私は思っています。

さて、やっと写真のお話です。
一口に「染物」といってもいろいろあるわけですが、
手描き友禅はお分かりですね。型を使って同じ模様を繰り返すのは「型友禅」
次に染めること、板の上に反物を広げて染めていくもの、これはしごき染め。
板の上ではなく、ピンと張って宙ぶらりん状態で染める場合は
引き染めといいます。他にもどぼんと浸ける染め方もあります。

上に戻るのは見づらいので、もう一度出します。





写真の一番左、これが「引き染め」です。
紋綸子で地紋は大きな洋花、その花の紋織り部分をおこして柄に染めています。
その隣が「家紬」と呼ばれるもの、これは昔は実際に養蚕農家が
自家用にとっておいたくず繭を織って染めたものですが、
後年はおそらく「低品質の繭」を使って作ったものを
安価で販売したものもあるのではないかと思います。
「自家用程度のお買い得品」ですね。型を使った多色刷りです。
どんな紬かといいますと…けっこうな織ムラもあり、
紬糸の飛びだしや節の飛びだしなども…。





それでもちゃんと型紙を使って染めてある証拠?写真です。
お安い分、染めもちょっと雑っぽく「ズレ」があります。(枝のところ)
この手の「染め紬」には、こういうズレとか染料が飛んじゃって汚れてる
なんていうのもあります。それでも柄がよければ、十分着られるわけで…。





次は見比べていただきましょう、表と裏、の違いです。







おわかりでしょうか、まず一枚目の「綸子」は、裏表がほとんど同じです。
二枚目の染め紬は、裏に色が出ていません。透けてみえているだけ。
そして三枚目は、もうほとんど真っ白です。
これは「染め方」の違いによるものです。
裏表の差のないもの、これが引き染め、模様を糊で伏せた上から地染めをします。
以前写真を載せた「伸子張り状態」で、地を染めていきます。
二枚目は「しごき染め」で染めたもの。板の上に乗せた状態で染めます。
これは糊に染料を混ぜたものを使います。色糊といいます。
これの特徴は「表側しか染まらない」ということです。
そして三枚目は「機械染め」です。

模様のあるものを染めるには、まず一つは絵を描いて(染めて)、
他の色が入らないように模様を糊で隠して、模様以外のところを染める。
同じ模様を続ける「型紙」を使う型友禅は、色の枚数分の型紙がいる、
染め方は糊で抑えて…で、手描きを染めるのと大差ありません。
要するに、染まらないように糊で隠しては次の色…です。
これは、機械でも同じで型紙をいくつか使って、あとの作業は機械…です。
もうひとつはプリント、つまり私たちがPCからプリントアウトするのと同じ、
機械が「ここは何色、ここは何色」と判断してその場所にその色をおいていく。
インクジェットプリント、Tシャツに写真をプリントするとか、
デジタル友禅はそういう種類、つまり一度に多色をポンと写し取る友禅です。

上の二枚目と三枚目、染めがずれていようが安物の紬だろうが、
実は最後の染め紬の見本より、真ん中の方が手がかかっているわけです。
今は機械技術の発達で、浴衣地など機械の方がより細かくきれいに染められる
なんて事実もあるんです。それでも「人の手」によって作られたものは、
やっぱりそれなりのよさがあり、通常の小紋などは当然手染めの方が上です。

私は機械染めでもデジタル友禅でも、それを使う側がきちんと認識して
目的に合わせて利用することは別にかまわないと思います。
私は長く着物がそばにありましたから、そういう立場として
人の手によって、気の遠くなるほどの工程を経たものと、
機械を使って自分は手に染色液をつけることなく仕上がるものの違いは、
その布の「キャリア」だと思っています。
人間と同じで、若いものは積み重ねが少ない、それはしかたありません。
年をとれば単純に「年の功」、積み重ねがあります。
だからといって「若い人」はダメというわけでもありません。
若い人には若い人のよさ、熟年には熟年のよさがあります。
大事なことは「それがなんなのか」「満ちているところ欠けているところ」、
それを見極めることだと思います。

反物を手にしたとき、それをどういう目的で何のために買うのか、
そのときに何も知らないよりは、少しでも知っていれば、
より目的にあったものを的確に選べると思うのです。
最近の反物は、外国で染められたり刺繍されたり、あるいはプリント…
というようなものが多いのです。
実際、国産繭で、国内の専門家が、自然染料で染めて、機織りで織って
と言うようなものは、とてつもなくお高くなります。
そうなってしまったのは、まずは需要が減ってしまったこと、
そのために安く作れば売れるだろうと、安易に外国の労働力を求めて
国内の職人や技術をないがしろにした「呉服業界」の過ちです。
もちろん、洋風文化にあっというまに染まって、日本の服飾文化に、
きちんと眼を向けなかった私たちも、一枚かんでいるわけです。
誰も「着物なんかどうでもいい」…と思っていたわけではないのに、
いつのまにか、こういう状況になってしまいました。
だからこそ、着物をちゃんと知って、大切にしていかなければ…と思うのです。
ちょっと気負いすぎですかね。


11時より前にお読みになったかた、すみません「勘違い記述」がありました。
幸い、くるりん様のご指摘で気がつき、記憶違いを確認いたしました。
「引き染めとしごき染め」の部分です。訂正いたしました。
くるりん様、ありがとうございました。

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10 コメント

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Unknown (陽花)
2006-11-26 19:44:16
先生!今日の授業は大変勉強になりました。
着付け教室でも、なかなかここまで教えて
くれないと思います。
引き染め、しごき染め、機械染め、メモしときます。
返信する
Unknown (くるりん。)
2006-11-26 22:01:06
とんぼ様。お邪魔させてもらいました。
しごき=糊で板で染め、引き染め=生地を吊り、引き染め用の刷毛で染めていく手法です。もしかしたら逆では??って気になったので・・・
色々と写真を目を通させていただきました。
昔の職人さんの技術力の高さがよくわかります。
素晴らしい味のある染めですね。
おっしゃるとおり、生地にしても高価なものは売れません。まして、それに手間を加えるとすごい高価になります。職人が手を掛ければ高くなるから売れない。
手のかからないものが多く作られています。
職人のレベルも年月と共に下がっています。
需要が減り、きっちり伝承されてないのかもしれません。今残ってる職人がそんな状況ですから、私なんて更に低いレベルで止まってしまうんではないかとさえ思います。
型染めの職人だけでなく、引き染めの職人などすべてに言えることでしょう。大手呉服屋、問屋だけが私腹を肥していたツケでしょうね。
しかし、枝部分のズレ・・・目が痛いです(笑)
全体的に同じようにずれていたら、型が古くて合わなくなってるのかもしれません。ずれていたり破れた型を彫り直す場合1枚ではなく全てとなるんですよ。でないと合わないんですよね・・・
写真のは片割れが合っているので、ミスか怠慢ですね。
返信する
うーむ (ゆか)
2006-11-26 22:11:44
時間と手間をかけ、職人の矜持でものづくりをしていた頃と、経済効率の輪の中で、どのような方向性にせよ購買意欲をそそることを目的としたものを作るのとでは、おのずから物の品格が違ってくるというのは仕方のないことですね・・・
アンティークが時として圧倒的な魅力を放つのは、作る側・売る側・切る側の心意気が集約されているからかも知れません。

版ズレ、私にも別の意味で怖い言葉です(笑)
返信する
Unknown (とんぼ)
2006-11-26 22:44:04
陽花 様
あんまりアテにしませんように、
聞いた話、ばーちゃんの受け売りですし・・。

くるりん様
おぉ~ッ言われてハッと気がつきました。
全くの大ポカです。
さっそく修正させていただきます。
記憶していると思っていても
確認しなきゃしけませんね、
これが「現場で経験のないもの」の弱いところです。
すみませんでした。
家紬の古いものは「ここまでズレるか?」みたいな、
花一つ分ズレてたり(他はなぜかあってる)します。
すごい千両の飛び散りなんてのもあったり…。
この手はほとんど戦前モノですから
きっと型をあたらしいものに替えるとか、
そういう余裕もない時代だったのかもしれませんね。

これからもいろいろ勉強させてください。
最近のものほど、わかんないんです。
よろしくお願い致します。

ゆか様
順番に少しずつかわってくれば、
残るもの、あたらしいもの、とバランスはそれなりに
されていったのかもしれません。
一気に落ち込んだものをなんとかしようという
そういうものが空回りした部分も
あるかもしれませんね。

年中「ズレ」てる私は、このズレ柄に
「親近感」がわきますー!
返信する
Unknown (麻の葉)
2006-11-28 00:07:41
安く作れば売れるだろうと、安易に外国の労働力を求めて
国内の職人や技術をないがしろにした「呉服業界」の過ちです。・・・と言う言葉、まさしく同感です。

物をつくるって、長年の試行錯誤や経験、技術の習得や、その土地土地の素材など、さまざまなものが積み重なった上に成り立っているのですよね。
それを大切に守っていってほしいな、・・と最近とみに思うのです。

といいつつ、安い外国製品には大変助けられている私であります。う~ん、難しいわぁ~・・。
返信する
Unknown (とんぼ)
2006-11-28 02:21:17
麻の葉様
いろいろな技術で、すでに後継者がいなくて
「この人でオシマイ」というものがあるんですよ。
ホンモノがなくなっていくということなんです。
妙なたとえ話で申し訳ないんですが、
「絶滅種」の動物と同じで、消えてしまってから
惜しんでも遅いんですけどねぇ。
着物もたくさん需要があれば、高いものだけは国産、
安いのは外国産…ではなく、
国産でピンからキリまでそろえられる、という
普通の状態になるんですけどね。
今からそうしていくのは、難しいですね。
返信する
Unknown (百福万福)
2006-11-29 01:41:25
いい紋おこしですね♪こういう大柄のって、もうほとんどないんじゃないでしょうか。紋おこし自体、めっきりみなくなってしまいましたね。大好きなのに、すごく残念です。色無地に使うような紋織りはあっても、紋おこしのための紋織りって、ほんとに稀。

悪天候の日には、礼装や気の張る場合でなければポリを着ちゃいますから、ポリがあってよかったなと思います。昨今のポリ着物は、びっくりする位よくできてますよね。

インクジェットの染め、よくみるようになってきました。需要があるのならばビジネスとしては正しい商品戦略なのでしょうが。でも、手にとってみると、なんだか淋しくなってしまいました。どうか、インクジェットしかないなんて事には、なりませんように。



返信する
Unknown (くるりん。)
2006-11-29 01:43:50
こんばんは。またまたお邪魔させていただきます。
伝統工芸ってのは難しく、どの業界も高齢化が進み、後継者もなかなか育たないのが現状ですね。
仕事がキツイわりに給料は安い・・・
これでは若い人はすぐに辞めてしまいます。
本物を作りたくても、会社という枠に入っていれば「経営」ってのが最優先されます。
会社である以上は高価で売れないものを作っても意味がないんですよね。売れるもの、売りやすいもの=安価なものって感じです。客層にもよりますが・・・
外国産や機械で染めたものに対抗する手段なのかもしれませんが、より一層レベルの低下を招いているような気がします。
作り手からしたら、色がたくさん入ってる柄は手間が必要なだけで技術力は最低限でいいんですよ。
シンプルな柄は本当の技術力が必要です。
本物を作り、尚且つ安くたくさん販売できるってのが理想ですが、現状では不可能に近いでしょう。
直接販売で安価で提供できても、経営を持続できるだけのお客様を持つことがかなり難しいと思います。
メーカーの我々の出し値(下代)は決まってますが、問屋や小売屋の上代はバラバラです。嫌でも小さな会社はたくさんのお客様を持ってる大手に頼らざるを得ないのが現状です。下代を叩かれても頼らないといけません。叩かれると儲からない、コスト削減となり、手間がかからない物、安く提供できるもの、となってしまいます。もちろん大して儲からないから社員も潤わないし、給料も安く、若手は続かない・・・悪循環ですよね。この先お客様と直接取引をしてお互いが満足できる状態になり、着物が気兼ねなく着れる世の中になればいいなぁ~って思います。
返信する
Unknown (とんぼ)
2006-11-29 02:47:56
くるりん様
本当に、呉服業界、というよりは「現場」のかたはタイヘンだと思います。社交辞令ではなく、私の懇意にしている呉服屋さんが「職人さんを助けであげられない」となげいているのです。どこだけが悪い…というわけじゃなくて、全てのシステムが、昔とは大きくかわってしまったから…って。呉服屋としてもいいものは欲しい、でも高きゃ売れない、ちょっとずつムリを重ねるのは、お客様から遠いところにいる人たちだって。私一人があれこれ言っても「ごまめの歯軋り」ですが、せめてもっと着物を着て欲しい、知って欲しい、そんな思いでこのブログはじめたんです。時間がかかることではあるのですが。展示会に行くより、近所の呉服屋さんに行ったほうが、結局は「お得」なのだということが、いつの間にか忘れられちゃいましたから。
返信する
Unknown (とんぼ)
2006-12-09 11:27:31
百福万福様
すみません!コメントカウントがでなくて、見落としておりました。遅くなってごめんなさい。
紋おこしも家つむぎも、もう過去の遺物になりかけてます。あがいているだけかもしれませんが、残しておきたいと思います。
デジタル友禅のあの「いろんな意味でのカルさ」は、ある意味笑えます。うまくつかえばいいのですが、本当の「価値」を賢く判断せねば、業者の戦略に最初から負けちまいますね。「昔は型染めなんてやっかいなことやってたんだって」なんてことにならないようにと、祈るばかりです。
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