ほばーりんぐ・とと

ただの着物好きとんぼ、ウンチク・ズッコケ・着付けにコーデ、
あちこち飛んで勝手な思いを綴っています。

なぜこんなに暑いの・・

2006-07-14 20:08:59 | 着物・古布

35度・・38度・・なんなのこの気温・・・。
午後にはこちらでは申し訳程度に雨がパラパラ、雷も遠くでゴロゴロ。
もっとどーっと降ってしまえば、少しは涼しくなるのに・・。明日もだって。

せめて柄だけでも涼しく・・・波とかもめと潮汲桶、絽の留袖です。
状態はよく、ちょっと色あせっぽいところがありますが、
アンティークものと、すぐにわかりますから、そういう意味では「着用可」。
これはご予約済みのものです。

夏の留袖には、やはり涼しい柄として水流や船など水に関係のあるものとか、
花ならば涼しげな秋草など。また、季節に関係なく「鶴、松、扇子」など・・。
これは大きな波としぶき、蛇籠に桔梗の花と潮汲の桶、そして、かもめの群れ、
さて、この「潮汲」柄なのですが・・実は留袖には???の柄です。
潮汲は舞踊・能などにもあるんですが、なんたって「失恋」物語のうえ、
能では「幽霊」も登場するというお話です。

あらすじは・・・
むかしむかし、在原行平(稀代のぷれーぼーい、業平クンのにーちゃんです)が
須磨のイナカに流されました。(水難事故じゃありませんよ、流刑です)
そこで出会ったのが、村長の娘二人。ここで3人は恋仲になる・・。
なんと最初から納得づくの三角関係です。まぁ時代も時代、身分も身分、
あわよくば「貴人の側室」・・なぁんてことも目論んだかもしれないし、
父親の村長の「そろばん」もあったかもしれませんが、とにかく、
この「公認三角関係」は3年も続きました。ところがある日、
二人が留守の間に、行平クンは、烏帽子と衣を松の木にひっかけて、
「急に都に帰ることになった、会うと別れがつらくなるからこのまま行くね、
これをボクだと思って大事にして・・」と・・・勝手なこと言ってんじゃねー!
あっすみません、とまぁそういうわけで、行平クンは都へ帰ってしまいました。
後に残った二人は今更他家に嫁にも行けず、松のそばに庵を結び、彼をしのんで
さびしく暮らしましたとさ・・・という伝承なのですが、
これを後の世の世阿弥さんが「能」の「松風」という作品に作り変えました。
この松風では、二人は貧しい海女で、松のそばを通った旅の僧が、
潮汲をしている海女二人に一夜の宿を頼みます。
夜になって、僧が松の話を始めると、二人は「その振られた娘は私たち、
あのあとすぐに死んでしまったの、でも恋しくて寂しくて、成仏できないの」と
幽霊になって、別れのつらさ、今も燃える恋心を訴えます。
あまりの恋しさつらさに、姉の霊は狂ったように踊ります。
やがて夜があけると、二人の姿はなくただ松の古木と渡る風があるばかり・・。
という、とんでもなく哀しいお話し・・。これって結婚式に着てももいいのかな?
ま、ともあれ、とてもキレイなので柄のアップを・・。
上は「水鳥」の柄、下は「水車」の柄です。
下の図など、波がザバーッとかかっていて動きのある絵ですね。







この留袖の柄の珍しいところは、鳥の絵にもあります。
通常こういうものには鶴が2~3羽、とか真っ白な鷺・・という場合が
多いのですが、これは「かもめ」と思われます。
それも群れ飛んでます。こんなにいっぱい!





そして後ろ身頃は背縫い近くまで波しぶきが・・・。





この留袖、色は抑え気味ですが、柄としては大きくて派手です。
実際着てみると、柄の一番てっぺんは私だとおはしょりで一部隠れてしまいます。
かなり豪華ですね。こうなると「潮汲」の所以なんかどーでも良くなりますね。
さて、この留袖が、見る人を涼しくするのは、いつのことでしょうか。

ではおまけ、潮汲のお話です。潮汲は言わずもがなの「製塩作業」のひとつです。
上のお話しに出てくる塩の作り方は、まず桶で海水を汲んできて、
並べた海草に振り撒き、乾かして燃やして塩をとる方法。
塩田の場合は、平らなところにまずは水の滲みにくい粘土質の土で土台を作り、
その上に「砂」を広げて層を作ります。そこへ、海から桶に汲んだ「海水」を
わっせわっせと運んできて撒く。天日でじりじりと乾かし、
砂を水で流して「濃い塩水」をとり、それを煮詰めて塩をとるわけです。
舞踊などの潮汲み女は、烏帽子をかぶり、襲のお引きずりの着物・・
なんて姿ですが、もちろん、実際そんなカッコじゃ仕事になりません。
潮汲は、重い桶を天秤で担ぎ、暑くて足元の悪い砂浜を歩いて海水を運ぶ、
たいへんな重労働です。潮焼けもしたでしょうねぇ。


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9 コメント

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松風 (うまこ)
2006-07-14 21:27:02
グッドタイミングな解説ありがとうございました。いえね、実は今日、肉筆浮世絵展を見てきまして、簡単な松風の解説があって、全然わかんないんですけど・・・・と思っていました。これで、とてもよくわかりました。豪華な留め袖の写真とともに、古典の解説。なんだかすごく豪華な本を読んでいるようです。いつも感心しているのですが、今日は特に得した気分でした。ありがとうございました。
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Unknown (陽花)
2006-07-14 21:59:37
とんぼ様

固苦しく思っていた古典も

あらすじ・・・のように書いて

頂いたので覚えやすいです。



この留袖下前まで左右対称に同じ

柄が書いてあって豪華ですね。
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すご~! (百福)
2006-07-15 00:33:05
凄い~!惚れ惚れしました。絽にこれだけ描きこんである留袖は、ちょっとお目にかかれませんね。素晴らしいものを拝見させていただきました。目の保養です。有難うございます。是非お召しのお姿を拝見したいものです。絽の留袖は袷とくらべるとしょぼいなんていわせない、って感じですね。





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美しい・・・ (雪花)
2006-07-15 11:00:57
初めまして。

とんぼさんの審美眼と底辺の広い知識に感動して、今過去ログを少しずつ読ませていただいています!





私も昔着物が大好きで、手わざや美意識、洒落っ気にやられちゃってます。

しかし、先立つものが…(笑)

着物に関係ある文献は片っ端からしゃぶるように読み、古着屋行脚をして店主から様々なお話を聞き・・・と、なるべくお金を使わず浸るよう努力しております(笑)が、煩悩に押し倒されることもしばしば。

でも手元においてみてこそ分かることって多いですよね。



この着物も、ものすごい。

着用機会が少なくても、持っていて幸せになる一枚ですね
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Unknown (とんぼ)
2006-07-15 12:23:15
うまこ様

タイミングよくて、酔うございました。少しでもお役に立ててなによりです。ブログのお写真拝見しました。着物姿すずしげですー。後ろの「浮世絵のお姉さん}は思いっきり暑そうでしたが、あれ、ほしいですねぇ!



陽花様

絽の留袖ではハデなほうですね。それでも暑くるしくなくてステキですー。飾っておくだけで涼しげですが・・飾る場所がない・・。



百福様

細かいです、ほんとに。色が抑え目でも十分華やかですね。こんな手わざがもうなかなか見られません。



雪花様

こちらこそ、はじめまして。

「先立つもの」・・・それなんです!そりゃあイマドキのいい着物を買うよりは、ですが、それにしたって「あれもほしい、これもほしい」になったら・・。それでも、もう今はない、これからも出ない・・と思うといくらでもほしくなりますねぇ。煩悩とは、日々格闘技の世界です。「K-1」のKは「着物」のK?

これからも、少しずつアップ致します。よろしくお願い致します。



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これを見て、 (ぶり)
2006-07-15 18:14:52
この留袖を注文した人、プロデュースした人(呉服屋とか悉皆屋さん)、それと、実際に友禅描いた人を知りたいなーと思いましたけど、その当時の方々、さすがに、いらっしゃらないでしょうね。。。

今時、これだけのものを作ろうとすると、復元・復刻状態で、絵に遊びがなくなるので、面白みがなくなってしまうのが残念です。
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Unknown (とんぼ)
2006-07-15 19:21:39
ぶりねぇ様

この着物は四国からやってきました。まぁ四国から来たからといって四国のものとは限りませんが、たぶん、あの近辺の旧家から出たものではないかと思います。どんな奥方がお召しになったんでしょうねぇ。最近「復刻版」というじゅばんの柄や銘仙を見かけますが、テイストを残している・・といいうだけで、知らない人が見たら単なるモダン柄でしょうねぇ。
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縮緬 ()
2006-07-16 00:12:04
なかなか見ない柄行ですね。いいです、感動!



本日手付かずの蔵を丸丸ゲットしました。

縮緬は10枚ほど手に入りましたので近日中に出品予定!見にきてねぇ~~~。
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Unknown (とんぼ)
2006-07-16 00:36:42
桜様

プロの方にお褒めいただいて、うれしいです!



おおーっ、蔵!じっくり中を見たことがないんです。

祖母の実家にもあるんですけど、遠い~~。

むか~しチラッと覗いたときに「槍」があったっけ。

ちりめん、楽しみにしております。

でも・・高くなるんですよねぇ・・。
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