とりあえずトップ写真は頂いたもののうちのひとつ、名古屋帯です。
無地帯なのですが、刺繍がお太鼓部分と前にあります。控え目ですが。
地模様はこれも珍しい「鈴」です。
鈴柄は女の子の着物によく使われますが、染の着物柄だとだいたい大きな鈴の中に、
花や蝶など華やかなものが描かれているものが多く、それをつるす紐なども
図案の一つとして描かれていたりします。
鈴についてはこれまた昔書いているのですが、えーとざっくりと。
「音」というものは、太古の昔から動物が生きていくためには、大切な要素の一つでした。
獲物の足音や鳴き声、敵の襲来や仲間との交信、天候の様子(風や雨音)など、耳をすませて探ったわけです。
その後さまざま音のするものが作られ、「信仰」が始まると鈴は神様への挨拶や自分たちの存在を示すなど、
神事に使われるようになります。素材も自然の木の実などから、土、金属とかわっていきました。
今でもお土産などで「土鈴」というものがありますが、素朴で軽い音がします。
反して金属はリーンという澄んだ音色。あの音から「魔除け・魔きり」というイメージが生まれたのですね。
今でも神社に行くと、私たちは大きな鈴を鳴らして「ごめんくださいまし」とあいさつします。
だいたいリーンよりは「ガランガラン」の気がしますが。
また巫女さんが鈴を振りながら舞を奉納したりもあります。
鈴の音色は「神様へのご挨拶と魔除けのお願い」に使われることで、吉祥柄と言われるわけです。
これも過去に書いたことですが、鈴と鐘の違いは…
音を鳴らすものにさわれないのが鈴、鈴の中の玉にはさわれません。
鐘は手で振るものにしても、お寺や教会の鐘でも、舌(ぜつ)と呼ばれる金属片を、
胴体に当てて音を出します。舌はさわれますね。
では舌にあたるガラス棒がさわれる「風鈴」は、鐘の仲間なのになぜ「風鐘」ではないのか。
あの「音を出す部分」は、風がさわるところです。原則、人があれを触って音を出すものではありません。
まぁお試しにやったりはしますが…だから「鈴の仲間」なんですね。
さて、帯の話に戻りましょう。
織の帯は染の帯より格上ではありますが、織の帯でも金糸銀糸などで華やかな柄や吉祥柄を織り出したもの、
つまり留袖や振袖など礼装に占められる袋帯は、特に格の高い帯です。
織の帯でも、この帯のように無地で柄がよく見える帯は、それよりカジュアルに締められます。
地模様がよく見えますので、柄行によって紬や小紋など幅広く締められるのですが、
一色で面白みに欠けるところがあるので、あまりたくさんは見かけません。
ではこの帯は…お太鼓と前帯に、大きさとしてはちょっと遠慮気味の鶴ですが見事な刺繍です。
こうなると鈴も吉祥柄、そこに鶴、ですからおめでたい帯です。
こういうものは、刺繍を付けたということで、ただの無地よりちょっとランクアップ。
同じ小紋でも江戸小紋や吉祥柄の小紋、絵羽付け小紋などに締めると、
例えば初詣とかお年始の挨拶とか、そんなことにも使えます。
礼装まではいかないけれど、応用できるわけですね。
ただ、今の着物事情を考えると「使い道があるかな、むずかしいかな」という帯です。
絹としてもいいものなんですけどねぇ.帯以外だとタペストリーとかテーブルライナー?
この帯、これを締めた方の親御さんかはわかりませんが、いろいろ持たせる中で、
ちょっとおめでたいこんな帯も…と、わざわざただの無地帯に刺繍を頼んだのかもしれません。
つくりを見るとプロというより和裁の上手な人? 昔の人は、みんな和裁をやりましたからね。
鶴もただの白鶴ではなく翼や羽に華やかな色、神事に使われる色が入っていますし、
リクエストして刺繍してもらったものでしょう。
朱色系の帯は、柄にもよりますが40代50代でも着物を選べば締められます。
帯の格や着物との組み合わせも「これでなければならない」ばかりではありません。
訪問着には全通や六通の金糸銀糸のはいつた袋帯が最適ですが、
例えば名古屋帯でも、金糸銀糸を使いオシドリとか鶴や松竹梅など、
豪華で華やかな帯だったら、訪問着に締めてもダメではありません。
まぁ結婚式などは、避けたほうが無難ですが…。
一緒に頂いた袋帯は、オーソドックスな袋帯。
若い女性のものですね。なんとなく「あぁこういう帯あったなぁ」と懐かしくなる色柄です。
大きな亀甲に雲取り、花紋、五三の桐。この亀甲のピンクはもう少し年代が違ったら真っ赤だったかな。
こういうところにも流行があるんですよね。
振袖用の帯も、最近は淡い色や大きな花など、古典柄よりモダンな感じの帯が多くなっています。
着物に合わせて変わってきたのでしょうけれど、なんとなく落ち着かない気持ちになる私です。
帯は洗わないことが基本ですから、自分が締められなくなったらそのまま人に譲るとか、
そういうことしかできませんが、幅が変えられるという利点があります。
華やかだったら娘や孫の七五三用にもつくりかえられます。
我が家には「かつて丸帯でした」「かつて振袖帯でした」という華やかな帯から作り変えた
半幅帯が何本かあります。帯は締める部分と縁の部分が傷みますから、
傷んだところをカットして幅をせまくしたり、2本の帯から1本にしたりと工夫されています。
浴衣には向きませんが、おうち着物などにはちょっと華やかだったり古風だったりしていいものです。
厚地になりますから袷の着物用ですけれど、もともとが地厚ですからしっかり締まります。
古い着物が届くと、その着物の来し方を思うのはいつものことですが、
そのまま処分してしまえば、それでその着物の歴史は終わります。
大事にすれば、また形を変えれば、人と同じように長生きするものもあります。
来し方を思い、さらに未来を持たせてあげたい、そんなこといつも思っています。
さぁて、今回の和服さんたち、長い旅路の末私のところにやってきてくれました。
一緒に行く末を考えましょう。
今年は着物を着る機会が一度も無く過ぎていきます。
来年は家で着物を着る……出来たら良いな。
今の着物、帯との一番の違いは
色だなあと思います。
ぜひ、おうち着物から始めてください。
私も本格的に仕事を始めたら、
たとえ短時間でも着物で過ごそうと思っています。
ほんとにそうですね。
私の成人式のころには「パステメカラー」とやらがはやり、
みんなが薄いピンクや水色、クリーム色みたいな振袖が多かったです。
色もそうですが、柄とコーディネートもかわりました。
洋服感覚なのですね。私としては悩ましいことです。