トップ写真は、昭和36年のNHK「女性教室」テキスト本。
表紙のコートはあの「大塚末子先生デザイン」です。ちょっとヨダレ掛けみたいにみえちゃうんですが…。
先日の「和装のコート」のお話の続きで、今度は「どんなのがいいかな」のお話。
ほしいものはたっくさんありますわ。
まず、先日のお話を繰り返しますが、和装の場合の「着物の上に着るもの」の歴史は浅いです。
幕末まで女性が羽織を着ることはありませんでした。
羽織は洋装で言うなら「スーツの上着」「ジャケット」「カーディガン」など、
「部屋の中でも脱がないもの、脱がなくていいもの」です。
和装コートは、洋装の「ダスター・コート」「オーパー・コート」「レイン・コート」などにあたるもの。
近代になっても、実は和装コートは丈が長いもので、今の道行は「半コート」と言っていたようです。
というのが、まぁおおざっぱなまとめです。
道行は、その後一般的に一番よく着られる「コート」になりましたが、
そのほかには現在では、少しカジュアルタイプといわれる「道中着」があります。
ただ、コートはこれしかないのではなく「衿や前合わせの形でいろいろ」でいいのですね。
なんとなく感覚的に「道行は訪問着など」「道中着はおでかけ、旅行など」…
というような感じです。確かに、その目的に合わせて作ることが多いのですが、
実は、たとえば「道中着の形」であっても、丈を少し長めにして、素材の色柄、織りを選べば、
礼装の上に着られる道中着もあります。
私も一枚、膨れ織で丈の少し長めのものを持っていますが、訪問着の上でも着られます。
そのかわり紬の上には、ちと合いません。
また道行でも、染柄のものは、紬や小紋の上に着られます。
つまり道行→格上、道中着→格下…と、きっちり決めなくてもいいものなのですね。
道行タイプは、洋服のコートのように、前がまっすぐ合わさりますから、
なんとなくストンとした印象です。道中着は着物のように前を深く打ち合わせますから、
裾がすぼまります。なので、丈を長くするときは、前の打ち合わせの深さとか、
着物で言う「おくみ」のように別布を足すとか、紐のつけ位置に気を付けないと、
裾がやたらすぼまって、歩きにくくなります。
別の本ですが、こんなのがありました。薄手で、これはダスターコート程度でしょうね。
前の下の方のカットがステキだなと思います。こういうカットは、足が長く見えますね。(アタシ向きだ)
さて、そういうコートで今度は「厚手であったかいことを目的とする」なら、
大昔なら「綿を入れる」しかありませんでした。
それなら素材だけ厚手にして道行の形だっていいわけなんですが、
「防寒コート」というと、昭和30年40年代にはモッコモコ素材とか、
衿のとてつもなく大きいものだとか、衿だけ毛皮…なんていうものもでたわけです。
同じコートのはずなのに、防寒という目的のコートは、
結局独立した、別のカテゴリーのものになったのでしょうね。
船底袖のようにすれば、着物の袖丈を気にしなくていいとか、
袖の振りや袖ツケのアキをなくせば、風が入らず暖かいというのも、メリットですし。
いろいろな形の自由なコート、なのですが…道行や道中着、防寒コートには共通点が一つあります。
ひっくり返して言うと、ここだけが洋装のコートと違うところ。
それは「後ろ衿の繰り」、着物は女性の場合どうしても抜きますから、薄手のものを洋服のように着ると、
抜いた衿のところだけ、出っ張ってしまいます。昨日の母からもらったコートで試してみました。
洋服の上から着るようにすると、こんなふうに後ろ衿が出っ張ります。ノートルダムの…みたいですね。
もちろん、男性のように、あまり着物の衿を抜かずに着る着かたもできますが、
シャープな印象が強くなって、女性らしく柔らかい印象が目減りします…。
多かれ少なかれ「衿は抜いて着る」ことが原則の着物に着るコート類は、
衿に添うようにできていますし、その着方しかできません。
なので「うなじ」部分を暖かくするには、その上からショールをするしかないわけです。
その点をカバーするために、防寒コートは、衿を大きく作って、いざというときはうしろを立てたり、
また前を深くあわせることで、首まわりの寒さをカバーできる工夫がしてあったりします。
というより好きなカタチでいい・・・というものだったりするわけですね。
こちらは古い和装本のなかから…おもしろいのは、最初から「コートなんだから」と、
洋服と同じで、打ち合わせが着物とは逆になっているものがあること。
そこまでせんでも・・・とおもいますが、それだけ「コート」という名前に、
中途半端さを感じていたのかもしれません。
少し高くしたり、デザインによっては首の回りをガードするような形にしてありますね。
更に工夫して「マフラーをつけたような・・・」というものがありました。
参考スタイルなので型紙はありませんが、マフラーのような長方形の布を、
後ろ衿部分で縫い合わせて「衿」にしたようなカタチらしいです。
表紙に使った本にはこういうものもありました。上と似たような作り方かと思ったら、
こちらはマフラーは別仕立て。ボタンホールをつけて、ボタンをとめることで、
一体化したコートに見える…ワケです。
実際はこんなカタチ。
なかなかおもしろいですね。
作りたいというかたのために、用尺や型紙はこちら。
私は元々防寒コートというものを持っていませんで、いずれ母のをもらおう…と、
カクサクしていましたが、結局着る機会もなく、そのまま「ナシ」できていました。
そして近年買ったのが、もう何度か出しています「和洋兼用」の、このコートです。
男物紋付羽織のリメイクです。画像が暗かったので、明るくしたら白っぽくなりましたが真っ黒です。
羽裏の柄は当たり前でしたが、どんなふうにできているのだろ…と思って購入。
作り方は「ああ、そうかうまいことできてるわ」だったのですが、
実際これを着てみて「これはいいわ」と思ったのが「フード」でした。
フードをかぶってしまうと、後ろの衿がボコッと出て目立つということがありません。
それでも、フードを外すと、やっぱりこうしないと衿部分が飛び上がります。
しかもフードをしても、更に下にマフラーをするか、首の前を何かで押さえないと寒いです。ははは。
結局、着物の上に着るものは、防寒のためには上のような工夫をするか、
ストールをするか…なんですね。
昔の人はどうしていたんだろ…いえ、昔は髪を結っていましたから、今より衿は大きく抜きましたし、
最初から首周りをすっぽり包む上着なんてありませんでしたから、やっぱりストール様のものを、
髷の下に入れて肩にかけるか、北国ではフードつきと同じ原理の「角巻」なんてものを使ったわけです。
昔に比べて暖房も進化してきましたし、毎日通勤でもしなければ、オーバーコートタイプの和装コートは、
あまり出番がない時代ではありますが、やっぱり一枚はほしいですね。
ひとつストールを見つけました。これの長さを伸ばしたものが「マント」になりますね。
今日は長くなりましたので(いつものこっちゃ)、マントについては、まだ別に書きたいと思っています。
それにしても・・・雪のあとはピーカン続き…になってよぉ、曇ったら寒いってば。
だった反物がそのままになっています。
道行コートや道中着など上に着る物は
丈に悩みますね。
母の羽織もこのコートと同じ形に直して愛用していますよ。
袖がすぼまっているのがいいですよね。
作りたいなと思っていたので
参考になります♪
後身頃にダーツが入っているのが
お太鼓の厚みの為でしょうかね?
すごい!!!
田中千代って服飾専門学校設立の方ですね。
おもしろ~い!
楽しませていただきありがとうございます。
そうですよね。私は背が低いので、
よけいに羽織の丈とかコートの丈とか
気になります。
背はだんだん縮んでいきますから、
母のことを思い出すと「微妙な長さ」、
気にしなきゃなんて思っています。
たくさんはいらなくても、1枚はほしい…ものなのに、
「これっ」というのがさだまりません。
でも、なくちゃ困りますー。
母のコートがあったはず…と、欲を出しています。
着物のフォルムはシンプルだけど、
細かい気遣いはあるんですよね。
昔のこういう本は、今ではおぉっと思うような方が、
たくさん記事を書いておられます。
今やお宝です。
拙いブログですが、楽しんでいただいて、
私もうれしいです。
家の中と外の温度にあまり差がなかったので、
冬ともなれば、たくさん着込み、
たいした上着もなく外に出ていましたが、
今は街なかはどこも暖房完備、
着込んでお出かけなんぞしようものなら、
入った所で大汗かく、なんてこともしょっちゅう。
こんな調子なので、着物も薄着にして、
車のお出掛けは別として
どうしても寒い季節は厚手のコートが必要になります。
そんな時、一番困るのはやはり首回りですね。
襟周りの形から、どうしても、スカーフやショールがないと
恰好がつかない。
上の襟見本の方々もいずれも首回りが寒そう~
マントでもやはり襟周りが凸凹で、苦労してます。
今回試作したのはでっかい毛皮襟で隠す作戦で、
多少ましになったかな・・・・という感じですが、
次回マントの項を楽しみにしています。
数年前に洋服のコートで後身頃にダーツが
あったのです。
丁度上の製図の様な。
背中が膨らんで後ろ姿が
かなり不細工だったので
リサイクル洋服屋さんに出してしまったのですが
もしかしたら昔の着物コートの古着から
思いつかれたものだったのかなって。
そのコートから上の製図でお太鼓の膨らみは
ちゃんと出ると確信しました!
着物だと首が寒いな…と思ってついつい考えてしまいます。
冬はコートと幅広マフラーを併用してますが、この寒さでは羽織+コート+マフラーにしようかと考えたりしてます。
あと、袖から入ってくる冷気も何とかならないかと…肘までのアームウォーマー?を編んでみました。
もちろん、手袋と併用の予定です…。
コートの襟、いろいろあっていいですね。
今はこんなにいろいろは見かけないですが、頼めば作ってもらえるんでしょうか。
ちょっとロールカラーっぽいショールカラーとか、初見ですが、かわいくていいですね。
コートが普及し始めた頃は、いろいろな形があったんだなあと思います。
フード付きのコート、フード付きというのもですが、背中に羽裏が付いているのもびっくりしました。
おもしろいですが、ちょっとスタジャンとかの背中の模様みたい。
ちょっとふっくらしているのは、綿入れになっているんでしょうか?
着物用でも綿入れとかダウンとかあると暖かそうでいいですが、電車の中とかは暑いかも…。
私は以前『名和好子のきもの遊び』という本を見て、手持ちのキルティング布で道中着タイプのコートを作りました。一枚で暖かいので、重宝しています。(化繊わたなので浜松でしか通用しないと思いますが)
フォーマル用には地紋色無地の道中着がありますが、私は普段着ばかりなので、このキルティングコートか洋服用のフリースポンチョなんかがちょうどいいんです(^^;
いずれにしても衿は寒いのでストールかマフラーは必須ですが、昨年のユニクロのフリースポンチョがフード付き・ハイネックタイプの前ファスナーで、それだと首までカバーできて具合よかったです。(カジュアルにしかなりませんが)
コートは何着も持つものではないので、かえって妥協できないですよね。これから手に入れるなら、洋服にも兼用で着られるのがいいなぁと思うのですが。