先日出した写真、ほんとに悲しい汚れです。
同じ白や淡い色でも、ちりめんやお召しだと、洗うと縮みますのでねぇ。
伸び縮みしないものでの「洗い・お試し」に、あの白紬なら縮まないからと思いまして。
キレイに落ちてくれるといいのですが…。
まずは先に「汚れ」の写真を…。
衿です。残念ながら、共衿だけでなく本衿のほうまで汚れが浸透していました。
右が掛け衿、真ん中が本衿、左は汚れていない本来の地。
こちらは前身頃、縫い合わせの右側に薄い茶色のものが見えますが、
実はこれだけではなく、ここを含む周囲30センチくらいが、全体に薄黒い感じです。
この着物には、袖や胸などに、いわゆるお醤油が飛んだような、濃くてはっきりしたシミもあります。
今の私たちは、着物の汚れというと、衿、袖口、裾、それと食べこぼしたり飛び跳ねたりの胸あたり、
それに汗ジミ…汚れも衿だと洋服と同じ「着たための汚れ」と、ファンデーションなどの化粧品、
食べこぼしだと食品、裾だと擦れた汚れにドロハネ、汗はそのまま汗…。そんな感じですね。
ではこの前身頃の汚れはなんでしょう。
これっておそらく「座り汚れ」とでもいったらいいでしょうか、もちろんそれだけではないと思いますが…。
要するに「暮らし方の違い」で広がった汚れではないかと思います。
今は生活もすっかり洋風で、イスやソファが多用され、いわゆる「タタミにお座り」が減りました。
昔は「お座り」するのが多かったですから、この部分、座るときに手が当たります。
つまり座ろうとするとき、膝のあたりをなでるようにして、前裾がおさまるように、
変なしわがつかないようにしてから、ヒザをついてお座りしますよね。
この着物をお召しの方は、着物をよく着られていた方のようで、年齢的にもたぶん「和座敷」の多い家、
そして茶道華道その他にも、通じていた方だそうです。お座りすれば「手はおひざ」になります。
つまりこの場所って、和の暮らしをする場合、実は「一番さわるところ」なんですね。
そんなことで…とおもわれるかもしれませんが、たとえば何年も使っている男性のネクタイは、
結び目のあたりが一番汚れます。そこだけ色が変わったりしますね。
結んで、ノットができた部分を抑えて首を絞めるように、あららすごい表現ですが、
そうやって位置を決めておさめます。その同じとろこだけ、いつも手の親指と人差し指があたるから、
指の皮脂が毎日上塗りされてるわけです。
知り合いでとても高級な呉服を扱う呉服屋さんがおりますが、反物を広げるときは必ず白手袋。
あちこちのお店やお客様の前で、色柄を見るため、見せるために巻きを解いたり巻いたりする、
そのたびに皮脂汚れが付くから…と、徹底しています。手アブラはシミの元…と。
人間の体の皮脂は、保護のために常に出ています。そのときだけ洗ってもムダなんですね。
つまり、日々の暮らしの中で、立ったり座ったり、そのたびに右手でさらりと膝のあたりを触る…
お茶を飲んだりおしゃべりしたり…時には膝の上で何かを見たり、髪をちょっと触った手を置いたり…。
考えれば、座った時の膝は、テーブルと似た役をこなすわけですし、
更には座布団や畳に、直接前身頃が触るわけですから、イスの暮らしより、
はるかに膝の上下が汚れる確率が高くなるわけです。
これはそんな汚れだと思います。
色の濃い着物なら、たとえこういう状態でもわかりませんが、きれいに見えて、
水洗いすると、どっと水が茶色くなったりするのは、こういう汚れがあるからだと思います。
この方のお召し物は、私好みのとても素敵な色柄が多いのですが、
この白紬のように、いろいろダメージがあります。
だからと言って「構わない人」なのではなく、洗いに出したときのメモが付いているものもいろいろあり、
それには「○○、××シミ、△△ハネ」など細かく指示が出ています。
こまめにお手入れに出していたのですね。
今の暮らしで「洗濯」、というと、洗剤や道具がどんどん改善されて、
洗濯物は汚れがすべて落ちてこそ「きれいになった」と言える、
シミも薄くなった程度では、落ちたとは言えない…そんな風潮ですね。
毎日の服はほとんど、着たらすぐ洗濯機に放り込む…が多いです。
着物は全部が全部そういうわけにはいきません。
元々が「多少の汚れはあって当たり前」で着るものなのです。そうしかできませんでした。
だってシーズンで何回も洗うなんて、木綿や麻くらいのものでしょう。
少しくらいのシミは、あってもおかしくない…昔はみんながそうだったから。
大事なことは「そこにちゃんと手当がしてあるか」です。
だからベンジンや重曹、時にはさらし粉(塩素系のもの)まで家にあって、
こまめに衿汚れやシミなど、着たあとに取っていたわけです。完全でなくてもそこまでで素人はOK。
でも、今の時代では、シミも汚れもなくて当たり前…ですから、あっシミだ、着られない…。
もったいないですね。
もちろん、昔ここから先は、今度は汚れたところをカットして別のものにしたり、
丈を替えたりして切るわけです。
私がいつも「これはシミがあって着られません」と書くものは、その手当がしていないものと、
古いシミは、素人で落とすには限界があるから、そして、そこまで年代が経っていると、
シミだけではなく、全体の糸の弱りや布の弱りなどもあるから、等々の総合評価です。
以前、縫い直せば何とかシミは隠れそうだという着物について相談したところ、
隠せることはできるが、その前に着物が持たない…と、縫い子さんに却下されました。
それでも、生地全体が同じ弱り方ではありません。だからいいとこ取りになるわけです。
加工して小物にするなら、ダメージのあるところはよけて使えばいいわけですから。
今回、酸素系漂白剤、ということもやってみます。
長くなりますので、次回にしますが、洗剤というものを、よく知ること、
それは結果的にモノを大事にすること、につながると思っています。
お待ちしております
薄い色は汚れが本当に目立ちますよね。
綺麗になるといいですね~
かくことばかり長くなってます。
実験結果、きれいになりませんでしたー、だったら
これだけ書いてきてがっかりですねぇ。
全体きれいなのに、裾だけ薄汚れ…なんていうと、
ほんとにがっかりします。
なんとか少しでもきれいになってくれたら、
残すところがおおくなるんですが…。