ほばーりんぐ・とと

ただの着物好きとんぼ、ウンチク・ズッコケ・着付けにコーデ、
あちこち飛んで勝手な思いを綴っています。

小紋

2006-08-16 14:24:15 | 着物・古布

写真は「左・鮫小紋、右・桜柄のバカでか小紋」
こんなにデカくても「小紋」です。

小紋は「応用範囲」の広いもの、着物の着方の本などには、
「柄や色を選べば紋をつけて略礼装にもなれば、普段にも着られる
応用のきく重宝な着物・・」なんてことが書いてあったりします。
だからその応用範囲ってのがわかんないのよ・・ですねぇ。
実際小紋と言うのは多様です。まずは小紋柄ってなんなのか・・、
そこからいってみましょう。

元々型紙を使って柄を染めるという技術は室町あたりからあったようです。
大きい柄や中型があったことから「小さい紋様」という意味で
「小紋」と呼ばれましたが、やがてこの、複雑で細かい型紙を使って柄を染め、
地染めするものが「小紋」と呼ばれるようになりました。
小紋柄のルーツは「裃の柄」、つまり武家のいってみれば個人的マーク。
江戸時代には、武士は競って自分の紋を柄にしたものを染めた裃を着ました。
だいたい「家紋」のルーツは、平安貴族の「これは自分ちの牛車だよ」という、
個人用マークが始まりとされています。人と言うのはよくよく
「自分」と人とをきっちり区別したいものなのですねぇ・・。
結局だんだんハデになってきたのでお上が規制した・・ということですから、
戦が終わると人心はおおらかになるというか、ヒマになるというか・・??
で、徳川や前田など格の高いものは「定小紋」といわれました。
今でも、鮫・行儀・角通し、これは「江戸小紋の三役」といわれています。
「鮫」は一番眼にする柄、「行儀」は小さな四角がきれいに並んでいるもの。
「角通し」は、その四角が斜めに「行儀よく」ならんでいるもの。
このあまりにも細かい型紙は「伊勢型」といわれるもので、
錐で彫り出すのですが、江戸で作ることはできませんでした。
「伊勢の職人」によって作られたもので、今はこの型紙の後継者が育たず、
江戸小紋の危機・・といわれているそうです。
ちなみに下が、よく見る「鮫小紋」です。





さて、元は武士からはじまった「小紋」でしたが、
やがて庶民にもこういう細かい柄がもてはやされることとなりました。
こちらは武家の模様を使うわけにいきませんので、
身近なものや、縁起を担いだもの、シャレもの・・など、
実にさまざまな模様が生まれました。武家の裃から出たのを「裃小紋」、
まねて庶民から生まれたものを「いわれ小紋」といいます。
いわれ・・とはつまり「こういういわれがある」という模様で、
「宝尽くし」「干支文字」「松竹梅」「南天(難を転ずる)」
「笹に雀(相性がよいことから良縁)」など・・。
そのほかにも大根とおろしがねとか、道具尽くしとか、
また自然界からも題材をとり「青海波」「霰」「流水」など
それはもう、身近なものありとあらゆるものを柄にしていて面白いものです。

さてこの「江戸小紋」(実際に江戸小紋と呼ばれるようになったのは
ごく近年になってからですが、とりあえず便宜上江戸小紋ということで)は、
文字通り「江戸」で生まれて江戸で育った「色柄」、
あくまで「細かいこと」を信条とし、色は一色、それも渋め、
少し離れてみると「無地」のように見える・・というのが特徴です。
京都でこの「細かい柄」の型染めに、もともとの技である「友禅」を取り入れ
考え出されたのが「京小紋」、その影響を受けて「加賀小紋」など、
今度は「色鮮やかな小紋柄」が生み出されました。

今では「小紋」というのは「柄の大きさ」というよりも、
一般にその「柄付け」のことを言うようになりました。
つまり「絵羽柄・絵羽付け」に対して「小紋柄」ということです。
これは「柄に上下がない」ことをいいます。
着物は布を裁つとき、洋服と違って前身頃と後ろ身頃を分けて切りません。
前の一番下からずっと、肩を通って後ろの一番下までつながった一枚の布です。
そのため方向性のある柄、たとえば三角の柄を置いたとすると、
前は△になりますが、肩から後ろは逆三角形になってしまいます。
これをなくすため、型紙の中のもようを「連続」はさせるものの、
上下のないように交互になる形で置いたものです。
どんなに細かい柄でも、花一つの大柄でも、必ず上下が繰り返されていて
どちらが上、とはならないように染めてあります。
これは「繰り回し」をするのにたいへん便利です。
たとえば、着物の後ろ裾はヨゴレや擦り切れが起こりやすいところですが、
あまりひどくなったら、腰に縫いこんである「揚げ」部分を解いて切り離し、
腰から下を上下ひっくり返して仕立て直すことができます。
こうすると、腰の中にあったキレイな部分が裾にいき、
傷んだ部分は腰の中にはいってしまうというわけです。

小紋は前述の「江戸小紋」の場合は、背中に一つ紋を入れることで、
帯によって略礼装に使えますから、一枚あると便利なものです。
その他の小紋、これはもう利用範囲はたいへん広いのですが、
着るとき、それこそ「TPO」を考えて・・になりますね。
難しいことを考えなくても「洋服」になぞらえてみるとわかりやすいです。
たとえば「誰かと会って食事」などという場合、相手が誰なのか、
気心知れた同年代の友人、学校や職場の先輩、先生とか上司とかの目上、
同じ目上でも「身内」、男性女性の別・・そういったことで、
洋服でも着るものを考えて決めると思います。
目上の人で、職場関係・・というのにタンクトップでGパン・・はないでしょう。
着物も同じです。大きな柄がポンポンとんで、色も華やかポップな感じ・・
というよりは、少し落ち着いた色目を選ぶとか、細かい柄やおとなしい柄、
そんなふうにに考えればいいわけです。
洋服の場合は「これもファッション」といってしまえば、「これもアリか」と
ライン引きがあいまいになるというところがありますが、
着物の場合は形がみな同じですから、やはり色柄素材は大切です。
ちなみに、目上が小紋を着ているのに、自分は紬・・というのは
本来は失礼に当たります。小紋も紬も、着物全体から言えば
「普段着(礼装に対してお出かけ着、の意味の普段です)」では同格ですが、
「染め・織」でいうと、染めの着物のほうが格が上だからです。
つまり、目上が「小紋」を着ているのに自分は「紬」というときは、
相手がスーツを着てるのに、こっちはセーターにスカートでいっちゃった
と言う感じ・・。「格」をそろえる・・ということも礼なんですね。

あんまりむずかしいことを言うと「だから着物って面倒!」といわれそうですが、
失敗があってもいいと思います。わからないことがあったら、聞けばいいのです。
私の年代のように、親からいろいろ聞くことのできなかったお若い人は尚のこと、
いまから聞いて見て、覚えてください。
おでかけで着るものを悩むのはよくあることですが、楽しい悩みですよね。
着物も同じです、慣れてしまえば「小紋か紬か」と悩むことも楽しみになります。

さて、余談ですが、江戸小紋は江戸で生まれ、小紋柄が隆盛になって、
京都では友禅という華やかさを加えた型友禅「京小紋」が生まれました。
お互いに影響しあって、いろいろなものが生まれたのは、
昔からのことなのですが、日本では元々「なんでも発祥は西」というのが
多かったわけです。ひみこがどこにいたかはまだナゾですが、
大陸からの文化を受け入れてきたのは「西」です。都もなんどか移りましたが、
全て関西、京都に置かれてからは、明治になるまで「帝」は京におわしました。
元々「天皇家」は元をたどると「神」ということでしたから、
日本では、誰が政権を執っても「帝」を滅ぼすことはありませんでした。
江戸幕府が開かれて江戸は一大都市になり、政治の中心地でもありましたが、
それまでは、ただの葦原すすき原、田んぼ畑の片田舎で、
「東国は東えびすのむさい国」など、都人には僻地呼ばわりされていたわけです。
開府後大きな都市になって、江戸には江戸の文化がうまれましたが、
京都は元々古くから「文化」が育ち根付いていますし、確かに長崎や大坂など、
外国からのものはみな西を通ってきますから、京からきたものが江戸に届き
それを江戸好みに変えて自分たちのものとしてアレンジする。
そういう中から今度は「江戸はこれだーい」と独特のものも生まれたわけで、
何かと「京」と「江戸」は張り合ったり受け入れたり、
切磋琢磨しあったわけですね。
それでも帝が京にいる限り、アチラが上、だからたとえ将軍様でも
京都へ行くときは「上洛」といいました。京都は今の東京駅のホームと同じで
「のぼり」はなかったのです。みんなが京を目指して「のぼった」のですね。
ちなみに、さまざまなものが京を通して東に伝わってきました。
そういうものを「(京よりの)くだりもの」といいました。
京都で認められず、こんなのはだめー、つかえないよー、というものは
東へも下ってきませんでした。したがって今に言う「くだらない」は、
元々「くだってもこないしょーもないもの」・・という意味です。












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5 コメント

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Unknown (陽花)
2006-08-16 15:23:29
お母様先生に教えて頂きそして、勉強熱心な

とんぼ様ですからほんとにお詳しいですね。

それにしても「くだらない」て言葉がそういう

語源だったとは知りませんでした。

勉強になります。
返信する
生意気盛りには (雪花)
2006-08-16 22:05:43
「極鮫」が欲しいー!と思っていました。

1cm四方にいくつ穴があるのだったか忘れましたが、超絶技巧なため、今は型紙を彫れる職人がいないそうですね。昔の伊勢型紙を大事に使いまわしていると聞きました。

彫るための錐を作れる人もいないということなので、いつか途絶えてしまうのでしょうか。残念ですね。

私は大雑把なので弟子入りはできませんけど





小宮康孝さんの作品を見たことがあります。とても真面目で自由で、素敵でした。

買えませんでした
返信する
Unknown (とんぼ)
2006-08-16 22:16:32
陽花様

語源と言うものは、ときどき「えーっ」というような

おかしなものやびっくりするものがあります。

今度そんな話題もおもしろいですね。



雪花様

江戸小紋、私もいろいろほしいと思っています。

できればかぶとか大根とか!

大根買うようなわけにゃいきませんわなー・・。

小宮康孝氏、彼が「人間国宝」になったときに

「江戸小紋」という名称ができたのだそうですよ。
返信する
Unknown (さくらこ)
2006-08-17 11:36:49
うちには猫の江戸小紋がありまする・・・

狐があったから猫も彫れるでしょーと

彫ってもらいました。

返信する
Unknown (とんぼ)
2006-08-17 13:49:24
さくらこ様

「猫」の小紋・・「ねこもん!」かわいいっ。

あのしっぽをピンと立てた、あの小紋ですね。

遠くからだと無地に見えて、そばへ寄ったら

「あぁーっネコだぁ!」っていうの、楽しいですね。

江戸小紋は「よく見ると・・・だ」っていう

楽しみがスキです。それにしても、

ほんとに「型紙つくるなら今のうち」みたいな、

さまざまな分野での後継者不足、深刻ですね。
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