拓庵思考~妻との日々・映画と音楽の毎日

巴座ホーム社長の私的なつづれ織り【妻にだけ弾くギタリスト 猫6人の父になる】

ユートピア

2015-09-01 19:30:08 | 日記・エッセイ・コラム

息子は芸人の卵である。

今日も吉本のステージでライブを行っている。残念ながら彼のコンビのライブを観たことがない。たまに家に帰ってくるが、いつもの息子だ....今年の春に息子とふたりで函館に一泊の里帰りをした。

羽田空港に行く道すがら息子が珈琲を呑むことを始めて知った。酒も相当呑む。函館行きの搭乗ギリギリまで展望レストランで息子はイタリアンを食べながらお酒を楽しんでいた。私は、アルコールを何年も呑んでいない....もう一生呑まなくてもよいと思っている。体質に合っていないのか....年々、アルコールが弱くなっている。妻はいくら呑んでも酔わない。子供たちは皆、妻に似たのか皆 酒が強い。

私たち親子は会話がなかった時期はあまり無い。だから息子を里帰りに誘うことには抵抗はなかったが...どちらかといえば妻の勧めでもあった。芸人の卵なのでそれなりに多忙らしく、なかなかスケジュールが合わなかったが 「お前、明日 函館行くか?」という電話に「行く」と二つ返事だった。

ふたりで函館の街を歩いてみたいと思った時期もあったが実現するとは思わなかった。羽田から離陸すると、すぐに息子は景色を楽しんだかと思うと眠りについていた.....その顔はまだ幼く...幼少の頃の横顔の面影が残っていた。 「おい函館だぞ」 飛行機は函館上空を旋回しだした。息子は、またたくまに目覚めて飛行機の窓から眼下に見える函館の街の動画を撮りだした。「函館弾丸旅行の記念のブルーレイつくろうか」と私がいうと「いいねェ」と微笑み....実際 かなりの動画や写真を撮った。

函館空港でレンタカーを借りて実家に帰る道のりを息子に運転させた。今から考えると軽い酒気帯び運転だったと思うが...妻に似てまったく酒臭くないので私も忘れて運転させてしまった....助手席に乗り 息子の運転で味わう函館の漁火通りの景色はなかなかのものだった...

息子には函館に行きたい理由があった。私の母。つまり彼の祖母に大学を辞めて芸人になったことを自分の口で伝えたかったのだ。私の母は息子は大学生だと思っているので 来るたびにお小遣いやお年玉を渡していた....私の知っている母は偏見に満ち、体裁を気にする性格なので 『大学を辞める』とか『芸人になる』とか『離婚する』などというものには嫌な顔をするに違いないと私は確信していた。だから息子に芸人になるために大学を辞めたことを二年もの間、母にいうなと口止めさせていた.....

子供の頃からのイメージは消えるものではない....勉強のできる友達にはめっぽう優しく、学校で評判がよくない親などの同級生が遊びに来ると、はっきり顔に出して冷たくした母であった....いやな想いではまだまだ多々ある.....

妻がはじめて函館に来たときも上から下までジロット冷ややかな目線を送ったのを私は、はっきりと覚えている....妻は髪をブロンドに染めていた。当時は髪を染めるのは不良?といった名残りもあった時代だった....ちょうど松田聖子の傑作アルバム『ユートピア』が発売された夏で...その松田聖子のアルバムのジャケットと妻は同じ髪型だった....函館空港に黄色いワンピースを着て降り立った妻はとても可愛らしく髪の色がブロンドに光っていた......エアコンもない、パワステもないISUZUのピアッツアで迎えに行き、空港で妻を載せると有頂天な気持ちで実家へと向かうと......母から冷たい歓迎をうけた.....その夜 母に想いっきり文句をぶちまけた。「俺が結婚する相手になんだ!!」って感じでかみついたものだ.....懐かしくも苦い思い出だ.....(松田聖子の『ユートピア』のハイレゾ版はダウンロードしていないが松原正樹や吉川忠英、鈴木茂のギターを聴きたいからダウンロードしてみようかな.....『赤い靴のバレリーナ』なんかハイレゾ版で聴いたら鳥肌がたつかも......)

昨年、秋に『かぼちゃのおしるこ』というブログを書いた。妻と函館にいった時の話しだ。そのブログの母は妻の送ったスカーフやバッグや洋服に全身身を包み....楽しそうだった...という内容だったが....妻いわく『息子が行くのが一番。 嫁だの孫が行っても喜ばないわよ...』 まあ....ごもっともだと思う。

ただ息子にとって私の母は特別な存在らしく「ふたりっきりにしてほしい」との息子の要望で私は懐かしい函館の産業道路に繰り出し、ヤマダ電機函館店にテレビやブルーレイのデッキを買いに出かけた。母に綺麗な画像の動画や写真を観てほしいので最新型の50インチテレビとブルーレイ・プレイヤーを購入してプレゼントした。会社から動画編集用のパソコンを持って行って何本か母にその場で作って渡した。その後も私の孫たちの動画を編集して定期的に送っているが母はたいへん喜んでくれている。

息子は芸人なったことを告白したらしい....詳細はあえて聞いていない。「がんばりなさい」と笑顔で言われたらしい....私の考えすぎだったのか....いや....人間は簡単にかわるものではない....孫が函館まで行って「ばば....話しがあるんだ...」と言われ...ぐっときたのだろう...

長女の離婚に関しても、私は母に何年振りで手紙をしたためた。内容は『善いお婆ちゃんでいたいなら 口を出すな。黙って見守れ』というものだった。母は「心配して夜も眠れない」が口癖だった....その割には昼間によく寝てるのだが.....そんなことを言われたくないので転ばぬ先の杖をついてみた。

函館の街を息子と旅した。楽しかったのかといわれれば....妻と旅するときほど自分の気持ちは高揚しないのだが...いい思い出になったと思う...

私の息子は芸人の卵である.....