拓庵思考~妻との日々・映画と音楽の毎日

巴座ホーム社長の私的なつづれ織り【妻にだけ弾くギタリスト 猫6人の父になる】

ご祝儀袋

2015-10-13 14:28:55 | 日記・エッセイ・コラム

息子のライブを観た。

神田神保町にある吉本興業の小さいホール神保町花月は135人収容できる。私と妻は最後部の真ん中に開演時刻ちょうどに席についた。上演の時刻には、9割方は席が埋まっていた.....と、いきなり音楽が流れだしMCの女性芸人コンビのキスが流暢な幕開けを告げた。テレビでは観たことがない関西弁の女性のコンビのトークMCが子気味良い。面白いので何回も笑った....私は少し緊張していたようで....このMCのコンビのおかげで少しリラックスできた。

息子たちの紹介は単独ではなく、まとめて紹介された。息子たちの持ち時間は2分。7番目の息子のコンビのステージが近づくにつれ私はドキドキしてきた....6番目のコンビが終わり舞台が暗転した。暗転があけるとネイティブ・インディアンに紛した上半身裸の息子と、アメリカ・インディアンをイメージした布を巻いた息子の相方が手製の長槍(やり)を持ち座っていた。二人ともシャーマンのようなメイクをしている。

明るい照明の下で紫外線を浴びたことがない真っ白の息子の肌が、こっけいに映った。太ってもいないのに数年まったく鍛えていないので少し腹が出て、胸筋や腹筋、肩や腕の筋肉がまるでない肉体が笑えた....相方の子は眼光するどく。胸まで届く長い黒髪はウェーブが強く、布から出ている腕も日に焼けてたくましい。....ネタ自体はアフリカのインディアンをテーマにしていいるのだが恰好はアメリカのインディアンで....まぁ、観ている客も気が付いてはいないのだろうが....あっという間の2分が終わり舞台が暗転した....

ネタが終わり再びステージの上に立ちMCの女性コンビとの掛け合いトークの中で息子は『今日は知り合いがたくさんいて緊張して噛みまくりました』と『親が来ていまして』とは言わなかった。あっという間に終演時間になった。息子の友人もたくさん来ていたが、私はしばらく誰とも話しをしたくない心境になり、そそくさと神保町花月を出ると秋空は晴天で明るい太陽が自分以外の人たちを照らしている気持ちになった....私は日陰を探して三省堂書店の中をゆっくりと歩いた....気になる本がたくさんあったが手に取る気もしなかった....三省堂から吉本花月の入り口が良く見える...何回も来ている神田の三省堂だが、こんなに近くに吉本花月があることは知らなかった....劇場前にいる妻は出待ちの観客に交じって息子を待っている。

ゆっくりと妻に近づいていくと息子を想う母の顔になっていた.....妻は色々な表情をする。幼い少女のような顔にもなるし、勉強を教える先生の顔にもなる。妻のバッグにはご祝儀袋が入っていた。息子のために祝儀袋を買ってきて丁寧に筆字で『お祝い』と書いていた。中身の金額はあえて聞いてはいない。息子を想う妻の気持ちは深いはずだ.....息子を出待ちしている息子の友達や知人と御飯でも食べてほしいと思い、息子にお祝い袋を渡すために長い時間待っている妻の行動は実に妻らしい。

『わざわざ遠くからありがとうございます』と息子の友達たちに頭を下げられる妻は自然体である。私は息子の友達に頭を下げる気にはならない。さすがに仲の良い夫婦でもこの辺は考えが違うのである。だから一緒に子供たちの学校関係に行くのはいやだった。妻は明るく腰も低い。そして誰にでも優しい。私も明るいが腰は低くないし嫌いな人間は無視するどころかやっつけたい。妻は子供にでも孫にでも献身的だ...先日も妻は孫たちの保育園の運動会に張り切って観に行った。私は送り迎えまでならするが園内に入ってまで孫たちを観たいとは思わない。

吉本花月から私が出てから大分時間が経った...もう劇場の前には誰もいない....さすがに妻もあきらめた。『吉本って厳しいんだね....先輩芸人がでてくると後輩芸人がすごい大声で挨拶して先輩の前を通らないようにして出ていってるよ』....体育会でなかった妻は上下関係を経験したことがないから珍しいのだろう....私は大学体育会時代は泣く子もだまる少林寺拳法部だったので帝国陸軍のような上下関係は躰にしみついている....『少し歩こうか...』私と妻は神田神保町や御茶ノ水の楽器店やスポーツ店のある界隈をゆっくりと歩いた。『おなか空かないの?』妻から問いかけられたが....朝食から随分時間がたっているのに不思議とおなかが空かないのである...私も妻も緊張とある種の感激でおなかが満たされていたようだ.....

実は前日から東京入りして息子の舞台を観に行っていた。銀座8丁目にあるホテルから神保町花月まで行く車の中でだんだんワクワクしている自分の気持ちが席についてしばらくしてから緊張にかわっていった....そして神保町を後にする車の首都高速の中で感激に近いような波が静かにこみあげてきた....帰路の途中 川越いちのやで妻の好物のひつまぶしを食べによった。いちのやの席に着くや私は息子に長いLINEを書いた.....感激した気持ちや簡単な感想と...それと....

『ママがお前に立派なご祝儀袋を用意して、お前たち二人が出てくるのをいつまでも待っていました。友達が帰っても待っていたい様子だったけど、さすがにあきらめて帰路に着きました。お前には素晴らしい母親と素晴らしい友達がいる。今日は、とても良い日になりました。お疲れ様。』......しばらくすると息子から妻に電話があり待っていてくれたことへの感謝や実は親がくるので緊張してしまいいつもの力が出せなかったことなどを報告しいていた.....息子と話す妻は幸せそうだった....息子にはしばらく会っていなかった....

夜遅く息子から私に長いLINEが届いた。長い内容の中に『緊張して失敗してしまいました。 親には素晴らしいものを見せたかった。』と...実力を発揮できなかった後悔の念がつづられていた....息子も緊張していたのだ....演じる息子も観ている親も緊張していたとはなんともおもはゆいではないか....息子は更なる精進と努力することを誓ったうえで、また観にきてほしいと締めくくっていたが.....また時間がたったら劇場に足を運ぶつもりだ....今度は私もリラックスして楽しみたいものだ.....

芸人の息子の親として観る『キング・オブ・コント2015』は複雑な感情で観た。こんな気持ちになったのは初めてである。

私も妻も芸人の親になったのかな.....

 

 


コメントを投稿