今日はクリスマスですね

クリスマスの日にどうしても書きたかったshort storyを書いてみました。
興味のない方はスルーでお願いします。
「merryXmasの夜」
ハァーっと短いため息がまた出てしまった。今日はこれでもう何度目のため息だろう?
どうしてクリスマスイブの夜に、それももうすぐ11時を過ぎようとする時間になんでアルバイトの私が
仕事をしなきゃだめなの!言葉には出さない代わりに、ついため息が何度も出てしまう。
恵里の仕事はTSUTAYAに隣接する古本や中古のCD、それにゲームソフトの買取と販売などをしているのだった。
今日は12月24日クリスマスイブだ。本来なら恵里は昼間のシフトだったのだがアルバイトの同僚のアユミに懇願されて
シフトを変更させられたのだった。アユミは満面の笑顔で「ありがと~!お礼に明日はガストでご馳走するね」って、
いかにもルンルン気分でカウンターに入っていった。
なんで私がシフトをチェンジしなきゃいけないの!って心では思ったが実際のところ恵里にはイブの夜の予定は無かった。
予定が無かったゆえになおさら腹立たしかった。
そしてあと30分で閉店という時に、店の入口のオートドアがスーって左右に割れた。反射的に「いらっしゃいませー」
の声が出る。毎日毎晩のように使っている「いらっしゃいませー」は鳩時計が時を知らせるたび鳴く鳴き声と一緒だ。
いつもならこの時間にもかなりのお客さんでザワザワしているのだがさすがにクリスマスイブの夜、
聞こえるのは天井からのクリスマス用BGMだけだった。いらっしゃいませーの声と同時にオートドアへ顔を向けると
そこには30代前半と思える、髪を無造作に後ろで束ねた女性が笑みを浮かべながら恵里の脇を通り抜けていった。
その女性が向かったのはテレビゲームのソフトを展示している奥まった隅の方だ。
ほかにお客さんが居るわけではないので自然と視線がゲームソフトの方へ向く。別に何の意味があるわけでは無かったけど
なぜか視線を向けたくなってしまう。
というのも入ってきたその女性はサンダル履きなのだ、家がこの近くと言っても新潟の冬にサンダルは不釣り合いだ。
たしか店の前の駐車場は白くなっていたはず。それにコートを羽織っているもののどう見てもかなりの年代物らしかった。
だからという訳ではないが、気になってしまう。
何気なく目を向けた瞬間にその女性と目が合ってしまいなんとなく恵里は気まずかったが、その女性は入ってきたときと
同じように笑みを浮かべながら恵里の方へ近づいて来ると「また来ますね」と言ってオートドアへ向かっていった。
25日クリスマスの日、この日も恵里は夜のシフトだった。昨日の夜に比べたら今日はいくらか店内はザワザワとしていた。
いや、ザワザワと感じていたのはカウンターの隣でシフトをチェンジしてあげたアユミだった。
聞いてもいないのに昨日食べた食事のことやら、彼氏のことやらもう何時間も聞かされていた。早く時間が来ないかなと
カウンターの上に置いてあるデジタルの時計に目をやった、22時55分と表示していた。
ハァあと1時間か、あと1時間もアユミのにやけた笑顔に付き合わないのかと思うとまた腹が立ってきた。
そういえば昨日の女性が来店したのは午後11時半頃だったろうか、帰り際に「また来ます」とは言ってたけど
いつ来るんだろう。あの時間にテレビのゲームソフトを見に来るって、どう見てもゲームにはまっているような人には
見えないし。
そしてお客さんが誰も居なくなった閉店15分前に店のオートドアが開いた。「いらっしゃいませーこんばんはー」といつものように
反射的に声が出る。と同時に見覚えのある顔が、いや見覚えのあるのは恵里だけだった。
その女性は昨日と同じように笑みを浮かべながら恵里に軽く頭を下げた。恵里もまた反射的に笑みを出して頭を下げた。
昨日と比べると今日はいくらか足早だ、そうか昨日はゲームソフトの下見に来てたんだ!
その女性が奥のコーナーから抜いて大事そうに両手で持つのが見える。そのコーナーに現品で置いてある物はもうほとんど売れない
ゲームソフトで人気のある新型のソフトはカードにして陳列して万引きを防止してあるのだった。
それを見て恵里は「あれ?いまどきあんなソフトを」とは思ったが考えるのを途中でやめた。
恵里とアユミ、カウンターに二人並んで立っていたが、その女性は恵里の方へ立つと「これラッピングしてもらってもいいですか?」
と笑みを浮かべてはいたが少し照れくさそうに言った。カウンターに置かれたそのゲームソフトはいまでは懐かしいくらいの代物だった。
スーパーファミコンよりも前のファミコンと呼ばれた世代の四角い箱状のものだ。それも貼られたラベルが霞んでところどころ消えかかって
いるものだった。値段を示すシールには¥180と印字されている。
カウンターをはさんで一瞬沈黙があった。「はい。クリスマス用でいいですか?」と恵里が女性に聞くと「はい。」と
嬉しそうに答えた。赤と緑のラッピング用紙で包装するあいだ恵里は昨日の女性のことを考えた。
我が子のためのクリスマスプレゼントを買うために昨日は子供が寝たあとに下見に来たのに違いない。それとこの時間に、閉店ギリギリに
来るにも恵里には理解できた。となりで立っているアユミは180円のゲームソフトをラッピングしている恵里をいぶかしそうに見つめている。
最後に金と銀とが混じった赤色のテープで綺麗に結び上げると星の形をしてmerry Xmasと書いてあるラベルを貼った。
代金を受け取ると恵里はいままで出したことが無いような「ありがとうございました~。気を付けてお帰りください」と声を掛けた。
その女性は綺麗にラッピングされたゲームソフトを受け取るとうれしそうにお辞儀をして足早にオートドアから出て行った。
きょとんとしているアユミの脇で恵里はなぜだか知らないけどうれしくて仕方がなかった。「こんなクリスマスもあるんだ!」
ほんの1時間前までは「なんで自分だけ!」なんて思っていた自分が情けなくなって思えてきた。
「いいよ。来年もクリスマスにはシフト代わってあげるからね。merry Xmas!」
以上長々とお付き合いいただきありがとうございました
フィクションかノンフィクションかは読んだ方のご想像で

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