長旅のまえに

好きなだけ、存分に、思ったまま、怒涛のように書こう

社食

2023-12-20 11:04:34 | 日記
一つのビルに関連会社が集まっている。
社員食堂は一つだ。
パートのおばさんたちは賑やかに噂をばら蒔く。

お気に入り君もいるしキラワレ子ちゃんもいる。
おばさんたちのお気に入り君はキラワレ子ちゃんと恋人同士だった。
みんな、それぞれに大人だからドラマにあるような嫌がらせなんてしない。

お気に入り君はクリスマスにプロポーズをしようと決めていた。
実は去年も一昨年もそう決めていたのだ。
指輪を握りしめて今年こそはと眠れない夜まである。

おばさんたちは今年も失敗すればいいと願っていた。
なぜ?

彼女は悪女系ではない。
ただちょっと暗い。人馴染みしない。
仕事が好き。
一人が好き。でも彼女なりに恋人を愛してる。
おばさんたちの許容範囲を越えていた。

3回目のプロポーズはどうしても結婚は無理だと彼女に断言されて玉砕。
ボロボロにやつれていくお気に入り君をため息混じりに見ながらおばさんたちは「これでいいのよ」と胸を撫で下ろしていた。

やけになったのかお気に入り君は合コンを繰り返して結婚した。
保育士の彼女は明るくてデートをしていても楽しいらしい。

「一流企業のエリートだもんね。絶対に逃がさないって執念だよ。
けどさ、そのくらいの女の方があの子には合ってるよ」

意地の悪い言葉と先を読む優しさ。
社員食堂にも小さな歴史が積み上がって行く。


鶏小屋のなかで

2023-12-20 06:57:06 | 日記
岩手にね、よく見りゃ悪くもない顔だちだけどちょっと頭が弱い女がいてね。
その女が村の荒くれものとくっついちゃったのさ。
男は騒ぎを起こしちゃ刑務所行きでね。
出でくると子供を拵えてまた刑務所さ。

女はね、働くってことを知らなかった。
戦後のどさくさだし福祉なんてありゃしないよ。
増えてく子供を連れて赤ん坊を抱いて食べ物を恵んでもらいながら生きてた。
東京じゃ出来なかったかもしれないね。

ある時、冬なんだけどね。
荒くれ者の亭主が出所してきたら女房は子供を抱えて鶏小屋で震えてたのさ。

亭主はね、その姿をみて改心したんだよ。この女は俺がどうにかしなきゃダメなんだ。
鶏程度の頭しかないんだってね。
日本の復興期だからね日雇い仕事はあったさ。

銀座のホステスはさ、みんな自分が頑張っまうんだよ。
家族を支えなきゃ、私がどうにかしなきゃってね。

まあ、雪の鶏小屋で震えてるなんて私にはできない。
でもね、思うんだよ。なんにもできない方が得かななんてね。
守るより守られる方がいいなって。

叔母の思い出話を私も時々、思い出している。