長旅のまえに

好きなだけ、存分に、思ったまま、怒涛のように書こう

横浜からの女

2023-12-22 14:56:41 | 日記
ある日、一人の女が横浜からやって来た。
女は美しい少女と一緒であった。
大森山王の家を借りて暮らし始める。

下町女は井戸端会議も好きだ。
「あの女は横浜の元芸者だよ。でもってお武家の出だね。毛筋一本乱れやしないもの」
「お母さんなんて呼ばせてるけどあの女が産んだ子じゃないよ」
「おおかた、震災の火事場ででも拾って養女にしたんだろうよ」

だが誰もそれ以上は探れなかった。
少女はお母さんに絶対服従である。
新橋で半玉としてお座敷にでるようになった。
水揚げの相手は財界の大物。

いくら美少女とはいえ置屋も構えていない女のコネの力はかなりのものだ。
鵜飼いの鵜のように女は少女を操った。

女があてがう旦那はすべて大物ばかり。
「ちょっと聞いた?今度の旦那は総理だってよ」
下町女たちはいろめきたつ。

色恋というよりあの頃の男たちは名うての新橋芸者を囲うことが名誉だった。
舞の名手でもあったのだ。
彼女は恋をした。
惚れた役者の子どもを産んだ。

けれど女は許さなかった。
赤ん坊はいつの間にか里子に出されたのだ。
お座敷から戻ってきたらすでに赤ん坊の姿が消えていた。

横浜から女とやってきたときと同じように反抗もせず黙って耐えた。
「金にならない赤ん坊なんて要らないからね」女は言ったそうだ。

誰も知らない女の人生は過酷だったのだろうか?
美少女に愛情は持っていたのだろうか?
わからない。





古山子

2023-12-22 13:03:03 | 日記
2016年韓国映画「古山子」を観終える。
1800年代の韓国の地図を作り上げた男の話だ。
伊能忠敬も1745年生まれだから被る。

同じ国ではないのに同じ情熱に突き動かされる人間が同じような時期に生まれてくる不思議。

映画が一つまた一つと私に新たなる視点を教えてくれる。
キリスト教徒の弾圧は日本だけではなかったんだ、考えてみればそうだろうな。

アシカの密漁をする海賊とは日本人であったこと。
その海賊の衣装が私から見るとチグハグなこと。
信長の茶せん髷と若衆髷だし。
でもこれは世界中の映画の中で起きているチグハグさだろう。
世界はいともそれぞれ身近になったとも言えるのかもしれない。

地理の授業は好きではなかった。
緯度だのなんだの数学かいと煩わしかった。
仕方なく集中して地図を見るようになったのは30代で免許を取ってから。
1800年代の徒歩旅行ともなれば命懸けで地図を見たことだろう。

展開が早く飽きさせない脚本ではあったが韓国で地味な映画と評されたのも頷ける。
私はこの手の「地味さ」が嫌いではない。
ただ誰かと連れだって行くのなら確かに地味かな。
「三食ごはん」のバラエティーが好きな人とならいいけど。





後生楽

2023-12-22 08:32:40 | 日記
私が貰い子だってのはずいぶん、小さい頃からわかってたよ。
女ってのはお喋りさ。
「お母さんはよくしてくれるかい?」
「かわいそうにねぇ」
そう言うのさ。
男は黙ってる。
だからって男が偉いってんじゃないよ。
自然界はそんなバランスで成り立ってるのさ。

反抗期になって親子喧嘩をしてると「実の子じゃないからね」って言うのさ。
おまえんとこも大喧嘩してるだろ?実の子なのにさと怒鳴り付けたかったよ。

40の時お袋は亡くなった。
カボチャを煮てるたった10分そこらの間にさっきまで一緒にお茶を飲んでたのにだよ。

近所の年寄りが「後生楽な死にかただよ。幸せだね、良かった良かった」と言ってたのが許せなかった。
ほんとの娘じゃないからさっさと片付きたかったんだろうと言われてる気がしてね。

お袋が重くてしんどくて逃げたいと考えた時もあったさ。
けど実の親子だって家出したりなんだりってあるじゃないか。
私はお袋が好きだったよ。
「血」にばっかり世間様はこだわるけどね。

まあなんだよ。確かに私はお袋の従姉妹の娘だから同じ貰うなら血の繋がりがあるほうがいいって単純なお袋は考えただろうさ。

近所の年寄りの言葉も今は素直に理解できる。
寝込みもしないであっさり逝けるのは幸せかもしれないってね。
けど私はお袋にもっと長生きしてほしかったんだよ。