弁護士辻孝司オフィシャルブログ

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台湾訪問記その9・死刑制度廃止検討委員会視察 2019.9.2.-9.4 -錢建榮裁判官

2019-09-18 18:34:25 | 日記・エッセイ・コラム

死刑廃止連盟との懇談の席に、現役の高等裁判所裁判官である錢建榮裁判官も加わってくださいました。

現役裁判官が死刑廃止、つまり現行法について批判的な意見を述べることは日本では考え難いことです。

そういう日本の事情もよくご存じのようで、

「私の知る限り、日本よりも、台湾の裁判官の方が言論の自由が議論されていて、自由に発言することが出来ると思う。

日本では、SNSでいろいろ発信した裁判官が懲戒されたと聞いたが、台湾ではそういうことはない。

台湾は、裁判官も割と自由なのだと思います。」とお話になっていました。

もっとも、地裁の刑事部の裁判官だったときには、「死刑廃止」と言ってしまうと忌避されてしまうので、公開の場では言えなかったということです。

それは確かにそうですね。

 

錢裁判官が死刑は廃止と考える理由は、国家による殺人は許されないということのようです。

死刑は制度ではない、国による殺人である。

法律(刑法)では人を殺してはいけないと定められている、それにもかかわらず、国は殺していいというのはおかしい。

人にはそれぞれ価値がある。

これまで裁判官として30件以上の殺人事件を担当してきたが、殺さなければならないと思った被告人は1人もいない。

  

同僚裁判官とどうして死刑判決を下すべきか?と議論したら、「法律があるから下す」という答えが返ってきた。

裁判官であっても、人権、個人の尊厳、価値について考えることが少ない、もっと考えるべきだとお話になっていました。

日本の裁判官も多くは、この「同僚裁判官」と同じような感覚で死刑判決を下しているのだろうと思います。

 

台湾の最高裁や裁判所の死刑についての基本的な傾向についても教えていただきました。

台湾では2013年に死刑について最高裁判決が出た(尤弁護士の事件ですね。)。

それまでは「教育可能性がない」というあいまいな基準が死刑の理由になっていた。

ところが、2013年の最高裁判決で、死刑事件の口頭弁論が必要的となり、死刑の適用基準として10個の要素が示された。

それらの要素を検討して、どうしても死刑にしなければならないのかを考えなければならないとされた。

以前の更生可能性(教育可能性)という基準の時は、医師に依頼して鑑定して判断しており、本来、裁判官が判断すべき死刑の適否を医師に委ねてしまっていた。

そもそも更生可能性などということは、刑法の定める量刑要素の中にはなかった。

人間なら必ず更生可能性があるのであるから、更生可能性など判断基準にならない。

刑罰の目的は応報と一般予防と特別予防、更生可能性がないことを理由に死刑を適用することは刑罰の目的を否定してしまう。

 

錢裁判官は、台湾の裁判官の中でも特別な存在であり、貴重な存在なのだろうと思います。

冒頭に書いたように錢裁判官は、現役の裁判官です。

現役裁判官が、死刑廃止という法律の適否に関する自分の意見を公にして、なお高裁の裁判官を務めていられるという、台湾最高裁の許容性が素晴らしい。

日本の裁判官も、もっと政治的な意見、政策的提言をしてもいいし、

裁判官がどんなこと考えているのか、どんな人なのか、どんな生活をしているのかを発信してもいいのにと思います。

白ブリーフ裁判官も頑張って!

 

 

 


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